小説 | ナノ






午前2時、薄暗い部屋でゆらめくブルーライトとタブレットを叩く音で目が覚める。
音の主はこちらには気づいていないようで、無機質な音が止む気配はない。

「……ぎのさん…?」

薄明かりの方に声をかけると、それまで響いていたカタカタという音が一瞬止み、そしてすぐに再開される。

「なまえ…起こしたか、すまない。」
「ううん、平気。」

相変わらず画面と向き合いこちらを見向きもしない彼の元へ、身体に絡まったシーツを引き摺りながら近づく。
後ろから画面を覗き込むと報告書らしきものが目に入った。

「報告書…?めずらしいね、宜野さんがこんな遅くまでかかるなんて。」

「…今日来た新人が早々にやらかしてくれてな。」

おかげでこっちは徹夜だ、と無表情のままため息をもらす彼を横目にくすり、と笑う。

「…ふふ、先輩は大変だね。」
「……笑い事ではないんだが。」
「そうだね、ごめんごめん」

やっと画面から目を離し、こちらを軽くにらむように見やる彼をいさめるように軽く肩をたたき、相変わらず不機嫌そうな表情を浮かべる顔に話を続ける。私の記憶が正しければ、

「明日も当直だよね?」
「ああ」
「…あんまり遅くならないようにね。」
「…ああ」

再び画面に向き直り、タブレットを叩き始める彼のうなじにそっと口付け、その場を後にしようと、ずり落ちてきたシーツを抱きかかえ、元いたベッドへと向かい、再び横になる。僅かな時間ですっかり冷え切ってしまったそれに少しばかり身が震えるのを感じた。


(寒い、な。…それに少し、)


寂しい、


そう思った瞬間にはもう口が開いていた。


「伸元」
「………何だ。」



「…このベッド、一人で寝るには大きすぎる、よ。」




彼の手が止まり、完全なる静寂に包まれる。だがそれもすぐに終わり、またあの無機質な音が響き始める。さきほどよりも少し足早に。


「…5分だ。」
「え?」
「あと5分で終わらせる。」


そうひとり言のようにつぶやいた彼がこちらに来たのは、

それから2分後のことだった。


am2:13
(ふふ、早かったね。)
(……気のせいだ。)













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主人公は記憶喪失の元監視官、現在は宜野さん直属の特別執行官、という裏設定つき。
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20121029