▼ 視線なんて距離じゃ遠すぎて
※拍手ログ1
今まで読んでいた本からふっと顔を上げると、少し離れている所からの視線を感じた。
あぁ、またなまえすか。そう思い、俺はなまえを手招きしながら、微笑んだ。なまえはバレた…!?とでも言いたげに、顔を真っ赤にしてこちらに歩いてくる。
『どうしたんすか?なまえ』
なまえは静かに俺の隣に座って、少しふてくされた顔をしている。
『あぁ、構ってくれなくて拗ねたんすね』
『ち、ちがうもん!』
なんてなまえは言ってるけど、顔どころか全身に焦りが出ている。なまえは本当に分かりやすいっすね。そう思っていると不思議と笑みがこみ上げてきて、ははっと笑ってしまう。なまえは真っ赤な顔のまま此方を見てきている。
あぁ、気になってる、気になってる。なまえはすぐに顔に出てしまうタイプだから。なんて考える俺は相当なまえが好きなようで。
『なんで笑ってるの?』
『あぁ、何でもないっすよ?』
俺はまだ零れ続ける笑みを抑えることもなく、答える。
『何でもないなんて嘘でしょ?』
『そうかもしれないっすねー』
『むぅ…教えてよー!』
なんて言っているなまえの顔も既に笑っていて。なんか、つられて二人で笑うのもすごく幸せだと思える。
昔、人を信じれなくなった俺が人を信じれるようになったのはなまえ達のおかげだと心底思う。人の心を無意識に見てしまうこの能力を使っても、裏表ないなまえの心と笑顔に何度助けられて、癒されてきただろうか。
俺は隣にいるヒノの体を抱き寄せた。なまえがよく使っているシャンプーの香りが俺の鼻孔をくすぐる。
『セト…?』
ヒノはどうしたの?と、言うように不思議そうな目でこちらを見てきていて。
(俺の体にすっぽりとなまえが収まってる…。)
小さくて、純粋で、優しくて、壊れやすい、大好きな女の子。守りたいって強く思った。
『なまえ…俺、絶対なまえを離さないっすから』
なんて、口から無意識に出ていた。なまえは笑顔でこちらを見ていて。『離れないよ』そう言って、俺の腕の中に収まった。
(今日は、離れたくないっすね)
(えぇ!?もうすぐキド達が帰ってきちゃうよ…?)
(もう少しだけ。なまえを感じていたいっす)
(………もう)
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