小説 | ナノ
「へっくしっ!」
「…大丈夫か?」
冷たい木枯らしが吹き荒れ、肌を刺すようなさ寒さが襲う季節での外の任務。あまりの寒さにくしゃみをしてしまった私に、共に任務にあたっていた狡噛執行官が心配の声をかけてくれる。
「だ、大丈夫じゃないです…寒い…」
「…女ってのは大変だな。こんな季節でもそんなひらひらしたもん履いて。」
そういってスカートのほうにちらりと視線をやられる。いくら下にタイツを履いていてもこんな薄手の腰巻きの防御力などたかがしれている。ある意味修行のようなものだ。…自虐的に身体を鍛えるのが好きな狡噛さんならいい修行になるんじゃないかと思って、
「…狡噛さんもどうです?修行の腰巻き」と勧めると、とても苦々しい顔で「……いや、遠慮しておく。」と言われてしまった。
確かにマッチョのスカート姿はなぁ…とか考えてたら頭を軽く小突かれた。
「…お前今失礼なこと考えてただろ」
「…すみませんさむさのあまりついできごごろで、」
早口かつ棒読みでそう告げると、狡噛さんはあきれたようにはぁ、とため息をついた。続けて何かを言おうとしていたので小言は勘弁、と思い先に口を開く。
「狡噛さんにそんな顔させるつもりはなかったんです…。一緒にいると迷惑だと思うので私…、」
「いやそんなことは」
「そこのコンビニでおでん食べてますっ!」
ダッという効果音とともに走り出そうと足を思い切り踏み出した瞬間、首根っこをがっし、と掴まれる。
「こら待て給料泥棒。」
いきなりの予想外の動きで締まった首元からはぐえっ、という声が漏れる。
締まったせいで涙目になった顔で狡噛さんをうらめしそうに睨むと、「任務中だ、馬鹿。」と再び頭を小突かれる。馬鹿とはなんです、私は狡噛さんのことを思ってですね…と文句をぶつぶつ言っていたら首根っこを離され、険しい顔をした狡噛さんにじっと見られる。
さすがに怒ったかな、と思い気まずそうにうつ向くと、先程よりも深いため息が頭上に降ってきた。おずおず顔をあげると、仕方ねぇな…、とぼそっと呟いた狡噛さんがポケットに手を突っ込んでコートの前を広げていた。
「…ほら。」
「?」
狡噛さんの言葉の意味がわからずクエスチョンマークを浮かべていると、痺れを切らしたのか、狡噛さんは私の身体をぐいっと引っ張るとその暖かなコートの中にぼふっと収め、後ろから抱きしめてきた。
…急に感じるぬくもりと、ふと鼻を掠めたかすかな煙草の香りに、心臓が高鳴るのがわかった。
「入れてやるから、…ちょっとは大人しくしてろ」
…言われなくてもこんな状況になれば大人しくなりますよ、と内心突っ込みたかったが、耳元のすぐ近くで聞こえた掠れた声がくすぐったくて、…熱くて、それどころじゃなかった。
そんなてんやわんやしてる私をよそに、狡噛さんは「あーやっぱ子どもは暖けぇなー…」とか言いながら私の首元に顔をうずめている。
余裕な姿と子ども扱いされたことに、むっとしていると「何?」とにやにやしながらこちらを見ている狡噛さんと目が合った。
そっちがその気なら、と負けじと言葉を口にする。私だっていい大人だ、子ども扱いなんてさせてやらない。
「…コウガミサン、私もっと暖まる方法知っているんですけど、」
「……ほう、何なんだそれは?」
少しいじわるく告げると、口の端をさらににやりと上げこちらを見下ろす彼の顔。答えはわかっているのだろう。こういうトコロは本当に意地が悪い、そう呆れつつも身体を後ろによじらせ、答えを待つ耳元に、そっと口唇を寄せる。
「それはですね…ー、」
「…ってあぁーっ!被疑者です狡噛さん!!」
「何だとっ?!」
とある冬の日のできごと。
(…この状況を説明してもらおうか。)
(はい!宜野さん!狡噛さんと二人羽織りをしながら任務に当たっていたところ、被疑者と遭遇、なぜだかわかりませんが気絶した次第であります!きっと私たちの姿に恐れをなしたんですね!)
(みょうじ…とりあえず今すぐそこから出て来い。)
(…寒いであります)
(…お前がチャックを全部閉めているせいで、こちらからは狡噛から女の足が生えているように見えて気味がわr)
(ぶはっ!!)
(…縢、)
(だ、だってギノさん…直入すぎ…!ぶふっ)
(……狡噛、何かいいたい事は)
(いや、その……ギノ、なんかすまん)
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最近めっきり寒くなってきましたね…(遠い目)
狡噛さんにこら、と給料泥棒と馬鹿、って言ってほしくて書いたもの。(白目)
20121108