紲那様より

年齢操作あり。


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最近の宮地さんはおかしい。
ぼーっとしてることが多くなったし、携帯見つめてむすっとしてるかと思えば頭抱え始める。
いわゆる"お付き合い"をしてからこの5年間、色々な宮地さんを見てきたはずなんだけど最近の宮地さんは今まで見たことがないんじゃないかってぐらいおかしすぎる。
仕事は順調だって言ってたし、推しメンも元気らしいし、宮地さんを悩ませる原因が思い当たらない。
紫煙を燻らせながら考えたところで灰ばかりが落ちていく。消す必要すらなくなった煙草を灰皿へ投げ捨てて新しい煙草に火をつけた。こんなことを二三本続けても結局わからず仕舞だ。
ついでに机挟んだ向かい側の宮地さんも、かれこれ30分はコーヒー見つめながらかき混ぜてる。一切口つけてないそれはすっかり冷めてしまっていて、新しく淹れ直そうかなとぼんやり考えてみた。
「話がある」って呼び出されたのが一時間前。宮地さんの部屋に来たのが30分前。で、それからずっと俺らはこんな状態。
たまに気を遣って話を振るもののいつも以上にやる気のない返事に諦めて煙草を吸い始めた訳だが、一向に話とやらははじまらない。どうしようかと考え始めたとき、銀食器のぶつかる音が耳に入る。
さっきまで左手に収まっていたスプーンはマグカップの中に立てかけられてて、視線もようやく俺へと向いた。
その目が真っ直ぐすぎて視線を逸らせない。バスケのときはいつもだったけど俺個人にこんな視線を向けられることなんてそうそうない。そう、確か宮地さんに告白された時以来―


「一緒に暮らすぞ」


一瞬、煙草落としかけて慌てて銜え直してみるものの味なんて一切わからない。ついでに言葉の意味もわからない。
唐突すぎて言葉も出ない、とはこのことだ。
「…おい、返事は」
何も反応しない俺に痺れを切らせたらしく、いつものように眉間に皺寄せてるけど真っ赤になってる顔見ちゃったら笑うしかない。
「ぷ、はははっ…あいでっ!!」
「笑うなこっちは真面目だ」
「暴力はんたーい!!」
思いっきり叩かれた額も痛いけど、それよりなにより心臓が痛い。
この人はどこまで俺を振り回せば気が済むんだよ。
未だに顔真っ赤にしながらそっぽ向く宮地さんを見て、今度は心の中でこっそり笑った。
少しだけ身を乗り出して顔覗き込めば「見るな」ってさらに明後日の方向向いちゃって、さっきまでのかっこよさは一変して子供みたいで可愛い。なんて言ったらさらに拗ねるから言わないけど。
「ねぇ宮地さん」
「…んだよ」
「俺、煙草も吸うし帰りも遅いし休みもなかなか合わないと思う。それでも…いいですか?」
「そんなのわかってるから言ってるんだよ。ばーか」
今度は小突かれたけど、振り向いた宮地さんがまだ赤みの残る顔で今まで見た中で一番優しく笑うから、些細な痛みなんてどうでもよくなった。
「ていうか、暮らすぞって命令っすか?聞いちゃうけど」
「なんていうか迷ったんだよ、察しろ」
落ち着いて考えれば、宮地さんらしい言い方がおかしくなっちゃってついつい突っ込んでみたら、また拗ねはじめちゃった。こんな人だったっけ?とか考えて口にする前に「お前のことになると調子狂う」なんて照れ隠しかまたコーヒーかき混ぜはじめるから、こっちまで恥ずかしさが感染する。
お互い赤面したままの沈黙に耐え切れなくて、絞り出した言葉は「不束者ですが…」で。
言った瞬間マグカップ倒した宮地さんに殴られた。理不尽だ。
でもさっき以上に真っ赤にされたら怒ることもできなくてまた暫く沈黙が続くのは言うまでもなかった。
それを破ったのは、今度は宮地さんで。
「お互い働きはじめたら会う時間作るより、一緒に住んだほうが手っ取り早いだろうが」
顔の熱も収まったのかいつもの調子で言い切るこの人に本当に叶わないと実感した。
俺が高校時代に零した不安、覚えてたんですか?
『社会に出たら、』なんてあの頃の俺は働くってことよりも大人になることがよっぽど怖かったんです。宮地さんと一緒にいれなくなるって怯えてたんです。だから八つ当たりのように避けてたのにあんたはそんなのお構いなしに全部受け止めて。今回のことだってそう。
いつだって俺の先回りをして、不安とか不満とか拭い去っていく。
本当に。
「…宮地さんってずるいですよね」
「なんとでも言え。そう簡単に手離してやんねーって言ったろ」
「そっすねー…手放してもらったら困るんですけど」
流石に言える訳ないけど、胸の中でそっと呟いた。





責任重大
(こうなったら責任持って一生手放さないでくださいよ。…なーんてな)



ぼーっとしてたのはどう切り出そうか迷ってたからで。携帯見てむすっとしてたのはどんなところに住もうか賃貸サイト見てたから。
それを聞いて爆笑して、いつものように思い切りデコピン食らうのはもう少し後の話。





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しそ酢様へ。




紲那さん。本当に素敵な小説有難うございます。まさか本当に同棲話を書いて下さるとは思わず鼻血が出ました。
これからも仲良くして下さい。
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