「お前クラス全員の前で振られたらしいな?」
「…だったらどうだって言うんです」
「うはははっ、それは傑作だ!いつも澄ました顔ばかりしているからきっと罰が当たったんだ!」


榎木津はそう言い終わるなりうひひひ、とやけに嬉しそうに笑った。それが面白くない中禅寺は負けじと反論を決め込んだ。


「榎さん。言っておきますが、振られたというのは少し間違ってます」
「じゃあなんだ?負け惜しみなんか言ったら殴るぞ」


榎木津は拳を握りそれを高々と上げる。
どうやら本気で殴るつもりらしい。


「生憎違いますよ。そもそも最初から僕達はそんな関係じゃない。敢えて言うなれば友達程度です。だからただ単に僕は彼女に嫌われただけなんですよ。だから振られたなどと言われるのは心外だ」


表情一つ変えずに一息で言い切る。そんな中禅寺の態度に榎木津はつまらん!と吐き捨て、拳を下ろしはしたが、まだ何かからかうネタはないかと頭を捻っている。

この榎木津と言うのは、中禅寺の一学年上で先輩に当たる人物であり、学校を表でも裏でも牛耳る生徒会会長だ。会長になったのをいいことに、生徒会室を我が物顔で使用するわ、学校行事を勝手に増やすわとやりたい放題なのである。教師達も何度か注意はしたものの、普通の神経を持ち合わせた人間がこの榎木津礼二郎閣下(皮肉である)に敵うわけがないのだ。
そんな榎木津の元には学校中の噂やら何やらの色々な情報が飛び込んでくる。

中禅寺が今生徒会室で榎木津に尋問されているのも、その恐ろしく早い情報収集能力のお陰である。全くいい迷惑だ。


「もう行ってもいいですか?早く行かないと昼休みが終わってしまうので」


昼休みになった途端に此処に拉致されたのだ。


「昼休みがなんだ!もう少し待ってたら良い事があるぞ」
「良い事?」


大抵榎木津が言い出すことはろくでもないことばかりが定番だから、中禅寺は一秒でも早くこの生徒会室から出ていきたかった。
逐一まともに相手をすると大方こちらが馬鹿を見ることになる。榎木津が何を思って中禅寺に毎回ちょっかいを出してくるかなど考えたくもない、理解なんて世界が滅んだって出来やしない。


がたっ、バンッ!
と激しい物音が一時、中禅寺の思考を止めた。生徒会室の扉が開く。


「かいちょー、…こ…これでいいですかぁ?」


雪崩込むようにして入ってきたのは、生徒会で書記をしている益田龍一だった。見れば腕には大量のパンが抱えられている。多分これが榎木津の言っていた“良い事”だと悟る。


「このバカオロカ!」


必死な益田に、榎木津は一喝した。毎回このような使いっぱしりをさせられ、散々詰(なじ)られるのだから報われない少年である。
益田は酷いですよ〜と情けない声を出したが、榎木津はこの程度のことを気にするような人間ではない。


「後少し遅かったら中禅寺に逃げられるところだったんだゾ!ただでさえ怖い顔をしている奴が、振られて挙げ句には腹まで空いたとなって、この怖顔に拍車がかかっているというのに!」


百歩引いて兎や角顔のことを榎木津に言われるのは我慢するが、振られていないとさっき説明したばかりなのにすぐこれだ。


「えっ!先輩振られたんですか!?」


ぱっとやけに明るい表情になる益田が中禅寺を見る。


「……好きに解釈し賜えよ」


否定する気も起きなくなった。それをいいことに榎木津と益田は、人の不幸のネタでやたらと会話を弾ませていた。



真実のカタチは人の数
(何度訴えても無駄なことはある)



 


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