act.07
目を開けるとその至近距離にカノの顔があった。え…?あ…?と、私の頭には急な思考転換は不可能。ただ、カノの吐息が肌で感じられて、恥ずかしくて顔を咄嗟に反らす。
(え…?こ、これはどういう状況なんですか…!?)
今にもはち切れそうな程、バクバクと早打つ心臓。正直、今なんの話をしていたかも考える余裕が無い。
「僕がバイトを反対する理由は―――ヒノが心配だから」
聞こえない、いや…聞いていませんでした。話を聞く余裕も既に無い位まで切羽詰まってて。
(え…と、えっと…この状況を何とかしなきゃ…!)
深刻なエラーが発生、っといった感じのこの状況。私の頭は既に働かなくて。隣でカノは自分の片腕を枕にするようにして、ニコニコと私を見ていた。
(絶対、絶対遊ばれてる!)
頭がぐるぐるして、何とかカノを引き離そうと胸を押すけど、変わらない笑顔を向けてくる。そんなとき、
―――トントン
不意に、現実に戻す様に叩かれたドアの音が部屋に響く。
「ヒノー、居るっすかー?」
(あ…セト!)
私は今救世主が現れました、という気分で心底安心して。だけど、カノは怪訝そうな顔をし、目で扉だけを見ていた。
私は、早くこの状況を打開しようと、セトの居る扉の方に向かおうと立ち上がる。
「ダメ、行かせないよ」
後ろから聞こえてきた声、それと同時に掴まれる腕。え?と疑問符が口から零れそうになった…が、それも、いきなり引かれた腕のせいで、呆気なく飲み込まれた。
全ての犯人は一人しか居ない、居ないから私は再び戻されたベッドの上でその犯人を見た。
「あ…あの、カノ…セトが呼んでいるから、取り敢えず、その手を離して?」
「……。」
無言で顔を俯かせているカノ、その表情は短い前髪の影になってて読み取れなくて。はぁ…と、私は息を吐いた。
カノの行動が可笑しくなるのは時々ある事だったから、全然馴れてるけど…。流石にセト放置は駄目だよね…。
まだ扉の向こうでは「居ないんすかー?」という声が聞こえてきてて。取り敢えず、体を起こす。
「お願い、カノ…」
「……」
返答は無い。握られたままの手。なのに、反応はあった。
薄気味悪くカノは俯いたまま笑った。
***
ぐるりっと一瞬にして世界が反転した。カノの何かを企んでいる時の笑顔の審議を聞く前に私はカノに組み敷かれ、見下された。
「ねぇ、僕よりセトが良いの?」
「そんな、事じゃ…」
「じゃあ、何で離れようとするの?」
離れようとしている訳では無いよって言おうと思ったのに、次の瞬間無理矢理、塞がれた。そう、カノのキスによって。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい…!
なんて感情を口が塞がれていて伝える事も出来ない。やっと、口が離れたと思ったのに、次はカノの手が塞ぐ。
(可笑しい、今日のカノは可笑しいよ…)
でも、気がつくには時は既に遅くて。頭がだんだんと霧がかかる様に真っ白に…ぼーっとしていく。同時に襲ってくる眠気。どうして?なんて考えられないぐらいまで眠気は次第に大きくなって、そのまま目を瞑った。一滴の涙がツツゥ―――っと頬を濡らした。