愛されたい。

ただ、愛されたい。

生命の一つとして、動物として、人間として、女として。
無条件に愛してくれだなんて言わない。私は私の全身全霊をかけて貴方を愛すると誓うから、貴方の愛を少しだけ、少しでいいから私に分け与えて欲しい。


そうすれば、私の愚かな魂は満たされるから────










「っ……、」


唇の隙間から吐息混じりの、濡れた声が漏れる。それだけで私の気分は高揚し、欲望が掻き立てられる。
絡まる舌が、混じりあう唾液が、重なる唇が、それら全てが漸く私の欲望を徐々に満たしていくのを感じる。しかしまだ足りない。これだけでは満足できない。

不意に、唇が離れたところで私の思考は強制的に途切れる。しかし物惜しい感情が自我を取り戻すと、迷わず私は臨也の薄い胸板に頬を寄せていた。


「───…詩織ってば貪欲過ぎ、」
「……知ってる」


近くなった臨也の鼓動がよりよく耳に届く。とくんとくんと鳴る心音は至って平常だった。私はと言えば、ばくばくと五月蝿いったらない。私には無くて、臨也に有る余裕が少しだけ悔しい。


「でもそういうところが人間らしく滑稽で、醜くて、愛しいよ」


臨也は蕩けるような甘い声が耳から脳へと浸透する。これが私の最上の麻薬なのだと、言える。先程感じた悔しさも全て忘れられるような、そして尚且つ報われるような錯覚にさえ陥る。全てはまやかしに過ぎないというのに、私はそれを求める。だからこれは麻薬なのだ。私だけに有効で、私の為だけに存在する。

麻薬だ。

臨也の全てが私にとっての全てだ、生き甲斐だ、生きる意味だ。
貪欲で、狡猾で、どうしようもないこの重苦しい愛情を臨也だけが受け止めてくれる。


これは、

不自然に、
歪んだ、
異常で、
行き過ぎた、

愛情だ。


「私も臨也のことが好き、愛してる…、好きでおかしくなりそう」


この人だけが、こんな私を愛してくれるのだ。受け入れてくれるのだ。
例えそれがどんな形であれ、ここにこうして言葉で身体で表現されているのだから、それで構わない。心の奥底で臨也が何を思い、考えているなんて私の知ったことではない。そんなところを疑ったって無益だ意味が無い。無駄だ。


幾度も幾度も壊れたように愛を囁く私に、臨也は静かにほくそ笑むだけだった。

そうして臨也の細い指が、肌を這うように服の裾から入り込み胸の膨らみへと達し徐にそこを鷲掴んだ。微弱な痛みに身体がひく、と震え濡れた吐息が零れた。臨也は私の反応だけを一瞥すると、舌を頬から首へと滑らせ乱暴に噛み付いた。そしてそこに出来たであろう傷を撫でるように舐めてくる。


「そう改めて言ってくれなくても知ってるよ、詩織のことなら何でも」
「い゛……、あッ」


傷口に食い込むように犬歯を宛がわれ、深くそれが刺さる。鋭利な刃物とは違いすんなりとそれが肉を抉ることはなかったが、これだけでも十分に痛みは感じた。
傷口を好きなだけ弄った臨也は顔を上げて、歪む私の顔を覗き込むと何処か満ち足りた笑顔を見せてまた傷口を抉った。


「何を見て愉しいのかも、悲しいのかも、文字通り総て」
「痛ッ……いざ、やっ」


私の中にある自虐心が歓喜の声を上げるが、激痛がそれを邪魔をし、無意識に腰が逃げる。しかし、それでも臨也はお構い無しといった風で言葉を連ねた。


「今は痛くて仕方ないだろうけど、時期に悦がるから今は精々この痛みを愉しむといいよ」


臨也は空いていた片腕で腰を抱き、私が逃げられないよう拘束した。


「ねぇ詩織、今日はどうしよっか」






愛情欠乏症




(溢れるほどの愛を、私だけに注いで―――) 

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