京極堂 | ナノ


 

「私が死んだら悲しいですか?」
「なんだい。薮から棒に」


思わず本から顔を上げた京極が見たものはふてぶてしいひふみの背中だった。自分の家とでも勘違いしているのか縁側で横になっているその姿は、宛(さなが)らあの探偵を彷彿とさせた。


「深い意味はありませんけど、今急に思い付いたんです」
「全く迷惑な思い付きだ」


ごろりと身体を反転させたひふみと視線が重なる。


「御託はいいですから。早く質問に答えて下さい」


微笑みながら大層身勝手なことを言う、一体どう答えて欲しいのか。答えを渋る京極にひふみは痺れを切らしたのか、隣までやって来て腰を降ろした。


「答えてくれないってことは悲しんではくれないという意味で受け取けとりますが───」


構いませんか?
耳許に唇が寄せられ、吐息混じりに囁く。京極はその科白に怪訝げに眉根を寄せ、ぱたりと本を綴じた。


「いい加減にし賜えよ」


隣に位置するひふみに一瞥をくれてやるが、それを気にする様子もなくただ微笑っている。


「怖い顔をして、何を怒ってらっしゃるんですか」
「怒ってなどいないし、生憎この顔は生まれつきこんな顔なんだ。君の質問は不毛で無意味だ。だから確かな答えなど出ない」


まくし立てるように吐き出した。するとひふみは微笑みを顔から無くし、凭れ掛かるように肩口に頭を乗せられる。


「意味が無いなんて酷なことをおっしゃいます。私は中禅寺さんのことが好きなのに」
「ああ」


知っている。
いつもひふみはそう言うものだから、厭でも覚えてしまった。


「なのに意味が無いなんて、───それじゃまるで私の存在事態否定されているようで、それこそ死にたくなります……」


そういう意味じゃあない。


「死にたいだなんて、君はとんでもない馬鹿だな」
「……存じてます」
「端からそんな質問愚問なんだよ」


君が私を好きだと言った。まだ若くて将来もある身なのにも関わらず、なんと愚かな女だろうと思った。

しかし私はそんな考えとは裏腹に、どこかそれを喜んでいた自分がいたことに失望した。だからといって君は此処を訪れることを諦めなかったし、私も強く突き放すことが出来なかった。

「悲しくない訳ないじゃないか。みなまで言わせる気か」




片道切符は存在しない


 
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