紫赤 | ナノ


 君に伝えたいコト。



 赤司 征十郎。
俺達がキセキの世代と呼ばれ始めた中学時代のキャプテン。名前の通り、赤がとても印象的で、離れてしまった今でも俺の心を惹きつけてやまない。だって、どこに居たって赤ちんの居る場所ならすぐ目に入る。彼の色は本当に強烈で、とても綺麗で。そして、その色を見つけると、ほっとする。赤ちんが居るって、安心できる。
 ……なのに。

「なんで俺、秋田にいるんだろー……」
「そりゃ、陽泉(ココ)に進学したからだろ?」

 ぼそりと独り言を呟いたつもりだったのだけれど、どうやら独り言というには大きかったらしく室ちんに苦笑されながら事実を言われた。

「んー……、まぁ、そうなんだけどねー」

 そう返して、本日3本目のまいう棒(納豆キャラメル味)にパクつく。さく、とスナック菓子特有の音が俺は結構好き。さく、さくと音を鳴らしながらまいう棒を食べていると室ちんがいつもの笑顔を浮かべながら何か悩み事でもあるの、と聞いてきた。

「んぅ? んー、ん、別に悩んでるわけじゃなくて、不思議…? や、違うなぁ……えーっと…何て言うんだっけ……、あ、疑問?に思っただけ。今まで赤ちんは俺の視界にいつでもいたのに、何で今は居ないんだろう。此処は秋田で、赤ちんが居るのは京都で。此処に居る筈ないのは解ってるのに最近ずうっと赤ちんが居ないか探してる。そんな事したって、赤ちんは現れないのにね」
「赤ちん、っていうのはいつもアツシの話題に出てくる中学時代のキャプテンだね」

 室ちんのその言葉に頷いて、瞼を閉じてあの頃を思い出す。毎日毎日厳しい練習ばっかで、辛くて、嫌だったけど、いつだって赤ちんはきらきらしてて、赤ちんに褒められると嬉しくて。あの頃に帰りたい、とまでは思わないけれど赤ちんに会いたいなぁとか話したいなぁとかそんな思いは中学時代よりも随分と増した気がする。
 食べ終わったまいう棒の包装をゴミ袋と化したコンビニの袋に突っ込んで、はぁと小さく息を吐いた。すると室ちんはくすくすと笑いだした。何で笑っているのか、はたまた笑われているのか解らず、ムッとした視線を向けると室ちんはそれに気づいたようで、ごめんごめんと笑いながら言ってきた。

「セーイが籠ってないよ、室ちん」
「いやいや、本当ごめんって。今のアツシ、まるで恋してるみたいだったから」
「コイ?」

 鸚鵡返しで室ちんに返すと、そうだよと肯定の言葉を返された。
――……コイ。鯉とかじゃなくて、恋。俺が、赤ちんに?

「……そうなの?」
「さあ? あくまでそう見えただけだからね。お前の方がお前自身の事をよくわかってるんじゃないかな」
「んー……」

 室ちんにそう言われて、ちょっと考えてみた。
確かに赤ちんの事は好きだ。友達として、って意味は当たり前だけれど、恋とか愛とかそういう意味で好きなんだろうか。……わかんないや。でも瞼を閉じていつも思い出すのは、いつだってきらきらしてた赤ちんの姿と、俺を褒めてくれる時の少しだけ柔らかくなった笑顔に、心地いい声。
 ……あぁ、会いたいなあ。話したいなあ。帝光を卒業して秋田に来てから中学時代を思い返す度にそう思う。赤ちんに電話でも掛けてみようかと思った事もあるけど、忙しいんじゃないかとか迷惑じゃないかとかそんな事考えて、頭の中がぐるぐるしちゃって掛けられなくなる。そもそも俺が赤ちんとの電話だけで我慢出来るのかがギモンだ。だって今だってスッゴク我慢してるのに、電話したら我慢してた分どばーって出ちゃうに決まってる。そんなの赤ちん困るに決まってるし。

「うー…っ…」
「ははっ、そんなに悩んじゃう事言っちゃったかな?」
「言ったよ、言った! もー、これで熱出て倒れたりしたら室ちんのせいだかんねー」
「あぁ、知恵熱?」

くすくす笑って、軽口を言う室ちんに思わず膨れっ面になる。そんな俺を見た室ちんは良い方法を思いついたとでも言うように弾んだ声で電話でもして話してみたらどうかと言った。その発言に俺は呆れた表情を浮かべ大きな溜息を吐いた。室ちんはそんな俺を見て頭の上にハテナを浮かべたような顔をする。

「…それが出来ないから悩んでんのー……」
「? 電話番号知らないとか?」
「違うしー! メアドも電話番号も知ってるよ! でも、電話出来ないの!」
「ならどうして? 掛けてくるな!とでも言われてるのかい?」
「赤ちんはそんな事言わないし!」
「ふぅん?」

 俺の発言に、室ちんの表情が変わった。どこかにんまりとした……俺をからかう時にする顔だ。

「なら、電話を掛けられない理由はアツシ、お前にあるわけだ」
「……っ、」

 その言葉に大袈裟に反応してしまう。それを見た室ちんは、周りから見れば人の良さそうな笑みを浮かべて「図星かな」と軽やかな声で笑った。

「掛けてみれば良いじゃないか。もし忙しいなら電話に出ないだろうし、時間があるなら出てくれるだろうし。……それに、アツシ。お前の話によれば赤司君は狭量な人では無いんだろう?」
「キョウリョウ?」
「心が狭いってこと。……違うんだろう?」
「……うん。違う…、違うよ」

 赤ちんはいつだって俺達に対してはとても厳しくって、甘くはないけど、とても優しかった。キャプテンだとか、全中三連覇とか、色々背負ってる中でいつもきらきらしてて一生懸命だった赤ちん。ただ俺が、赤ちんの迷惑になりたくなかっただけ。そんな風に言い訳して、我慢して、我慢して。待て、が出来るいい子だと褒めてもらいたかっただけ。

「俺、電話する」
「おや、吹っ切れたって感じ?」
「…わかんない。けど、赤ちんと話したい。怒られるかもしれないけど、それでもいい。赤ちんの声が聴きたい」
「……そう」

 俺の言葉を聞いて、室ちんが満足そうに笑った。兄というものがいたらこんな感じなのかもしれないなあ、なんて真っ青な空を見上げて思った。

「まぁでも、部活が終わってからにするんだよ?」
「うー……、わかった……」

 部活、早く終わんないかなあ。そしたら赤ちんに電話するんだ。話したい事いっぱいある。あーぁ、はやくはやく。時間が過ぎてくれればいいのに。





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