「し、しししっ、静雄!?」
「んぁ?」


やたら吃りながら名前を呼ぶ声に振り向いてみれば詩織が、文字通りとても慌てていた。一体何に慌てているのかは知らないが、俺は今絆創膏か瞬間接着剤のどちらが傷口を塞ぐのに有効な手段なのかを考えていたところだった。


「ああ、詩織か。俺は今忙しいんだよ、用事があんなら後で電話掛けてくれ」


詩織のすぐ横を擦れ違い、ひらりと左手を振ってその場を離れようとした時、右腕を全力で抱き留められた。
柔らかな感触が腕から直に伝わってくる。この状況は本来なら喜ぶべき所なんだろうか、今にも泣き出しそうな顔を見せられて不純な考えは頭から一掃された。


「静雄が毎日腐るほど喧嘩して怪我をするのは知ってるよ?今日はどんな経緯でこうなったのか聞いても今更びっくりなんてしないけど。でもでもっ、足と掌にボールペン刺したまま平気そうな顔して歩かないで!」
「だってあんまり痛くねぇし、抜いたら血が出んだろ」
「痛いし血も出るよ!でも瞬間接着剤は絶対ダメ!」
「……なんでんなこと知ってんだよ」
「静雄が考えそうなことぐらい私には解るんだから!ねぇ、今すぐ新羅の所行こう?」


わざわざ?と次いで出そうになった台詞を押さえ込む。心配してくれるのは有り難いが、本当にわざわざ医者に行くような怪我ではないと俺は思っていた。だからって詩織のことを無下に出来るほど、俺はこいつを良く思っていないわけでもなくて。


「あいつは忙しいだろ」
「忙しくったってそんなの知らないわよ。私が診ろって言ったら診なきゃなんないの!」
「…お前って時々かなり横暴になるよな」


俺みたいな人間に関わっていたらこうなるのも仕方ないのかもしれない。


「ほら早くっ……て、歩かせちゃ駄目よね。タクシー呼ぼう!タクシーなら座るだけでいいし」
「だから歩けるから」
「歩けたって駄目!」


これだけ俺に対して強気に出られる奴は、男だってそうそういるものではない。少しでも心配してくれている、それだけの事実なのにむず痒い。

だが、こういうのも悪くはない。



強引マイウェイ




 

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