act.03
少し広いリビング的なところに入ると既にメンバー全員が揃って朝ご飯を食べていた。私はいつもの様に、自分の指定席に座わる。

(バイトの事って何だろう…)

美味しそうな卵焼きの匂いが充満してて、私の備考をくすぐりお腹を鳴らした。まぁ、考えでも仕方がないので。

「おはようございます」
「ふぁ〜、おはようヒノ」
「おはようございます、カノ」
「おっ…おはよう!」
「そんなに緊張しなくて良いよ。おはよう、マリーちゃん」

私が席に着くとメンバーから挨拶が口々に飛んでくる。私はその挨拶を笑顔で返して、たわいもない会話を始める。それが日常で。と、そんな事をしていると私の目の前にカノとマリーちゃんと同じ卵焼きが運ばれてきた。うわぁ、美味しそうと思ったけど、まずはお礼、お礼。

「おはよう、セト!卵焼きありがとう」
「おはようございますっす!卵焼きぐらいで御礼なんていいっすよ!」
「え?でも、運んできてくれたし、私、セトの卵焼き大好きだから」
「ははっww今日も特別製なんすよ?それじゃ、ヒノのほっぺが落っこちて無くなってしまうっすね!」
「特別製?」
「そうっす!ヒノは甘いのが好きっすからね!少し砂糖を多めに入れたっす!」
「それ、太っちゃうんだけど…。でも、うん、ありがとうセト!」
「いえいえ、今日もヒノはバイトっすか?」
「あ、うん、そうだよ?」

なんて会話を緑のツナギを着ている少年―セトと繰り広げてたら、『その事だが』と、キドの声が私の耳に届いてきた。

(あ、忘れてた)

そういえば、キドとバイトの話をするってついさっき話してた…なんて卵焼きで早くも忘れてた自分の思考回路が少し恥ずかしい。

「バイトの事だが…ヒノは少し減らせ」
「え?」

キドの言葉に私、バイトに関して何かしたのかな?なんて考えてみるが、一切身に覚えが無くて。取り敢えず、メカクシ団を辞めろとかじゃなくて良かったぁ…と安堵する。でも、何で今更になって…?

「あぁ、それは、ヒノが最近無理しているからだよ」
「ふぇ!?」

いきなり、背後に出てきて私に話しかけてきた猫目−カノは「あれ?図星?」なんて言いつつニヤニヤしてる。不覚…変な声が出てしまった。うっわぁ、恥ずかしい、絶対今顔真っ赤だよ…!

「おい、カノあんまりヒノを虐めるな」
「やだなぁ〜、虐めてなんか無いよ、ただヒノは顔に出やすいからからかいがいが……ぐふぅ…っ!」

目の前でキドの拳がカノの鳩尾をクリーンヒットした。キドはふぅ…とでもいいたげに手をパンパンっと叩いて目だけ私に向ける。

「あのな、ヒノ。バイトを許可した当初に約束した事覚えてるか?」

「約束…?」

頭をフル回転させて考えてみる―が何も思いつきません。さっきの事といい、私は相当記憶力が無いみたいで。

「それは、完全に覚えてないな…」

はぁあぁ…とキドが大きな溜め息を吐き出した。本当、ごめんなさい、記憶力なくてごめんなさい…。

「約束、体を壊さないレベルにしておけ、と言った筈だが?」
「……言い、ましたっけ?」
「お前、どれだけ記憶力が無いんだ…」

呆れたような、茫然とした様なキドの顔がこちらに向けられて、乾いた笑みしか出ない。取り敢えず、笑って誤魔化そうかと思って「あ、はははww出来ることなら、頭を開いてでも見せて…」と言いかけて、「いや、良いから」エグいし、とキドに速攻で突っ込まれる。

(…ですよねー)

「まぁヒノ、お前は体が弱いのに頑張りすぎだ」
「え?頑張りすぎ?でも、私まだまだ元気―――」
「この前、帰ってくるなり自分の部屋に閉じこもって実は熱出てました、で寝込んでいたのは誰だ?」
「う…」
「大体、子供の時から熱を出しやすい体質なんだ、本来は反対するべきなんだが…」

と、キドは私に向けていた顔を少し俯かせて申し訳無さそうな表情をした。しかも、遠くに居るマリーちゃんも泣きそうになってるし…。

(私、知らない間に皆に迷惑かけてたんだなぁ…)

なんて、改めて実感をして。今、この場で大丈夫なんて言っても恐らく逆効果。私は皆の顔を見て静かに頷いた。

「分かりました。必ず、いくつかは減らします。…マリーちゃん、心配かけてごめんね?」

「え…ぁ、大丈夫!」

「うん、ありがとう!キドも迷惑かけてごめんなさい、悪いのは私ですから、キドは顔を上げて?カノはほら、立って下さい。服、汚れちゃいますよ?」

なんて、私は苦笑いを向けながらカノに手を差し出す。カノは少し驚いた表情をしたが、私の手を取ろうと手を伸ばす。



――と、パシンッと少し音を鳴らしてカノの手が弾かれた。



(え…?)

なにがあったのか理解不能の頭は取り敢えず、カノの手を弾いた人を見る。カノは両手を地面について座った状態から、その弾いた本人を冷たく、疑い、微妙に口角が上がった状態で見ていた。周りは時間が止まったようにして、一時停止。聞こえてくるのはセミの鳴き声だけ。



加筆修正:20141010
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