小説 | ナノ






もう何年前の話だかわからない。
でもときどき、ほんのたまに、思い出すことがあるのだ。






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『緊急出動命令、B-ブロックで立てこもり事件発生。監視官及び執行官はただちに現場に急行して下さい。』


その日もいつもの様に出動命令が部屋に響き、各々が足早に支度をし、部屋を出て行く。
俺も例にもれることなく、手にしていたゲーム機を置きコートを羽織った。

(いまどき立てこもり、ねぇ…)

考えごとをしていたせいで少し出遅れてしまったらしく、置いてくぞ、と声をかけてきたギノさんのあとを急いで追いかける。


「…どうせ逃げ場なんてないのに。」


誰かに言うでもなく吐き出た言葉は自分自身に向けてか、今でもよくわからない。






*****



「被疑者はこの建物に逃げ込んだまではわかっている、…袋の鼠にするぞ。」


ギノさんの言葉を合図にみんなで突入をしたあと、俺は非常階段から上へと向かった。
その建物は廃棄区画にあるだけあっていたるところが崩れかけ、部屋とおぼしきものからは扉だった物がいまにもちぎれ落ちそうな状態でくっついていた。

「悪い子はどこかなー、と…いたいた」


静まり返った廊下から微かに物音が聞こえそちらに向かうと、案の定目的の人物が部屋をうろついていた。


「…こちらハウンド4、本星発見。どうします?」

『よくやった。状況は』

「いまなら騒がれずにいけそうですよー…俺一人でやっちゃいます?」

『……しくじるなよ。』

「はいはいっと、」

じゃあ今日もよろしく頼むよ、といつもの様にドミネーターに軽く口付け、照準を合わせる。無機質な声が響き、標的にジャッジがくだされた。


「さよなら…悪い子ちゃん、」


バァンッ!という音と共に悲鳴とどさり、という音と、きゃあッ、という声が聞こえた。
…ん…?きゃあ?


(…おいおい嘘だろッ?!)


聞こえるはずがない声が聞こえ、途端に冷や汗が背中を伝う。人質の報告はなかったはずだ、でももし、もし中に人がいたら…!
早くなる鼓動を抑え、息切れをしながら急いで部屋に飛び込む。
と、動かなくなった犯人の横にしゃがみこみ、呆然とこちらを見上げる幼い少女がいた。


…それが僕と君のはじめての出会い。











*********


「それで、縢。…その腰についているものはなんだ。」
「はは…えと…、」


結局あのあと、小さい女の子をあそこに置き去りにするなんてできないから保護しようと近づいたら腰に思いっきりしがみつかれてしまい、「ちょ、ちょっと…ッ!」ととまどいながら引き剥がそうと試みるも、全くもってびくともしない。一体この小さな身体のどこにそんな力があるのやら。「…」だんまりを決め込み離れようとしない少女に一つため息をこぼし、そのまま下へと降りてきた。


案の定、下で合流した仲間には「縢…ついにお前、」とか「やっちまったか…」とか「近づかないでロリコン」だとか散々のいわれようだった。…って結構ひどくね?これ。
ちょっと傷ついた心をひきずりながら、誤解を解く為にギノさんに事情を説明していると、腰にまわされた細い腕に力がこもる。何かと思って下を見ると、

「ちょっ、コウちゃん!何やってんの!」

ドミネーターを少女に向けているコウちゃんがいて慌てて止めに入る。
「…サイコハザードが起きてないか確認したくてな、」というコウちゃんに「だからって小さい女の子に銃向けちゃダメでしょ!」と注意すると「…すまん、こっそりやったつもりだったんだが…」って、全然こっそりじゃなかったからね!と内心突っ込みを入れたくなった。

「それでどうだったんだ?狡噛。彼女のサイコパスは。」

「ああ、問題はなさそうだ。ただ…」

「ただ?」

「縢の傍を少しでも離れると数値が悪くなる傾向がある。」

「は」

何それ、ドミネーターってそんなこともわかるの。って普通逆じゃね?俺と一緒にいたら逆に数値上がっちゃうでしょ、て、何ギノさん笑ってんの。いやな予感しかしねーんだけど、

「…それは困ったな。縢、お前が端末を吹き飛ばしたせいで彼女の身元の確認に時間がかかっている。」

「す、すんません…」

「それで身元がわかるまでは一係で預かることになってな。…この意味がわかるか?」

「……えーっと、それってまさか、」

「そのまさかだ。」

お前が彼女の面倒をみろ、そう告げるギノさんの後ろには親指を立てるコウちゃんと、これからおもしろいものが見れそうだ、とでもいわんばかりの笑顔をした一係の面々がいた。


これが君と僕の、短くて長い生活のはじまり。



終わらない恋の話をしよう。





(いまでも忘れない、あいつらの楽しそうな顔。)


(…ちくしょう!人ごとだと思って!)





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長くなりそうだったので、半分に。幼女と青年、非常においしいでs
あ!縢くんはロリコンじゃないですよ!←

20121110