二人で車に乗り込んだ瞬間、後頭部を引っつかまれひどく強引に口付けをされた。 …いや、噛みつかれたというべきか。 荒々しい口付けはいまも続いていて、酸素の入る余地は全くない。 意識は朦朧としていき、心臓の音がやけに頭に響く。 息を止めると鼓動が全身に伝わる感じがする、あれと同じか。 生きている証。 それを今まさに死にかけながら実感しているとは、…何たる皮肉か。 うっすらと目を開け男をにらみつけると、すでに開いていた男の目はすっ、と細まる。 しばらくして何かを確認するかのような視線を送られたあと、頭をゆっくりと離される。 「っは、あっ…!」 開放された口元をスーツの袖でぬぐい、息を整える。 それに反して目の前にいる男、…狡噛慎也は息ひとつ乱さずに私の様子をじっと見つめている。 「ぃ、きなり、何を…っ」 途切れ途切れにそういえば、視線は外され、煙草に火をつけ始める狡噛。 一息おいて紫煙が吐き出されたあと、「あんたが…」と口を開く。 「…死にたそうな顔をしてたから、」 向けられた言葉の意味がわからず、思わずいぶかしげな顔をすればつらつらと続けられる声。 「息を止めると、鼓動が嫌でも頭に響く。…生きてるって事も嫌でもわかる。」 「…」 「…監視官、簡単に死にたいなんて思うな。」 「っ、」 「俺たちは奪った分だけ生きる責任がある、それが人の命の上に立つ人間のあり方だ。」 それを忘れるな、 そう言って頭に置かれた手はゆっくりとすべり、 頬を伝う雫を、…静かに拭った。 (…ああ、彼にはすべてお見通しだったのだ、) ------------------------ 息を止めると心臓の音が〜のくだりを書きたかっただけなのだが…あれ?← あれです。 執行帰りでナーバスになった監視官を諭す、みたい、な…?← |