act.11
※…キド視点


















「あぁ、言い忘れていたけど…」とカノが呑気に声を上げれば、アジト内はその言葉が響き渡った。

「今日、新入りが来るよ」
「……は?」

思わず、口から不快極まりない声が零れる。何を言ってんだコイツは。現在、時計の針は8時を指そうとしていて。セトとヒノはバイトに出掛け、マリーは部屋から出てこない。つまりは、リビングで二人きりだった。
しかし…リビングが俺と二人だけにしても分かりやすい嘘を吐きすぎだろ。

「あれ?キドには言ってなかったっけ?」
「そんな事は聞いてないぞ」
「あれ?そうだっけ…?」

なんて呑気な声を漏らしつつカノは手に持っていた雑誌を顔に被せて、頭の後ろで手を組んで悠然とソファーに凭れ掛かっている。でも、俺には普通にしていられるカノが理解できない。
…昔から、コイツには悩みが無さそうだなと思っていたし、まだそう考えてしまうんだ…が、実際カノはかなりの悩みを抱えてるんだろうな。その上、カノとヒノの事を聞いたのはそれこそまだ数週間前だ。そんな短期間でカノとヒノの心が癒えるとは思わないしな。まぁ、少し言葉返してくれる様になったらしく、それは多少なりとも癒えているのかも知れないが。
でも、内心は嫌なんだ。せっかく出会えた、始めて作った心を打ち明けられる友人が…このギクシャクした空気のままなんて。でも、自分には力が無い。関係を元に戻す力なんて…。皆、大人になってるのに情けないな。でもさ、私、皆とこれからもずっとずっと仲良くしていたい。
だから、俺に今出来る最善は?団長として。幼なじみとして。また、仲良くテーブルを囲みたいから。何かをしてあげたい、したい。私に出来ること……

それは…恐らく

「おーい、おーい、キド聞いてる?」

目の前でひらひらと手を振っているカノが目に入って、自分の考えを振り払う。

「あ、あぁ…で、新入りがなんだって?」
「うん、その子街の方できっと大きな人混みを作ってるから分かるはずだよ。迎えにいってあげて」
「…時間は?」
「ハッキリは分からない」

…ったく、コイツは…と思い俺はカノの鳩尾に力一杯拳を叩き込んだ。同時に「ぐっ、ふぅ…」と苦しそうな声が聞こえるけど気にしてやるものか。

「また、自分で決めやがって」
「…っぐ…キド、今のは何時も以上に…」
「はぁ…時間が分かんないんだろ?行ってくる」

カノを一瞥して扉に向かって足を向けた。「え…?僕は?僕は放置なの?」なんて声が聞こえたが…無視。

外に出ると心地よい風が吹いてきて髪を揺らした。

ずっと昔からいた幼なじみ。カノ、セト、ヒノ。カノは掴み所が無くていつも飄々としていて。セトは他人思いで以外と小心者の一面もある。ヒノは常に自分より他人を優先して、放っておくと自分を犠牲にしようとする。どれも、どの人も欠けてはならない俺の大事な仲間なんだ。家族なんだ。今、俺に出来ることは−−皆の近くに居て、話を聞いて、支えてあげる事。私は私で出来ることを精一杯やる。

──……‥‥

「あの…私もうお仕事止めたんです。暫くは帰る気もありません。なので…えっと、分かって頂けませんか?」
「……あぁ、あんたの覚悟は分かった。だからまあ取り敢えずついてきてくれ」





20140512
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