残念ながら、べた惚れ
紫原 敦。身長は確か2メートル近くだったか。名前の通り、アメジストみたいな深い紫色の髪と瞳をしているオレの大事なチームメイト。性格は……そうだな、簡単に言うなら子供っぽい。負けず嫌いで、お菓子が好きで、そして醒めやすい。そんな奴だ。そしてはオレは、そんな大きな子供にどうやら好かれているらしい。
「赤ちん、赤ちん」
「何だ、敦」
こんなやり取りをもう何度しただろう。オレの後をひょこひょことついてくるこいつは例えるなら雛鳥かな。締まらない笑顔を浮かべて、両手には抱え込むように大量の駄菓子を持ちながらオレの名を呼ぶ。
……加えて言うなら、オレの名前は決して赤ちんではない。赤ちん、というのは敦がつけたあだ名という奴だ。オレの事をこんな風に呼ぶヤツなんて敦くらいしかない。……あぁ、いや、黄瀬もいたな。どちらの呼び方にしたってオレとしては首を捻るしかないのだけれど、まぁ呼ぶのは敦と黄瀬の二人だけだしと今のところは放っておいている。
「これ赤ちんにあげるー。新作キャラメルバニラ味のまいう棒ー! 超おすすめだしー」
「……随分甘そうだな。まぁ、有難く貰っておくよ」
「赤ちん最近難しそうな顔してるからー。そういう時って甘いもの食べるとイイんでしょー?」
こてん、と小さく首を傾げ、相変らず締まらない笑顔を浮かべている。甘いものは疲れた時だ、なんてつまらない説教をする気もなくなる。は、と小さく息を吐き、敦から受け取ったまいう棒を見て微笑む。
「……そうだな。ありがとう」
「いいよー。まだまだいっぱいあるしー」
鼻歌でも歌い出しそうな敦に小さく苦笑する。敦が自分の駄菓子を誰かにあげるなんて、そもそも珍しい事だ。敦なりにオレの事を心配してくれてるのだろう。
「敦は本当、オレの事が好きなんだな」
「何言ってんの、赤ちん。そんなの当たり前でしょー」
しみじみと独り言のように呟くと、オレの呟きが聞こえていたらしい敦に締まりのない笑顔を浮かべながらも胸を張ってそう返された。
……あぁ、もう。
頬が赤くなっていない事を祈るばかりだ。