act.14
「待たせたッスか?」
「ううん、全然待ってないよ」

広場に唯一ある青いベンチに腰掛けて笑うヒノ。正直、ヒノは他人に迷惑をかけないように愛想笑いをする癖が昔からあったから、言葉の真偽はいまいち分からない。実際、待っててと伝えてから、遭遇したお客さんに道を訪ねられたりして15分以上は経過していた。でも、ヒノはどんな言葉をかけても、相手に嫌な思いをさせるような事は言わないだろう。
仕方ない、と思い、ベンチの横に腰掛ける。

「ヒノもう昼ご飯食べたっすか?」

ヒノの手の中には水のみで。

(あ、きっと食べてないっすね)

「あ、ううん。今は食欲無くて。水だけで良いの」

案の定の答えがヒノから返ってきて、思わず溜め息が零れる。

「そんな事してると身体壊すっすよ」

ヒノが寝込んでいるのはよく見る光景なのに未だ俺は慣れない。未だどころか一緒慣れないだろう。

(好きな人が苦しんでるのを見て、嫌じゃない人は居ないっすよ)

「セト、セト」と気がついたら目の前にひらひらと振る手が見えて、はっと我に返ったらヒノが「セト、恐い顔してたよ」ってあはは…と笑う。
でも、それはヒノの本心じゃないっすよね。ずっと前から気がついてる。あの日からヒノの笑顔は寂しそうに躊躇いを含むようになった。まるで、心此処に在らず、な笑い。ヒノは周りを見て合わせる。

−−きっと、だからっすね

ヒノはいつだって周りを考え過ぎて自分の感情を第一に考えようとしなかったから、今の自分の気持ちに気がつかないんだろう…気がつかないフリをしてるんだろう。

(ヒノは…きっとまたカノと話したいんすよね)

ヒノはこのままじゃ、何時までも動けなくて。カノの方も常に感情を偽っているから二人の間に進展は生まれない。

(俺は、何よりもヒノの気持ちを大事にしたいっすから)

ゆっくりと。手をそっと華奢な手に重ねれば、ヒノの体はビクッと跳ねた。それがまだカノとの出来事を覚えていて、侵食しているようで。

(…面白くない)

今のヒノの頭にはカノしかいない。どんな形であってもカノはヒノの頭の中に"カノ"と言う存在を置いたのだと。それに対して俺は何も残せて居ない。けど、焦るつもりもない。

ゆっくりとヒノから離れて、足の下に座ると笑いかけた。ヒノはそれに対してきょとんと(何をしてるの?)と言いたげな顔を向けてくる。

「ヒノ、これからちょっとだけな話しないっすか?」

彼女が微笑んでくれたのを了承と受け取って俺は続ける。

「カノとヒノの話。ヒノは…カノと仲直りしたいっすか?」

ビクッと体が強張って、下を向くヒノの顔をいくらでも待ってやるって思いながら見つめる。








「…仲直り、したいよ、本当は…」

沈黙数十秒。ぽろり、と零れてきた言葉は余りに小さかったけれど、俺にはそれで充分。
腕を掴んで、ぐいっと引き上げると「ひゃっ…」と声を出すヒノの頭をぽんぽんと撫でる。

「…今日、午後からは予定無いっすよね?」
「え…あ、うん。無いけど…」
「じゃあ、キド達と合流出来るっすね!」
「え?合流って…?」

頭にハテナを浮かべる目の前に、さっきキドから届いていたメールを翳した。

============

frm キド
sb 無題

新しい団員を確保した。
名前は如月桃だ。
それと、マリーがモモの携帯を壊したから、今からそっちのスーパーに向かう。

ヒノにも連絡頼む

============

「って事っす!」

携帯に目を凝らしながら、呆然としてるヒノの背中をとんと押した。
たたらを踏む、ヒノに手を振る。

「決意が鈍らないうちに行ってくるっすよ!きちんと仲直りできるっすからきっと」
「……え、あ、…ありがとう!」

一瞬の間を開けてヒノは走り出す。俺はそれを笑顔で見送った。








「カノ、勝負はフェアから始めないとしっかりした決着付かないじゃないッスか。これで、初めてお互いスタートラインっす」

明るく、呟いた言葉は風に乗って消える。


20140523
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