「詩織ちゃんさ、風邪ひいたんだって?大丈夫?」
「……そう思うなら即刻帰れ」
自室のベッドで眠っていた私の元に現れた臨也は何がそんなに面白いのか知らないが、にやにやと口許を緩めて笑っている。そんなに私が風邪をひいたことが嬉しいのか、面白いのか……どちらにしたってこっちからすればその反応は不愉快でならない。
純粋に心配されれば嬉しいが、臨也にそんな人間染みた心が残っているとも正直思えないのだが。
「辛そうだね」
「……当たり前じゃないですか」
ごほごほっ、咳が出る度喉の痛みが増していく。
こんな状態で臨也の相手などしている余裕はない。早く風邪を治さないと、一番自分が辛いのだ。
「看病してあげようか?」
臨也の口からぞっとするような台詞が飛び出す。思わず背筋に嫌な汗が伝う、視線だけ臨也に向けるとやっぱりにこにこと笑うばっかりで何を考えているか解らない。
「頼んでもして貰いたくない」
思わず本音が出た。
「つれないね」
当たり前だ。
「誰かにうつせば治りは早いって聞いたんだけど」
今度は全身の毛穴から嫌な汗と、嫌な予感と、身の危険を一斉に感じる。
「自力で治すから早く帰って…!あ、ちょッ!」
「ん?なぁに?」
余裕綽々といった風に臨也がベッドの上の私の上に覆いかぶさる。鼻先が触れるすれすれの距離に臨也の無駄に綺麗な顔が見えて、様々な感情を含んだ息を私は飲み込む。
「詩織から貰う風邪なら喜んで受け取るよ…―――?」
「そんなこと頼んでなッ…、ぅんん゛!!」
もがく力もほぼ残されていない私に、臨也は容赦なく唇を塞ぐ。勿論それに驚く私は可愛げのない声で、必死の抵抗を試みる。しかし臨也が引きさがる様子は無い。
風邪には御用心
(ばか、本当にうつったらどうすんのよ…!)
(その時は看病してね。俺がしたみたいに、さ)
(誰がするか!)