act.08
セトはまだ…ヒノの事を―――
まぁ、初めから確信を抱いて居たんだからこんな事を考えるのは野暮なのかもしれない。

暫く、間を置いた。セトが先程叩いた扉は既に静まりかえっていて。ホッと安堵の溜め息を吐いて僕はヒノの上から退いた。ヒノの目には涙が浮かんでいて、少し可愛いと思ってしまった僕にはサディストの気があるのかも知れない。

「ごめんね」
「あ…」

謝りながら差し出した手を怖がるかのようにヒノは後ずさった。

(あぁ、そうかそんなに)

今の一瞬でヒノを怖がらせてしまったのか、と。
あくまで無意識下の行動だった。その行動がこれほどまでヒノを傷つけるのかと。

(まだまだ…ダメだね、本当)

余裕が無くて。セトにこの感情を相談―――否、告白したときには既にずっと前からヒノに好きと言う感情を抱いているのは重々承知していた。だからこそ、セトに伝えた。これは気紛れと決意からだ。

僕は知っていた、気がついていたから。セトがヒノの事を好きだって事を。それこそ、僕がヒノを好きになる前のこと。

(セトは本当に分かり易いからね…)

あの時は、何でセトはヒノに気持ちを伝えないんだろう。アピールしないんだろうって思ってた。

(……だけど、今は、まぁ…分かるかな)

目の前には僕と目を合わせるとビクッと体を強ばらせ震えてる愛しい人。

(…セトは関係が壊れるのが嫌だから、怖いからこのままで良いと思ったんだ…)

本当、僕達は変わっていないね。そう、不意に思った。だって、そうでしょう?子供の頃から凄く臆病なセト―――今、涙を隠す僕。
相手にヒノに僕の本心を怖くて見せられない。好きなのに、この僕の全てを見せることを躊躇ってしまう。

「あぁ…本当に僕は」

―――なんて汚いんでしょう!

お願い気がついて、僕の本心に、なんて。本当の僕を見て、なんて言えなくて。あぁ、今ヒノの目に映る僕はどんな表情をしていますか?ヒノを傷つけていませんか?

好きなのに、嘘を吐いてしまう僕を…ヒノは好きになってくれますか?

ヒノにまで嘘を吐いてごめんなさい―――



***



怖かった。いきなり押し倒されて、カノが上に乗ってきて。そして始めてみた…扉越しのセトに向ける冷たい目。同時に、何かが背中を這う感覚が襲ってきた。呼吸も出来なくて、死んでしまうかとも思った。

……だけど、確かに本当のカノを垣間見れた気がした。

(どうして…?)

何でカノは冷たい目をセトの居る扉に向けられたんだろう。怖くないって言ったら嘘になる。正直、怖かった。私の知らないカノが…怖い。

「ごめんね」

そうカノが手を差し出した、私の口を塞いだ左手。本当にカノは申し訳無さそうな顔をしているのに、無理、ごめんなさい。私の中は恐怖で埋め尽くされているようで、無意識に体を引いた。
その刹那、カノが少し目を見開いたのが分かった。ごめんなさい、本当にごめんなさい。
俯く私と呆然とそこに立っているカノ。近いのに、距離がある…そう感じた。


 
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