京極堂 | ナノ


 

「産気付いた妊婦さんを病院まで送り届けてたら遅刻してしまいましたぁ!だから今回のことは大目に見て下さいっ」
「却下だ」
「あははっ、やっぱ駄目ですかね」
「今のは笑うところじゃない。いい加減君は危機感というものを持った方がいい。今回の遅刻で何度目だ?まさか社会に出てまで同じことを繰り返す気でいるのかね?なら老婆心ながら忠告しておくが、」
「それ程世の中は甘くない。でしたっけ?」


大体中禅寺先生の説教は長ったらしい。そして最後は毎回その台詞で終わる。


「漸く覚えてくれたのかい。なら遅刻の改善まではもう後少しといったところか」
「それはどうでしょう」
「───全く、とんでもない問題児だよ君は」


面倒そうに先生は吐き捨てた。私は中禅寺先生が困っている姿を見るのが好きだった。余り表情が豊かとは言えない先生の仏頂面が何をどうすれば崩れるのか、色々とその方法を考えて実行する毎日だったが一番効果的だったのは遅刻をするというものだった。
もしこれでも駄目なら本当にお手上げだったが、中禅寺先生が担任で本当に良かったと思った。もし、担任で無いなら無意味な行動にしかならない。


「そうです。私問題児なんです」
「笑いながら言う台詞じゃあないぞ」
「いやー、だって愉しいですし」
「何が愉しいというんだ。理解出来ないな」


うんざりだと言いたげな中禅寺先生を見ていたらどうしようもなく愉しくて仕方ない。
しかし先生は今の今まで私の顔を一回も見ようとしない。いつだって先生は本の虫なのだ。


「……なんだいさっきからにやにやと。何か言いたいことでもあるのかい」


私のにやけ顔に漸く気付いたみたいだ。普通眼球というのは顔の前方部分にあるというのに、この人は千里眼でも持っているんだろうか。
だなんてくだらないことを考えていたら、中禅寺先生はやっとこっちを見た。その顔は大層迷惑をしている、と訴えていたので益々私は自分の中の加虐心が掻き立てられていることに気付く。


「先生」
「───何かな」
「明日も遅刻するんでそこんところ宜しく!」



意図的遅刻魔



私の為に、もっと悩んで、もっと困って
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