京極堂 | ナノ


 

危なっかしいから放っておけない。それだけだ。



口下手少女



「中禅寺先生、あのっ……」
「なんだね」


制服に身を包んだ幼い顔をした少女は私が言葉を発する度に、その小さな肩を揺らした。
少女──一之瀬ひふみ──は以前からおどおどと、どこか不安感を抱えている娘だと思っていたが私と会話をする時は更にその不安感が肥大しているような、そんな気がしてならない。生徒達の間でどうやら私は“怖い先生”と思われているらしいがそれはあながち間違いではない。その噂もあり、きっとこの娘は震えているのだろう。

そうだ。
私は優しくない。


「えっと、その……」


何故か女生徒は口篭る。そして視線を左へ右へと虚ろに流し、こちらを見て解り易いぐらいに赤面した。

この反応を私は知っている。友人、いや知人に約一名これとよく似た反応をする輩がいた。失語症に対人恐怖症に鬱病といった病の巣窟なような、知人関口巽。しかし目の前にいるのは件の知人ではない、教え子である一之瀬ひふみだ。


「何か言いたいことがあるならはっきりと言い賜え」
「っ、あっ、と……その」


被る。かぶる。カブル。
その反応や仕草が、尽く知人と被る。だからと続けるのは少々間違っているが、扱い方がぞんざいになりそうになる。

しかしこの娘は、


「一之瀬君、」
「……ッはい」
「そう固くなることはない」


がちがちに固まった身体。引き攣った頬の筋肉。前髪の隙間から窺える薄らと滲む額の汗。

それが余りにも滑稽で、貧弱で、愚鈍で、


「さっきの言葉は撤回しよう」


あくまで、この娘は私の女生徒である。


「言い難いのであればまた日を改めるなりしてくれて構わない、僕は授業以外は大抵此処にいる。だからそう無理をすることはない」


そう言い終えた私に女生徒は漸く確と視線を向け、微かに口許を緩ませて微笑(わら)った

───ように見えた。

すると女生徒は早口でぼそりと何か呟いたあと、直ぐに身体を反転させ私の前から逃げるように消えてしまった。
こればっかりには私も少しは驚いたが、顔には出さない。


「にしても何を僕に言いたかったのか……」


甚だ疑問だ。


 
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