うつくしいひと。
じーっとこちらを見つめてくる黄瀬の視線を感じながら、オレは黒子おススメの本に目を通していた。その時、独り言のようにぽつりと呟いた黄瀬の一言がオレの耳に届いた。
「赤司っちって、キレーな顔してるッスよねー」
その言葉にオレはページを捲る手を止め、視線を本から黄瀬に向けた。黄瀬の発言がどういう意図なのか解らないが、微笑みながら小さく首を傾げる黄瀬にフッと笑みを溢す。
「黄瀬にそんな事を言われても、あまり信じられないな」
「えー、本当の事ッスよ!」
「オレからしてみれば、お前の方が綺麗な顔をしていると思うが?」
オレの返答に膨れっ面をしていた黄瀬に宥めるようにそう言って頭を撫でてやると「えへへー」と締まりのない顔をしながら嬉しそうに笑顔を浮かべる。さながら飼い主に構われて嬉しいと尻尾を揺らす犬のようだ。オレは言う事の聞かない犬は嫌いだが、こうやって懐き、言う事を聞くようになれば情も湧く。
「でもね、赤司っち。俺はやっぱり赤司っちの方がキレーな顔してると思うんスよ。なんていうか、触れちゃいけないって感じの。高嶺の花って言うんスか? そういうのなんスよねぇ」
「高嶺の花、ね。男に使う言葉じゃないと思うけど……まぁ、褒め言葉として受け取っておいてあげるよ」
「ホントのホントにそう思ってるんスよー?」
「はいはい」
適当にあしらうようにして本に視線を戻せば、黄瀬が拗ねたようにオレの名を呼ぶ。その声を聴いて顔を見なくても膨れっ面をしているだろうという事が想像できた。
「ちょっとぉー、赤司っちってば、ちゃんと聞いてるんスかぁー?!」
「勿論聞いてるよ」
愚図る子供のように、オレの服の裾をちょいちょいと引っ張る黄瀬に視線だけ寄越して返事をすると、黄瀬はぴた、と裾を引っ張るのを止めた。
「なら、こっち向いて欲しいッス……。俺、赤司っちと、もっといっぱい話したいし、もっと色んな赤司っちの表情が見たいッス……」
「……仕方ないな」
モデルとしてのきらきらした顔はどこへやら、年相応の性格を表すようにしょぼくれた黄瀬に一つ小さく息を吐き、ブックマーカーを本に挟む。あれは黄瀬が帰った後にでも読む事にしよう。
「……それじゃ、どんな話をしようか?」
オレの動向を窺っていた黄瀬にそう話しかけて微笑んでやるとしょぼくれていた顔はパッと太陽みたいにきらきらした笑顔をこちらに向けられた。……うん、やっぱり、綺麗なのはこいつの方だ。