▼ 優しい君
そして、今に至ります。カノさんは少ししたら私から離れて、ニヤニヤした目を向けてくる。
最悪…
私の目から一滴の涙が流れ出した。
「あれ〜?なまえちゃん、もしかして初めてだった?」
初めて?
初めてに決まってるもん。
だって、ファーストキスは好きな人としようと思ってたんだよ…?
目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。周りの人は私とカノさんを交互に見ながら無言。カノさんはニヤニヤしてるし…
「なまえ…」
不意に後ろから声が聞こえた。
セト、君……?
いつの間に私の後ろに…?
なんて考えてると
「すいませんッス。」
と言って、腕を引かれた。もちろん、私はセト君の胸の中に収まる形になる。
いきなりのセト君の行動に私は理解不能でオロオロしてた。
「セト?」
ニヤニヤしながら、カノさんがセト君を見ている。セト君顔は上にあるから、見えないけど…
「カノ、何やってんスか?」
少しの沈黙の後に上で聞こえてきたのは、不機嫌なセト君の声。私の頭はまだショックで何かを考える余地は無かった。
「何って…なまえちゃんのファーストキス奪っちゃった。」
「理由も無くッスか?」
「そうだよ?」
「…カノ、こればかりは、許さないッスよ」
本気でキレてるようで、聞いたこともないセト君の声が聞こえる。思わず、私が見上げると
赤い目…
嫌な、予感がする…
「カノ、覚悟するッス!」
『あ、だ、ダメ!』
私は今にも殴りかかりそうなセト君に抱きついて止めようとする。だけど、セト君は勢いついてたみたいで、学校通って帰宅部の私には当たり前に、飛ばされるわけで。
『きゃっ!!』
「なまえ!」
セト君はすぐに私の目線に合わせてしゃがんで
「大丈夫ッスか?」
って言いながら、心配してくれる。
ああ…セト君は優しいな…
『セト君、私のことはもう大丈夫だから、気にしないで。』
なんて言いながら笑ってみる。本当は全然大丈夫なんかじゃない。正直、まだ泣きたいけど…
「やせ我慢は駄目ッスよ」
セト君はそう言って私を抱きしめた。はぁ…っとカノさんのため息が私の耳に聞こえてきた。それに続けて聞こえるのはカノさんじゃなくて、キドさんの声。
「セト、そろそろ言ったらどうだ?隠し通すのも、今回のバカ(カノ)のせいで無理だろう。」
「そう、ッスね」
隠し通す事?
私が悩む間もなくセト君にまっすぐ見つめられた。そらす事も出来なくて見つめ返す。後ろでエネちゃんが「ご主人、ちゃんと、ちゃんと見えるように向けて下さい」「わーかったよ」なんて話を繰り広げてるけど、私には遠く感じた。
「なまえ聞いて欲しい事があるッス。実は、俺は…なまえが好き。」
話の展開から分かってたけど、改めて言われるとすごく照れて、私は下を向いてしまった。
「返事は…どうッスか?」
どう?
決まってる。
ずっとずっとずっと前から、優しいセト君が…
『私も、好き。』
episode01
優しい君
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