初々しい恋 10題 | ナノ


きみ攻略マニュアル


 俺が赤司っちの事で知っているコト。
一、 赤司っちは和食好き。特に湯豆腐が好きなんだそうだ。デザートもどちらかと言えばわらびもちとか、あんみつとか和菓子が好きと言っていた。
二、 赤司っちは身内……というか、俺らには甘い。いや、甘いっていうと語弊があるかな。優しい。大抵のお願いなら良いよって言ってくれる。でも、その分努力した結果を見せなければ駄目だし、何でも良いよって言ってくれるわけじゃない。あくまで、大抵の、ってだけだ。俺には解らないけど赤司っちにだけ理解出来ている線引きみたいなものがあるんだろう。
三、 赤司っちは意外に押しに弱い。……とは言っても、それはやっぱり、俺らに限る。限られている、と思う。今のところは。そもそも懐かれている人間を無体には出来ない人だし。そういう意味ではこの犬のようだと揶揄される性格に感謝するべきなのかもしれない。
 そうじゃなければ、多分、赤司っちに対して積極的に話しかける事も出来なかっただろうから。


「あーかしっち!」
「……今度は何の用だ?」

 文字が目一杯詰まった小難しそうな本から目線を上げ、どこか呆れた表情で赤司っちは俺を見上げる。俺はえへへ、と締まらない笑顔を浮かべながら二枚の紙きれを赤司っちの前に差し出す。映画のチケットだ。今話題の恋愛映画。

「……なんだこれは」
「映画のチケットッスよー?」

 俺の答えに赤司っちはハァ、と盛大に溜息を吐く。赤司っちは騒がしい所は好きじゃないし、この間読んでたのは恋愛小説と思しきものだったし恋愛ものが嫌いというわけではないだろうし。

「何故オレがお前と映画を見に行かなければならないんだ? そもそもそれ、恋愛映画だろう」
「? 赤司っち別に恋愛もの嫌いじゃないッスよね?」
「別に嫌いってわけじゃない、恋愛ものの小説だって普通に読む。読むが、それだけだ。特別好き、って意味じゃない。大体なんで恋愛映画を男二人で見に行かなきゃいけないんだ。オレじゃなく、彼女とでも行ってこい。ただし部活はサボるなよ」
「彼女なんていないッスもん」

 ていうか、いらないし。
赤司っちは眉間に皺を寄せながら、目を閉じてもう一度溜息をついた。俺はしゃがみこんで、赤司っちを見上げるように甘えた声で赤司っちを呼ぶ。俺の呼びかけに目を開けた赤司っちは一瞬目を真ん丸くして驚いた後、また呆れた表情に戻る。

「俺は赤司っちと一緒に行きたいんスよぉー……。ね、ね、どうしても駄目ッスか?」
「……あのね、黄瀬」
「駄目ッスか? どうしても?」

 赤司っちの言葉を遮り、赤司っちの目を真っ直ぐ見つめながらねだるようにして声を出すと赤司っちがまた一つ、盛大に溜息を吐いた。

「……恋愛映画はパスだ。それ以外ならどこにでも付き合ってやるから、さっさと立て」
「ほんとッスか!」

 自分でも解るくらい、すごく笑顔になってるのが解る。鏡でも見たらきっとめちゃくちゃ嬉しそうな顔してんだろうな、俺。赤司っちはそんな俺を見て、やれやれって感じで仕方ないなって笑ってた。

「ほら、さっさと立って。それから自分の教室に戻れ」
「ういッス! また後でどこ行くかとか待ち合わせ時間とかメールするッス!」
「はいはい、待ってるよ」

 小難しそうな本に視線を戻しながら、投げやりに手をひらひらと降る赤司っちに、精一杯の笑顔を向けて自分の教室へと走っていった。
 それを一部始終見ていた黒子っちと青峰っちが「この会話これで何度目だっけ?」「さぁ、もう覚えてません」なんて会話が織り成されていたことなんて、俺は知る由も無い。




[!]


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -