act.06
「じゃあ、話を本題に戻そうか」とカノ。
あれからかなり二人で笑いあった。昔の話もいっぱい久し振りにして。キドのスカート姿の写真とか、セトが初めてバイトをしてお客さんに怒られたとかで泣きそうになりながら帰ってきた事とか。
「はい、話って…バイトの事ですよね…?」
「うん、そうそう」
カノは私から少し離れてベッドの上に胡座をかいて、楽な体制に座り直す。それを見て、私も楽な姿勢に変えようと正座してカノを見た。
二人の目が、視線が絡まる。真っ直ぐお互いを見てる。……けど、まぁ。幼なじみだし。私的には話を聴くときは目を見つめるが普通で。
「それで、カノはバイト反対なんだよね…?」
「うん。よく分かってるね」
「初めに言ったから分かります…」
「あぁ、確かに言った、言った!まぁ、ヒノの事だから忘れていると思ってたけど…www」
あの、カノそこまで言うと心外ですよ?と言いかけて、言葉を飲み込んだ。また、話が逸れちゃうかも知れない、と思って。
生憎、もっとこうして話していたいけどバイトの時間まであんまり無くて焦ってる。遅れたら迷惑かけちゃうから…、早く話を終わらしたかった。
「でも、何でカノは反対なんですか…?」
「え…?何でって?」
「あ、いや…ごめんなさい。同じメカクシ団だから、ですよね!」
私は目を疑った。だって、カノがその言葉に目を大きく開いて驚き、一瞬固まって俯いてしまったから。
(あれ?私…何か、変な事言った…?)
無言で俯くカノとそれを見つめる私。どうすれば良いのかさっぱり分からない。何があったのかもさっぱり、私には分からない。取り敢えず、私はカノの頭を撫でた。
***
『同じメカクシ団だから、ですよね!』
たった一言が僕の脳内で反響を繰り返してリフレインを起こす。その一言はヒノ自身に悪気がないことも分かっている。
思考が止まった。驚きしか出なかった。欺くのすら忘れてしまった。それぐらいに衝撃が大きかった。
それはさ、つまり
―――僕自身、男に見られていないって事で。
―――恋愛対象として見られていないって事で。
あぁ、僕は何時までもヒノの中では幼なじみらしくて。悲しくなった。僕がヒノを思うのにヒノは僕をただの幼なじみ。そう、セトと同レベル。
(嫌なんだ、悔しいんだ。それが…)
大好きなヒノと一緒に居たいから。心が焦り始める。燃えて、締め付けられて、それに抗う様に逃げる様にバクバクと脈を打つ。
死んでしまいそうだ、ヒノが好きすぎて。どうすれば、ヒノは僕を好きになってくれるの?
言葉に出していないから言葉は返ってこない。その変わりに、ヒノの細い、しなやかな指が僕の猫毛を撫でた。
ふっと顔を上げると、ニコッと微笑むヒノが居て。
「ごめんなさい。私、カノに何か酷いこと言っちゃったのかも知れない、だから…ごめんね…」
俯いて、寂しそうな顔をするヒノを見ていた。そんなヒノを可愛いと思ってしまった。
(もう、可愛すぎ…)
グイッと腕を引っ張ってベッドに倒れる。すると、ヒノの小さな愛らしい唇から「きゃっ…」って小さな声が漏れた。
(あぁ、好き。本当に本当にヒノが好き。)
思わずキスをしようと思ってしまって、顔をかなりの息がかかる至近距離まで寄せた。君の唇まで数ミリ。そんな時、ヒノが目を開けたから、…出来なくて。咄嗟に真っ赤な顔を隠すように、欺いてしまう。
(真っ赤な顔なんて恥ずかしくて見せられない…)
…そして、さっきの本題の続きを持ってきた。
「ねぇ、ヒノ、聞いて。僕がバイトを反対する理由は、ヒノが心配だから。」
かぁあって。真っ赤になるヒノが可愛くて。欺いていなきゃ、心が持たない。
(あぁ、セトにヒノを渡したくない)