京極堂 | ナノ


 

「女の子が暴力を奮うなんて駄目だッ!駄目に決まっている!そうだっ、暴力を奮うならカマオロカだけにしなさい。それなら僕も許そう」
「何を意味の解らないことを言い出すんですか。そもそもそれは暴力ではなく護身術っていう大層な名前があるんですよ?」
「力で捩伏せるなら護身術も暴力も一緒だッ!!」


会話に埒が明かない。榎木津さん相手だといつもこうなのだ。どれだけ私が正論を述べようにも、榎木津さんには榎木津さんの特殊な思考回路がありそれを常識として意見が形成されるから話合いなど端から無意味なのだ。


「一緒じゃありません、自分の身は自分で守る。立派な心掛けだと評価はされても完全否定される云われなんてありません」
「いいや、駄目なものは駄目だ!!」
「もうっ」


偏屈な上に頑固なんて始末に悪い。私達の会話に遠くの方で安和さんが苦笑している姿が見える。しかし助け船は出してはくれない、榎木津さんに一蹴されるのが目に見えているからだろう。多分私でもそうする。

榎木津さんの相手は骨が折れる。今日だって本来ならば今頃は護身術の習い事の筈だったのに、大学の帰り道にいきなり榎木津さんが車に乗って現れ、あっという間に薔薇十字探偵社にまで連れて来られたのだ。
一応習い事の件については行けそうにないと、先程電話を借りて謝りはしたが本当ならそんなことしなくてもよかった筈だ。

それもこれも全部榎木津さんのせいなのだ。


「もういいです。これ以上話ししても埒が明きませんから帰ります」
「駄目だ!!」


さっきから榎木津さんは駄目しか言っていない。あれも駄目、これも駄目ではまるで私は榎木津さんの呈のいい下僕のようなそんな気分になる。


「ひふみは下僕じゃないから安心しなさい」
「……読心術でも習得したんですか」


思わず榎木津さんを訝しげに見てしまった。


「僕は神なんだゾ?その程度のことはお見通しだッ!」
「……───そうですね」


なんだか返す言葉も無くなってきた。そんな状況下の中、薔薇十字探偵社に運悪く益田さんが帰ってきた。


「マスカマ!いい所に帰ってきた。今からちょっとひふみに大人しく殴られなさい」


勿論益田さんはその発言に面食らった。


「は……?毎度ながら突然何を言い出すかと思えば、んな恐ろしいこと言わんで下さい」
「あのっ」
「恐ろしいとはなんだ!可愛いひふみに殴られるなら本望だろうがッ」
「ちょっと榎木津さんっ」
「なら榎木津さんが殴られて下さいよ、僕ぁ無理です。痛い思いはしたくない」
「益田さんも……!」
「カマのくせに生意気なことを言うんじゃない!」


二人の声に私の意見は掻き消されてしまう。そもそも私が益田さんを殴りたいなど言った覚えはない。全て榎木津さんが勝手に決めたことだ。
益田さんも益田さんだ。私が殴りたいなどと本気で言ったと思っているのだろうか。もしそうなら私は益田さんにとってはただの暴力女という認識でしかないのか。というかいつ私がそんなに暴力的になったのか。

ただ私は非力なままじゃ嫌なだけなのに。ただそれだけなのに、二人は私の声さえ聞こえていない、聞いていない。そう思うと無性に腹が立った。だから


「私は誰も殴りません!!」


大声で叫んでやった。初めてこんな大声を出した私を見て皆して驚いてこちらを見ている。いい気味だ。


「暫く榎木津さん達の顔は見たくありません。それでは」


眈々とそう告げると私は薔薇十字探偵社を後にした。



Terrible twos



(ひふみが反抗期だ!全部お前のせいだバカオロカ!!)
(僕ぁ悪くありませんよっ、全部オジサンのせいでしょうに)
(口答えするなッ!)
(い゛ッ、)


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