oh… | ナノ




顔に感じる眩しさで、思わず目を開けると、
そこには見慣れない天井が広がっていた。


(あれっ…どうして俺ここに…何が、あったけ…?)


覚醒したばかりでよく働かない頭を無理やりフル回転させて、状況を整理する。


(確か、ノナタワーに潜入してコウちゃんたちと別れたのは覚えてる。そのあと俺は地下に槙島の仲間を追って…それで…、)


アレを見てしまったのだ。
…シビュラシステムの真実を。

いまだに脳裏に焼きついているおぞましい光景に思わず眉を顰める。


(…やばいもん、見ちまったよなー…)


実際、それを見た槙島の仲間とやらは目の前で消された。
…人とは到底かけ離れた姿をした局長の手によって。


(…っ、何なんだよあれ…!)


そのあと局長のようなものは俺に向かってドミネーターを向けだした。執行官にはパラライザーモードが適用されるはずなのだが、局長の手に握られたそれは徐々に形を変え、デコンポーザーへと変化し始める。
唖然としていたのも束の間、

やばい、そう思った瞬間、俺は走り出していた。
痛い、切り裂かれた体が悲鳴をあげていた。だが、今はそんなこといってる場合じゃない。
早くこの場から逃げないと、


「うおおおっ!」


通路を塞ぐ局長に思いっきりタックルをかます。槙島の仲間が一発ぶちこんでくれていたおかげで比較的容易に飛ばすことができた。
時間稼ぎの為にドミネーターを奪い去り、後ろを振り返らず一気に階段を駆け上がる。

やっとのことで地上へとたどり着いた時には息も絶え絶えだった。


(っはぁ、…とりあえ、ずコウちゃん達に連絡…っ!)


そう思いデバイスに伸ばした手が思わず止まる。
…もし今さっき俺が見たことを彼らに話したら?彼らもシビュラシステムに消されるのではないか、そんな考えが頭によぎる。…幸いにも今は自分しか知らない。彼らは、何も、知らないのだ。俺が話したことによって彼らに危害が及ぶのはまっぴらごめんだ。

…消えるのは、俺だけでいい。


手元を見ると、体当たりした時の衝撃であろうか、画面がひび割れ無残にも壊れた執行官用のデバイス。…だが今はちょうどいい。これで跡を追跡させることもないだろう。
全く運がいいのか悪いのか、

投げ捨てたドミネーターを進む方向とは逆の方へ思い切り蹴り飛ばす。
…これで少しは捜査の手を遠ざけることができるはずだ。


最後の最後まで国に振り回される人生とは、


「…やってらんねーよ、っ、くそがっ」


そう吐き捨て、傷だらけの身体をひきずり、歩き始める。
あてはない。…だがもうここにはいられない。



(…さよなら、みんな………ごめん、)


最後まで一緒に戦えなくて、



そして俺はいまだ明けることのない闇夜に溶けていった。



*****


いままでの経緯を思い出し、ため息をつきながら上半身をあげると、足元に感じるわずかな重み。
ふと視線をやってみれば椅子に座ったままベッドに頭だけ預けて眠る女の人の姿が目に入る。


(…そういえば、この人に助けてもらったんだっけ、)


あの時は本当に彼女があちらの世界の使いか何かと思ってしまった。
突拍子もないことを言ったにも関わらず、彼女は見ず知らずの、しかも得体の知れない俺を家に入れ、手当てまでしてくれた。
正直そんな人間がいるとは思わなかったから…やはり彼女はどっかの使いなのだろうか、とそんなことを真剣に考えてしまう自分に思わず苦笑してしまった。



いまだうつらうつらと夢の中を彷徨っている彼女の頭にそっと手を伸ばす。
髪をすくうようにゆるく撫でてやれば、心なしか気持ちよさそうな表情になる彼女に思わず笑みがこぼれる。


「…ありがと、おねーさん」


そう呟き、やわらかなその髪に小さな口づけを落とした。

(あなたに拾われてよかった、)





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どうしても書きたかった縢目線でのあの話の続き。
きっとこういうことだったんです。です。←

縢くんはみんなを守るために姿をくらましたということで、ここはひとつ。

次からはほのぼの日常編になったらいいな!←

20120314




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