act.09
「ヒノ…」

聞こえたカノの声。そう声だけなのに体がビクッと跳ねた。
そして、聞こえてきた声は何時もの調子のものに戻っていた。

「…もしかして騙されちゃった?」


その一言に耳を疑った。静止する私の思考回路。そんなのを余所にカノは言葉を並べていく。

「遊びだよ、遊び。本気で襲うわけ無いでしょ?ヒノを襲うならもう襲ってるよ。だから、遊び。」
「あそ、び…?」

嘘って言って欲しかった。誰でも良いから嘘って言って。あんなに怖かったのに遊び?私を騙しただけ?悲しいを一気に通り越して、最早涙も出なくて、茫然とするしかない。
一方カノは、目の前で騙されちゃったねと言うかのように、何時もの様にやれやれ…といったポーズを取っている。

「ヒノ…怒っちゃった?」

(怒らないわけないでしょ…?)

「ごめんね、少しやり過ぎたとは思ったけど」

―――ヒノがあまりにも弄りがいがあって。

一瞬、その言葉を聞いた刹那プツン―――と私の中で何かが切れた音がして。無意識下で私は手の下にあった枕を力一杯カノに投げつけてた。
同時にポロポロとシーツが濡れていく。

「出て行って!お願いだから、今すぐ!!

―――大嫌い!!!」

一度勢いが付いたら止まれなくて。怒鳴ってからハァハァと息を二回ほど吐き出して…気がついた。

カノが今まで見たこと無い位、切ない表情をして目に涙を浮かべていること。

「あ…いや…その…」

謝ろうって思った。勢い任せに大嫌いなんて言ってしまって…本当は大嫌いじゃないのに。なのに口が動かない。頭をフル回転させて考えるけど、思いついた言葉は固まった口から一つも出てくれない。

「ヒノ、何か言いたいことでもあるの?」

聞こえてきた声はまた、何時もの飄々としているカノに戻っていた。涙も切ない表情も嘘みたいで。

(あるよ、謝りたいよ…だけど、ね…口が…)

カノはふっと何時ものニヤニヤの笑みを浮かべた。瞬間、気持ち悪さが私を襲う。それが何なのかは分からないけど。カノから俯いて目を逸らした。

「でも…ヒノ、本当にごめんね」

上から降ってきた言葉はいつもより儚げで消えてしまいそうだった。その言葉は、カノが私の目の前から消えてしまうようで。
案の定なのかは分からないけど、消えまではしないと言う意味だと思うけど。カノは私から目を逸らして言ったから。

「―――もう、ヒノには関わらないよ」

ふっと、カノが固まった私の横を通り過ぎた。止めなきゃ…そう思っているのに体が動かない。そして、目の前でバタン―――と扉が音を立てて閉まった。
「…っ…ごめ…なさ…ぃ…」

やっと一言出た一番伝えたい言葉は嗚咽を含んでいて。何度も何度も私は繰り返す。だけどもう、彼には届かない…。ポツポツシーツに生まれる染みは徐々に増えていく。



 
prev * 10/16 * next
+bookmark
| TOP | NOVEL | LIST |
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -