ふう、と私は息を吐いた。
ぐるりと周りを見回してみるものの、
目に入るのは、騒がしいクラスメイトだけ。


「ねぇねぇ、ゆい」
「何ー?」


とんとん、と肩を叩かれ、くるりと振り返る。
そこには、にこにこと笑う、里香がいた。
里香…というのは、私と小学校の頃から仲良しの、
木下里香のことである。
里香の、真っ黒な短い髪がふわりと揺れた。
里香は、昔からすっごく可愛い。
ぱっちりした目に、すらりと伸びる長くて綺麗な足。
すごく、可愛い。
女の私から見ても、そうなのだから、たぶんみんなが思ってる。


それに比べ、私は、ちびだし、髪の毛は癖毛でぼさぼさ。
体型はいわゆる寸胴と言うヤツで、まるで某RPGゲームの登場人物みたいな。
それでもみんなと少しは近づいていたいと言うことで、
お母さんに頼み込んで髪の毛を茶色に染めてもらえた。


「って、ゆい、聞いてた?」
「あっ、ごめんごめん」


里香は少し眉毛を上に吊り上げて、腰に手を当てていた。
私は頭を右手でかきながら、へらりと笑った。


「ゆいは昔から抜けてるからねー」
「へへ…あ、ポッキー食べる?」
「あ、貰うー。でさー」


机を囲んでお菓子を食べながらのおしゃべりタイム。
私は一日の中でこれが一番好きな時間だった。
(と言っても、今は授業中なのだが)
ときどき、もうすぐ受験なのだと言う考えがぱっと浮かぶが、
すぐに甘いお菓子に掻き消されていく。


ふと、ちらりと隣に座っている人が目に入った。


綺麗なさらさらの黒髪に、聡明そうな茶色の瞳。
(あれ、こんな格好いい人、このクラスにいたっけ)
私は少し首を傾げた。


「ねぇ、あの人…」
「ん?水野くんがどうかした?」
「あ、いや、別に…」


水野。水野和泉。そう言えばいた。
(でも、いっつもメガネをかけていた)
牛乳瓶みたいにぶあつーい眼鏡をかけて、
比較的地味な子とばかりつるんでる男の子。
いっつもしてる話と言えば、勉強のことばかりで、
正直、つまらない人だなと思わなかったと言えば嘘になる。
それ、なのに。(あれ、格好いい)


「ふうん、水野くんって、あんな顔してたんだね」


里香がぼそりと呟いた。
私はどきりとして開けようとしていたポッキーの袋を落とした。
里香はにやりと笑いながらポッキーの袋を拾った。
袋を開けながら、私に差し出す。


「何、ゆい、顔真っ赤」
「え、な、何」
「ゆい、もしかしてさ…」







「惚れちゃった?」



私は心臓が太鼓のように鳴っているのを今更ながら気が付いたのだった。