無機質な瞳。
虚ろに空を見上げるその眼には一体何が映っているのだろう。そう考える度私は酷い不安感に襲われる。
どうして君はそんなに虚ろなのだ。
その科白が幾度出そうになったことか。しかし答えを聞くのが怖くて結局は聞けないままでいる。私は臆病者だ。真実を君の口から聞くのがどうしようもなく怖くて仕方ない。
人の中に群れるのが苦手だ。だから学校という空間自体が私は苦手だった。
友人と呼べる人物は何人か居たが、常に行動を共にしているわけではない。一人になりたい時ぐらい私にだってある。そういう時は決まって屋上へと足を伸ばした。
この学校の屋上は基本的に封鎖されている。しかしこの時間だけは話は別である人物の手によって鍵が開けられているのだ。ひょんなことからそれを知った私はほぼ毎日のようにここに通い詰めている。
「また来たのね」
学校と屋上を隔てる扉を開くと、そこには一人の女子生徒がいつものように佇んでいた。
彼女は扉の開いた気配を感じ取り、緩慢な動作で振り返るとにこりと微笑んだ。そうして私の姿を一度は見るのだが、それ以降は見ようとはしてこない。
普通ならそれを不愉快とでも思うのだろうが、対人恐怖症である私にとってはそれは好都合であった。だが何処かで少し物足りないような気もしていたのは確かだ。
「―――一之瀬さん」
「なぁに?」
「いやっ、あの…」
名前を呼んだことに意味はない。なのだがそう説明するのも失礼な気がして結局は口籠る。彼女は相変わらず私を見ないままだったが、彼女が何を見ているかを私は知っている。
「そ、…空を」
見ているんですか?
そう言葉が続かない。しかし彼女はそれを悟ったのか
「そうよ」
と答えた。
「屋上なんてそれ以外にもう一つぐらいしか使い道なんてないじゃない?」
「もう一つ……?」
厭な予感がした。
普段なら彼女がこっちを見ないのに。
こっちを見たたから、とても厭な感じがした。
「関口君、もし私が」
そう呟くように言った彼女は転落防止の柵に近寄り、突如それを乗り越えた。突然のことで私はどうしていいか分からず、締りの悪い唇からは間抜けな声しか出なかった。
「ここから飛び降りたいって言ったら―――どうする?」
ある程度予測していた科白だった。だがここで失語症を発症してしまった。なんとタイミングの悪いことか、彼女はそんな私の気も知らないで喋り続ける。
「関口君らしいわね」
「……、っ」
何が私らしいのか。そう言いたいのに声が出ない。まるで喋り方を忘れてしまったかのようだ。私の身体であるのに、使い方が今一よく解らない。
早く言葉を、早く彼女を止めないと、このままではこのままでは。
このままでは―――
左様ナラ
(それが君の、最後の言葉)