京極堂 | ナノ


 

「暑い、暑いー、死ぬー」
「女の子がそんなはしたないことしちゃ駄目ですよ」


茹だるような夏の天気に私は心底疲れ果てていた。スカートの中に溜まる熱気を外へ送り出す為、裾を両手で掴んでばさばさと揺らしていた。それを見た青木さんは苦笑混じりに注意した。


「だって暑いんですよー。このままじゃ私茹でられて死んじゃいます」
「そう簡単に人間は死にません」


その一言を聞いて青木さんへと私の視線は漸く移し、ぶすっと不満げに顔をしかめた。


「青木さん冷たい。もういいです暑さで死んでやります。人間は簡単に死ぬんだって証明してやります、見てろよこんちくしょー」
「……暑さで口が悪くなってますよ」


呆れたような心配しているようなそんな複雑な瞳を青木さんはしていた。しかし変に臍を曲げてしまった私には最早関係なかった。
どうして意地を張る必要があったのか自分でも解らない。強いて言うなれば多分暑さで苛々していたんだろうと思う。


「ひふみさん拗ねないで下さい」
「……別に拗ねてなんか」


私に青木さんが近付いてきた気配がして、ふんっと顔を背けた。依然私はスカートをばさばささせていた。すると、それを制止するように私の手の上に青木さんの手が重ねられた。
それに驚いて青木さんを見上げると、ふんわりとした柔らかい笑みがそこにはあった。


「拗ねてるひふみさんも可愛いですが」
「かっ、かわ…っなにを急に」


面と向かって言われると照れる。時折青木さんはこういうことをさらりと言ったりする。だから私は大袈裟に動揺するし、それを隠せない。


「もっと貴方は自覚した方がいいですよ」


艶やかな声音に魅入られてしまった。
いや、声だけではなくて


「じ、じかくって」
「それは自分でもよく解ってるでしょう?」


抽象的で具体性に欠けた言葉なのに、やたらよく頭に響いた。






 その声音が
   脳を揺さぶる




 
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