act.12
「セトー、お昼だよ?」

と、小さな体をバタバタと揺らしながら走っているヒノの姿が目に入る。靡いている髪が太陽の光を受けて光り輝いて、とても綺麗だと思った。

「あー、もうそんな時間っすか?」

仕事に夢中になって、気にする事も無かった店の時計をチラリと見ると、既に12:13分。しかし、すぐ休むには手に持ってる段ボールが邪魔をする。仕方なく、段ボールを目立つ様に少し持ち上げ、笑った。

「じゃあ、これを運んだら昼休みに入るっす」
「うん、分かった。いつもの場所で待ってるね」

ヒノは頷く変わりに微笑みを浮かべる。それだけで、俺の鼓動はドキンっと跳ねる。心臓のバクバクが本当にヒノの事を好きだと証明している様で。あの笑顔を俺のものにしたい、とか不覚にも思ってしまう。

(でも…俺は)

臆病だから。孤児院時代より変われたようで現実は一切変われていなかったんだって心の底から理解する日々。

(カノのようには攻められないっすよ)

ヒノにアピールしようと決意した数日後、結局何も出来ない俺がヒノから相談された話。

───「カノに…」───

耳を疑った。あの日、俺はずっとリビングに居たのに気がつかなかった。あろう事か俺がヒノを訪ねた為に、そんな怖い思いをするとは。

(……情けない話っすね)

守りたいとか愛しいとか思うわりに何も出来ていなくて。ヒノのバイトを俺と同じに合わせて貰ったのも、俺がヒノの側に居たいだけ。ただの所有欲の自己満足。これで、一番近くにいるって、守ってるとか考えてるのが馬鹿馬鹿しい。
怖くて。カノみたいに距離を置かれたくなくて。びびって何も出来やしない。でも、カノの気持ちもよく分かるんすよ。

(もし、俺がカノと同じ立場だったんならどうすんすかね…)

カノが、ヒノの事を好きって分かっていながら俺に相談して。そして、宣戦布告して。カノがもしかしたら、負けたくない、とアピールを始めるかもしれない。そうだ、きっと

───俺も同じ事をする。

(でも、あそこまで乱暴な事はしないっすね)

考えれば考えるほど、俺の中の最近のカノへのもやもやは薄れていって、苦笑いが零れ落ちた。

(まぁ、カノには譲らないっすけどね)

改めて思った決意。俺は持っていた段ボールを片して、いつもヒノがお昼を待っている公園に駆け出した。



20140516
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