紫赤 | ナノ


 どうすれば君に近づけるの?



「赤ちん、赤ちん」
「何だ、敦?」
「赤ちんは俺の事、好き?」
「……あぁ、大好きだよ。敦に限らず、お前たちの事は皆、大好き」

 こういう時、あ、一線引かれたなって思う。穏やかに小さく笑ってくれて、抱きつく事を許してくれていても、赤ちんとの俺の心の距離はとても遠い。本当はもっと赤ちんに近付きたいけど、とてもじゃないがそんな事は言えない。

「うん……、ありがと。俺もね、赤ちんの事大好きだよ」
「そう、有難う」

 だから、俺は物わかりの良い犬のフリをする。チームメイトとして、友人として大好きだよって言ってるフリをして、笑う。赤ちんは、きっとそんな俺の事なんて解ってくるくせに、有難うと言って線を引く。笑顔を浮かべながら線を引く。そういう時、赤ちんはズルいなぁと思う。俺が赤ちんに文句なんて言えないって思ってるんだ、多分。……まぁ、当たってるんだけれど。
 会話が終わったからか、俺の腕の中で、小難しそうな本に目を戻した赤ちんをぎゅう、と抱きしめる。少し力を強めたからか、眉をちょっとしかめながら上を見上げる赤ちんと目が合った。目が合った途端、赤ちんが驚いた様に目を丸くしたけど、すぐに穏やかな笑顔を浮かべて俺に片手を伸ばしてくる。そっと、優しく赤ちんの手が俺のほっぺに宛がわれる。俺の手と比べるとちっちゃく感じる手だ。

「……どうした、敦」
「なにが?」
「不思議な表情を浮かべている。何か思う事でもあったのか?」
「フシギ?」

 俺は赤ちんが言う事の方が不思議だ。難しくて、よく解らない。話を聞いても、煙に巻かれているような、そんな気分にさせられる。

「そうだよ。目許は悲しそう……いや、寂しそうなのに口許は笑みを作ろうとしている。随分不思議な表情だ」
「……そう? 自分じゃ、よく解んないよ」
「へぇ……。今にも泣きだしそうなのに?」
「うん…、わかんないよ」

 ほんとはちょっと嘘。少しだけ視界がぼやけ始めてる。俺、視力結構良い筈なのに、ぼやけちゃってる。赤ちんの笑顔がぼんやりとしか映らない。
 俺は赤ちんを抱きしめていた片方の手を離し、俺のほっぺに添えられた手に重ねる。あぁ、ほら、やっぱりちっちゃいや。

「ほら、泣くな。オレがいるだろう?」
「……うん、そうだね。赤ちんがいるもんね」

 そう言って、赤ちんは俺のほっぺに添えていた手を離した。代わりに赤ちんは身体の力を抜いて、俺に身体を預けるようにして凭れた。俺も同様に赤ちんの手に重ねていた手を離し、赤ちんを抱きしめていた形に戻した。ぎゅうと強く抱きしめると、赤ちんは怒りもせず、穏やかな声で俺を宥めるばかりだ。

「こら、敦。痛いよ」
「…うん。ごめん、ごめんね」

 それでも、抱きしめる力は緩めない。ぼろぼろと涙が溢れるのも、止めらない。赤ちんは抱きしめながら泣く俺を咎めるでもなく、ただ静かに微笑みを浮かべて、穏やかな声で「痛いよ、敦」と俺の名を呼ぶだけだった。




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