小説 | ナノ






「なーにやってんの?こんな所で暗い顔してー」
「縢くん…」


任務の報告書が一段落ついたものだから、息抜きに自販機のある休憩スペースへと足を運んだ。そこには我らが飼い主どのの一人、みょうじ監視官がうなだれるように座っていた。

犬が耳をしょげさせてるのってこんな感じかなー、とか内心考えていたらふいに声をかけられる。

「…みんな、さ」

そう切り出した彼女は下を向いたまま、ぽつりぽつりとつぶやき始めた。


「みんな、…私みたいな、何もできないやつの下で働くの、嫌、だよ…ね」
「は」

唐突に告げられた突拍子もない言葉に、思わず間の抜けた声が飛び出す。俺らがなまえちゃんの下で働くのが嫌?んなことあるわけねぇじゃん。

「…それ、誰かに言われたの」
「あっいや一係の誰かに言われたとかそーいうんじゃ、」

少々怒気をはらんだ俺の声に驚いたのか、あわてるようにぱっと顔を上げて説明する彼女。その頬にはうっすらと涙の跡があって、ああ、きっとほかの係のやつらに俺たちのことを何か言われたんだろうなぁ、と思ったと同時に、そいつらにすげー腹が立った。
それが顔に出てたのか、少し怯えるような目になった彼女にあわてて言葉を投げる。

「それはわかってるよ。だって俺らの中でそんなこと思ってるやついねぇもん」
「っ!」

みんななまえちゃんのこと大好きだし、と笑って告げると再び泣きそうになる顔が見えて思わず頭ごとすっぽりと抱きしめた。突然のことに驚いたのかこわばる彼女の身体、けどそれもすぐのことで、数秒後には俺の黒いワイシャツを湿らせ始めた。嗚咽でかすかに震える華奢な背中を子どもをあやすようにぽんぽん、と叩く。

(こんなちっちゃな身体にきっと色んなものしょいこんでんだろうな。)


…正直、なまえちゃんはこの現場に向いてないと思う。使えないとかじゃなくて、心が、優しすぎるんだよ。
任務で俺らを送り出すとき、いっつも心配そうな顔をする。ちゃんと戻ってきたときはすごく嬉しそうな顔しちゃうし。前ほかのやつらに馬鹿にされたときなんかは真っ先にかばってくれちゃうしさ。…こんな俺たちの為によ?ほんと向いてない!っていっつも思う、けどその優しさに俺は何度も救われたから。だから、


「…俺は、さ。なまえちゃんの下で働けて、すっげー幸せだよ。」


だから、もう泣かないで 俺の"ご主人様"。

そう思いを込めてまぶたにそっと口づけた。


驚いた表情で見上げる彼女、その頬はほんのり赤くて、元々大きい瞳はさらに大きくなって、目前のいたずらっこみたいに笑う俺の顔を映していた。


よかった、涙はもう止まったみたい。



don't cry,my master!



(あ、そういえば…くくっ)
(…?どうしたの、急に笑って)
(…昔さ、俺らが陰口叩かれたときに、なまえちゃんがそこの部署乗り込んでったの覚えてる?"今度うちの部下の悪口いった奴はドミネーターでぶち抜く!!"って、…あれもう本当に最高だったわ!いま思い出しても…ふはっ!)
(………も、もうそのことは忘れて…)
(あのあとぎのさんにめっちゃ怒られてたもんねー!)
(やめてー!ぶり返さないでー!)
(はは、ごめんごめんー!)



…忘れないよ。
だってそれは君が俺たちを全力で守ってくれた証、だから。






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宜野さんはもっとえぐい方法でそこの部署に報復かましましたとさ。
かがりくんは懐くまで大変だけど、懐いたら結構わんこなイメージ。

20121031