結局その日は中禅寺君と話をすることができなかった。当然と言えば当然の結果だ、嗚呼本当に自分は何てことを言ってしまったんだろう。
あの無言の重圧感を、きっと私は生涯忘れることはできないだろう(あと自分の馬鹿さ加減も)。


「うへぇ。あの中禅寺先輩にそこまで言う人なんて、会長以外じゃ名先輩ぐらいですよ」
「あの奇人変人と私を一緒にしないで!」


言ってしまったことは今更取り消せないのは解っている、だから尚更悔しいし後悔もする。
しかし自分の思うがまま動く自由過ぎる会長と一緒くたにされるのは癪だった。それを否定するのについ声が大きくなってしまったが、普段から鳥口にはこういった態度で接しているからこれといってこの後輩は動じない。

鳥口守彦は私の一つ下の学年で、趣味が講じて写真部に所属している。私はその写真部の部室で部員でもないのに時々こうして屯っている。


「奇人変人って…、もしそんなこと会長の耳に入ったら先輩大変なことになりますよ?」
「もう私は大変なことになってるの」
「そりゃそうかもしれませんけど……」


苦笑を浮かべる鳥口に対して強がった台詞しか口にできない。今は目の前の問題を解決したい気持ちで一杯で、会長がどこぞに入り込む隙など微塵もない。



「兎に角さぁ、中禅寺君だって悪いのよ?なんだか最近変に余所余所しかったし。話しかけても素っ気ないって言うの?そんな感じ」
「あの人って普段からそんな感じじゃあないですか」
「そうだけど……、でも何となくいつもとは違う違和感があったの。あー、何か私しちゃったのかなぁ」


思考の泥沼に嵌ってしまったようだ。考えても考えても何も思い浮かばない。

何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったんだろうか。気付かないうちに傷つけるようなことを口にしていたのかもしれない。

私はそんなに無神経だったのか


「無理。もう無理よ。死んで詫びるしかないわ」
「うへぇ。何物騒なこと言いだすんですかぁ」
「心配しなくても本当に死んだりしないわよ。馬鹿ね」
「相変わらずの毒舌で」
「うるさい」


ぷいと顔をそっぽに向ける。


「はぁー…っ」


そして大きな溜息を零す。
どうにかして、この胸のもやもやも一緒に落ちてしまえばいいのに、しかしそう上手くはいかない。

机に上半身を乗せるように突っ伏していると、そんな私を見た鳥口はぽつりと呟く。


「先輩ってもしかして」
「なによ」


ぶっきら棒な返事。


「あー、うん。でも間違ってそうだしやっぱいいです、忘れて下さい」
「気になるでしょ。言いなさいよ」
「いやー、あー」
「男のくせにうだうだ言わない」


自分から振っておいて、渋る。こっちからすればそんなのは生殺しに近い。

だから言いなさいと強く促した。


「じゃあ言いますけど、───好き、…とか?」
「スキ?って何が」
「先輩が、」


そう言いながら、人差し指を私に向ける。


「中禅寺先輩をです」
「……は?」


何故か動揺した。
どうしてかは解らない。


「だって凄く悩んでるし。先輩って女の人の割にさっぱりしてるじゃないですか。こんなに誰かの為に悩んだりしなかったじゃないですか今まで」


一瞬聞き捨てならない台詞が混じっていたが、愚痴を聞いてくれた礼として聞かなかったことにしてやろう。
だがしかし、次いで出てくる言葉が衝撃的で口許の筋肉が不自然に引き攣っていくのが解る。


「と、鳥口くん冗談はよして。そんなワケないでしょ、だって友達だし―――今は違うかもだけど」


と否定してみたものの。
鳥口が指摘したことも指摘したことなのだ。百歩譲って、引き金は私の素行の悪さだったということにしてみても、避けられているなら無理に関わるべきではない。もうそうなってしまえばそれはそれで仕方がない、人間誰しも相性がある。と普段なら諦める。
必要があれば私は今までそうしてきた。


なのに、今の私はどうだ?
何故、ここまで必死になっている―――?


「ありえない、」


そんな


「まさか」


こんなかたちで

自覚するなんて、
気付くなんて、



心が苦しい。
ばくばくと胸の辺りが五月蝿くて、鳥口が何か言っているのによく聞こえない。

ああ、耳鳴りまでしてきた。


(私は中禅寺君を好き、かもしれない)


そう心で呟いて一層胸が苦しくなった。



すき、スキ、好き
(だからこんなにくるしいの?) 



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