京極堂 | ナノ


 

成人女性とは思えない幼い風貌。彼女はそれを厭がっていた。



悪戯心




同じ歳の友達は皆してそれぞれに何処か大人の女性としての雰囲気があるのに、どうして私だけそんな雰囲気はないのかと酒を呑んで愚痴っていた。
それはそれで僕は構わないと思うが、彼女は納得がいかないようで愚痴は止まらないまま、ものの三秒も経たないうちにいきなり眠り始めた。
僕は酒に弱くはない。彼女とは比べ物にならない量を既に平らげているのに酔わないし、眠くもない。だから、というのもあれだが、急遽悪戯なるものを思い付いたのである。


「ひふみ?」


名前を呼ぶが反応はない。布団に比べれば、お世辞にも寝心地がいいとは言えないソファで静かな寝息をたてているひふみ。つんつんと頬を何度か指先で突いてみるも、うんっと小さく唸るだけで目覚める気配はない。

次は、鼻を摘んでみた。すると息苦しいのか眉間に眉を寄せて、う゛ーっと先程よりも苦しそうな声を出したので、取り敢えず鼻を摘むのは止めにした。
そして改めて、じとりとひふみの顔を見詰めてみる。やはり幼い。でも僕にとってそれは寧ろ良いことで、ひふみに変な艶があったら逆に悪い。良くはない。だからこれでいい。

有りのままのひふみが好きなのに、どうして本人はそれを厭がるのか。僕の疑問は深まるばかりだ。


「神である僕がいいと言っているのに、それで納得がいかないと駄々っ子みたいなことを言うのはひふみぐらいだ」


誰に言うでもなく、独り言のように呟いた。今日は確か和寅も実家に帰って居ないし、オロカは夜になるとあれも家に帰る。言うなれば今は邪魔者がいない。無防備にも神の目の前で、子羊が一匹寝ている。

そう思うが早いか、己の手は既に動き出していた。酒のせいで上気した頬はほんのりと赤みを帯びて、温かくて心地好い。次いで唇に親指をそっと這わせると、薄らとそこが開いたものだから誘われるように唇を重ねた。触れるだけの接吻(くちづけ)を何度か繰り返した後、再度深く接吻直す。
並びのいい歯列に舌を滑らせ、微かに開いていた隙間から咥内へと進入させた。ひふみはそれに眠りながらも反応したらしく、くぐもったような声を漏らした。しかし此処で止められる程、自身の理性を僕は手懐けてはいない。咥内を散々弄ったあと、息苦しさと違和感で漸くひふみが目を醒ます。だが何が起きているのか直ぐには理解ができなかったようで、それをいいことに調子に乗った僕の行為は更にエスカレートしていく。


「え、の……きづさっ」
「無防備なひふみが悪い」


でも本当に悪いのは我慢できなかった僕だ。もし自分が眠っていてこんなことをされでもしたら、怒り任せに相手をぶっ飛ばすに違いない。ああ、でもひふみなら許してしまうかもしれない。


「厭だとは言わせない」
「っん、……ぅッ」


ひふみが何か言いたげに口を開いたが、有無を言わせずに己の唇で遮った。酒が周り普段より非力になったひふみが、止めろと僕の肩を押すがその指を絡め取りソファに押し付けた。

咥内という閉鎖的空間で逃げ回るひふみを追い掛け、自由を奪うと一層漏らす声に艶っぽさが増しす。余りに夢中になっていたものだから、いい加減自分でも息苦しくなっていた。名残惜しいが渋々唇を離す。
ひふみはその瞬間に酸素を一気に吸い込む、はぁはぁと吐息か何か最早よく解らないがその姿でさえ僕は可愛いと思う。視線が合うと怪訝そうにこっちを見て


「殺す気ですかっ…!?」


と叫んだ。


「そんな気は更々ない!」
「……」


瞳を細めて睨まれる。
その様子も可愛い。睨まれているのにこう思うのはおかしいかもしれないが、僕はいつだって自分に正直に生きると決めていたから勝手に口が動いてしまう。


「そんな可愛く睨んでも駄目だ。敢えて言うなら逆効果だッ、それは誘っているようにしか見えないぞ」
「誘ッ!?違います、全然違いますっ」


ぶんぶんと音が鳴りそうなぐらいひふみは勢いよく首を振る。そんなに厭がられると逆に、虐めたくなるのだから僕も相当キている。


「据え膳食わぬは男の恥だ」
「据え膳じゃない!据え膳じゃないからっ」

「あー!もうぐだぐだ言わずに観念しろ!」


 
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