京極堂 | ナノ


 

「いやぁぁぁっ!!」


耳を劈くような悲鳴が薔薇十字探偵社の中に響く。いや、この榎木津ビルヂング全体に響いてしまったかもしれないような、そんな悲鳴だった。
この悲鳴を上げた人物は益田も良く知る人物で、一応想い人だったりもする。


「一体どうしたって言うんですか?」
「ま、ままっ、益田さん……!」


彼女は僕の姿を確認するなり俊敏な動作で目の前まで逃げてきた。


「あのっ、あれが……ッ!あいつが!」


炊事場を指さし口を必要以上にパクパクとさせている。それはまるで鯉が餌を強請るときのような姿に似ている、がそれを口に出すことはしない。
しかし一体何があったのか。あいつとは一体誰のことなのか。


「兎に角少し落ち着いて下さい、ひふみさん」
「落ち着くなんて無理よ!どうにかしてあいつを抹殺して益田さん!!」
「抹殺?穏やかじゃありませんねぇ、というか正体も分からないままじゃ抹殺も何もできやしませんよ」


そう僕が言い終わった時だった。何気に向けた視線の先に黒光する物体が目の前を過る。背筋にぞわりと一瞬で鳥肌が立った。もしかしてあれは、ひふみさんの言っていたあいつとはまさかとは思うが……


「ゴキブリ厭ぁぁあッ!!」
「ひふみさん!ひふみさん落ち着いて!」


突如暴走しだしたひふみさんを必死に宥めるが、こっちもこっちでいっぱいいっぱいなのだ。なのにゴキブリという奴はそれを面白がっているのか、それとも余程余裕があるのかさっきから僕達の前に頻繁に姿を現してくる。なんて憎い奴だ。しかし、僕にはこのゴキブリを退治する勇気がない。

だって怖いじゃないか。


「益田さんやっつけて、お願いだからっ」
「えぇ?む、無理ですよッ。虫でも殺生はしたくありません」
「ゴキブリに殺生も何も無いわ!あいつらはこの世から死滅するべきなのよ!?」
「死滅って」
「それとも私にこのままゴキブリの恐怖に脅えて生活しろって言うの!!?」
「だ、誰もそんなこと言ってませんってば」
「だったら早くなんとかしなさい!!」


嗚呼、鬼がいる。



害虫抹殺の事



(うわぁぁ!こっち、こっちに来ましたよひふみさんッ)
(そんな報告は要りません!)
(と、飛んできたぁぁッ!!)
(いやぁぁぁっ)




 
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