寂しいと中々素直に言えませんが

言われないと気付かない、気にも留めない。
言われて気付き意識する。誰にだってある事だ。
だから今、俺も目の前で参考書片手にそう言えばと顔を上げた木村の言葉で気付かされた。
「お前最近高尾と会ってないよな」
「あ?あー・・・そう、だったか」
受験勉強の最中、脈絡もなしに出てきた話題に俺は最近を振り返る。
高尾は俺の恋人だ。
彼氏ではなく役割的には彼女の立場であり可愛い後輩。
発言はそんなに可愛くもなくそれなりの頻度でからかってきては反応を見て楽しむ野郎だ。
可愛い一面も持ち合わせているがそれを見せる時は限られている。
バスケ部の後輩として同じレギュラー、スタメンとして知り合いである木村は俺と高尾が恋人同士だって言っても驚きはしたが普通に接してこうやって話題を振ってくるんだから良い奴だよな。
気持ち悪いとか近寄るなとか言わないのだからそこは尊敬する。
俺なんて彼奴が好きかもしれないと思った時には自分を轢いてやりたくなった。
「前会ったのは、2週間前だな」
「マジかよ」
学校の廊下ですれ違って挨拶を交わしたきり高尾の姿は愚か声すら聞いていない事実に俺より木村が驚いていた。
電話もメールも出来る時代に音信不通なんて考えらんねーかもしれないが俺と彼奴の中ではこれが当たり前になってる。
前までは頻繁に連絡を取り合っていたが受験勉強や高尾も中間考査を控えていて勉強に集中していた。
俺は今でも勉強中なのだが高尾はもう終わって今日あたりから結果が分かってくる。
これで悪い点数取った日には殴るしかない。
勉強も部活も真面目にやれば両方とも出来る。
2週間前に見た姿をぼんやりと思い出せば無償に声が聞きたくなった。
「連絡入れてみっか」
「おー、そうしてやれ。お前が居ない時に宮地さん宮地さんうるさいって知ってたか」
「は?」
いや初耳。
そんな話は聞いた事がない。
「三日前だったか調度会ってよ、その時に宮地は元気かって聞いてきた」
いやいや俺に聞けよ。
何で態々木村経由で俺の事情を窺ってんだ。
そりゃ会わなかったし俺が勉強に集中したいって言ったからメールも返さなかった訳だが。
駄目だ。考えてたら苛々してきた。
いつも遠慮なんてしらないくせに変な所で引く、高尾はそんな奴だと今更思い出す。
会った時には取り敢えずデコピンしてやる。
あいつのデコ広いから叩きやすいんだよな。
「木村、サンキュ」
「早く会ってやれよ」
言いながら勉強に戻る姿が無駄にかっこいいじゃねーか。
礼を言い俺は携帯を取り出してメッセージを打ち込む。
ごちゃごちゃした言葉をメールで伝えるのは好きじゃねーから、たった一言。
今日空いてるなら来い。
「お邪魔しまー、いてっ!」
目の前にある広いデコに思い切りデコピンをしてやれば2週間前と変わらずにこにこした高尾がそこに居て今はあまりの痛さに悶絶していた。
送った途端に返信が来て俺の部屋に来た訳だ。
俺たち三年生は自由登校期間になったから今日は一日勉強をするつもりだったのだが昼間に聞いた話がムカついたから高尾を呼びつけた。
「久しぶりに会ってデコピンとか、マジねーわ」
「やりやすい位置にあるのが悪いんだろ」
俺より背の低い高尾の頭は叩きやすい位置にあるから俺は試合や練習の時容赦なく叩いていた事を思い出す。
額をさする高尾は涙目になっていて久しぶりすぎて加減を忘れたのかと反省。
口にはしてやらねーけど。
立ったままでは居心地が悪くテキトーに座れと言えばいつもの定位置に着いた。
ベッドを背もたれにし膝を曲げて座る。
これがこいつのお気に入りだと気付いたのはいつだったか。
付き合ってみないと分からない癖もあって中々面白みがあるから良いがこいつは厄介な癖しか持っていない。
「呼び出した理由だなんだがお前、木村に俺の様子聞いてるってホントか?」
「へ?あー、いやーその」
目線を逸らして言葉を濁す相手にもう一発デコピンを食らわすと曲げた膝に顔を埋めて唸り声を上げた。
痛いとか知るか。
「うー……マジいてー」
「で、どうなんだよ」
早く言わねーと3発め行くぞ。俺が近付いた気配を察した高尾はちらりと顔を俺の方に向き視線を合わせた。
その時見落としてしまうぐらいに小さく頷く。
「なんで俺に直接聞かねーんだ。おい」
「宮地サンが言ったんじゃないっすか」
「は?」
俺そんな事言ったか。
思い出そうにも結構前の話だから中々記憶を辿っても出てこない。
そんな俺に口を尖らせて駄々っ子のように文句を言う高尾を無視する。
うるせーよ思い出せねーだろうが。
本気で分からない俺にもういいでーすと溜息混じりに言われ沸点の低さは承知しているが呆れた声色に少しだけ苛ついた。
「宮地サンさー、勉強忙しいからメールすんなって」
俺の腕辺りに黒髪が触れる。誰とは言わない。
この部屋には俺とこいつしか居ないのだから。
膝に埋めていた顔を上げて俺に凭れかかりながら拗ねた声を出す高尾にさっきまでの苛つきは何処へ行ったのか。
暫く口を開けて間抜け面をしていた俺は高尾の凭れかかっていない方の手で口元を隠す。
「普通にしてこい。周りに聞くより早いだろ」
高尾から視線を外していても触れている部分から頷いた事は分かった。
「淋しいなら淋しいって言っとけ。遠慮とか気持ちわりー」
「…淋しくはないでーす」
「はいはい。言っとけ言っとけ」
「うわーこの余裕っぷりムカつく」
「お前もう一発食らいたいか?」
「はい、ごめんなさい」
手で額を覆い隠す高尾の髪をぐしゃぐしゃと混ぜるように撫でれば間抜けな声が上がる。
余裕なんかねーっての。
撫でながら時計を見ると良い時間だ。
と言うかいつもより遅い時間に俺は立ち上がれば高尾が不思議そうに首を傾げて俺を見上げる。
毎回思うがその仕草をやめろ。
狙ってやってんのかそれとも癖なのかこれは見分けがつかない。
「もう帰らねぇと時間やべーぞ」
「え、泊めてくれないんすか」
「は?」
「だから」
「帰れ」
「何で」
「明日学校だろ」
こいつ頭大丈夫か。
その前に泊まるって言ってもお前荷物も何もないだろ。
「此処から行けば」
「朝練あんだろうが」
まだ食い下がる気か。
高尾の鞄を持って腕を掴み立たせると納得のいかない表情で渋々自分の力で立ち上がったかと思えば俺に抱きついてきた。
「おい」
「久々に会った宮地サン補給しないと俺死ぬかも」
なんだそりゃ。訳のわからない事を言い出す馬鹿な高尾の頭を撫でる俺もどうかと思うが、ちょっと可愛いじゃねーかとか絶対に口にしてやらない。擦り寄って甘えてくるこいつは貴重だ。
いつも恥ずかしがって突っぱねるくせに今日に限って甘えてくるとか俺を殺す気か。
頭を何度か撫でていると抱きつく力が強くなって応える形で俺も抱きしめた。
力を込めると小さく跳ねる身体に少しばかり意地悪をしたい気持ちになったが此処で時間を割く訳にも行かず俺は高尾の肩を掴んで距離を取ると散々デコピンをした場所にキスをする。
「…宮地サンってホントにここ好きですよね」
「叩きやすいからな」
「いやマジ顔で言わないで下さい怖い」
笑って言ったつもりだが目を逸らす高尾のデコにもう一度キスをして身体を離す。
これ以上は俺も止まる自信がない。
「気を付けて帰れよ」
「メールとか電話とか、していいんですよね」
念を押すように聞かれた言葉に俺は頷くと高尾も駄々をこねる事なく部屋の扉を開ける。
見送るために俺もコートを羽織り外に出ると体の芯から冷えるような寒さが襲った。
そう言えば今年一番の冷え込みになるとか言ってたよな。
さみー。高尾もマフラーに顔を埋めている。外に出たばっかりなのに鼻真っ赤じゃねーか。
「風邪引く前に帰れよ」
「ういーっす。宮地サンもね」
勉強しなきゃいけないのに風邪なんか引いてたまるか。
俺が手を振ると高尾は手袋で防寒された手を大きく振って背中を向けた。
こういう時に自転車で来いよとかやっぱり近くまで送っていけば良かったのかと過ぎてから思う。
一応高尾の姿が見えなくなるまで寒さを堪えながら背中を見送った。
最近は物騒だから男だろうが大事な奴を一人で歩かせるにはちょっと気が引ける。
かと言って今日泊まっても親は居て勉強もして、と色々障害が多すぎる。
久々に会って拗ねた姿とか見て可愛いとか俺は末期だ。
あれを見せられて襲わなかった俺を褒めて欲しい。
溜息を吐けば真っ白で俺は急いで部屋に戻った。
机の上にあった携帯が震えて誰かと思えば高尾からメールが届いていて内容は、寒い、とだけ。
俺は早く帰らねーと轢く、それだけ送って参考書片手に止まってた勉強を再開した。
「木村聞いてくれ」
「お、おお何だよ」
普段なら遅刻するだろう時間に俺と木村は学校に向かっていた。
自由登校期間中は何時にでも学校に来て良いと分かっているから普段より遅めにのんびりと歩く。
今日はそこまで寒くはない。と言っても毎日のように今年一番の寒さとかテレビで言ってるぐらいだから暫く温かい日なんて来ねーだろうなとか思ってたが日の当たっている場所は比較的温暖な気がする。
日陰に入るとすげー寒いけど。
通い慣れた道に歩く生徒は居ない。もう一時間目の授業は始まろうとしているだろう。
今日学校に向かっているのはほんの気まぐれだ。
家に居ても勉強は出来るけどやっぱり教室や図書室の方が集中出来るからって理由で登校してみた。
木村を誘えば快諾してくれて大坪は後輩と同じ時間から学校に居るらしい。
「高尾がうぜーんだけど」
「は?」
「アイツおはようからおやすみまでメールしてくるんだけどよ。昨日はそれがなくて何事だと思って電話してやったら俺は元気ですだけ言って切りやがったんだよ」
「お、おぉ?」
「その時調度外に居たみたいで車の音が聞こえたんだけど確実に部活中だろ。仮に外周言ってても何で携帯なんか持ってやがるんだって夜に電話入れてやったら出ねーんだよ」
木村の相槌も聞かないで俺の口は動きに動く。
高尾と会って次の日から朝の挨拶から始まり休憩の合間に返してそれなりに連絡は入れていた。
返信しない間にも緑間が面白かったとか要らない報告もあったが。
そんなやりとりが続いて一週間と経ち、それまで煩かった携帯が一度も高尾からのメールを受信しなくなった。
ずっと続いていたものが無くなって夕方、部活中だと分かっていながら俺は通話ボタンを押していた。
絶対に出ないと分かっていたのに1コールあったかどうか定かではないがすぐに繋がり高尾の慌てた声と後ろを走る車の音に俺は眉を寄せた。
部活中に何してんだと言うより先に高尾は一言だけ発して電話を切りやがった。
それから電話をしてもメールを入れても音沙汰は無く今日の朝、何事もなかったように朝の挨拶メールが送られてきて俺の機嫌は最高に悪い。
「だから今日学校行くって言ったのかよ」
「直接会って殴る蹴る焼く」
あの態度は何だってんだ。目の前にいたら思い切り頭を叩いてる。
察しの良い木村に頷き俺は下駄箱を目指す。
3年の先生に会って挨拶をすると授業中だから静かになと言われ頷くだけにした。
今日高尾達のクラスは1時間目が体育だと知っている俺は2時間目が終わったら教室に向かう計画を練って教室に向かう。
扉を開けるとクラスの3分の1ほどの人数が居て皆思い思いに勉強をしていた。
挨拶もそこそこにすればクラスメートに機嫌悪すぎじゃね?と言われたがそんなに俺の表情はわかりやすいか。
まぁ機嫌は良くはないからテキトーに相槌を打った。
「高尾?2日前から風邪で休んでますが」
「あ?」
2時間目の授業が終わりを告げるチャイムと共に俺は高尾のクラスに出向き目立つ緑の頭を捜す。
緑間の横にどうせくっついてるだろと思って見付けたは良いが肝心の高尾が居ない。
トイレにしても俺は外で待っていたわけだからすれ違う筈だ。
緑間を呼べば1年生達は少しだけ静かになった。
別に気にすんな。お前らに用事じゃねーっての。
その中でも一際でかくて落ち着いてる緑間がやってきて質問すれば返ってきた言葉に俺は不機嫌さが滲みでていた。風邪?
「聞いてねーぞ」
「高尾からメールで」
慣れた動作で携帯のメールを画面を見せられると女子か!と言いたくなるような絵文字を多用したものを見せつけられ俺は口の端を何とか持ち上げる。
「何で俺には送らねーで緑間に送ってんだ埋めるぞ」
「いや俺は高尾じゃないんで」
知らないのだよって言われて俺は取り敢えず礼だけ言い鞄を取りに教室へ戻る。
おいおい聞いてねーぞ。
風邪引いて学校休んでるとか。
それも2日前とか普通に今日も部活疲れたとかそんな内容だった気がする。
あぁくっそ、あいつマジで殴る。いや蹴る。いやいやデコを思い切り叩いてやる。
どうしてやろうかと教室に戻り木村に帰るとだけ告げ足早に学校を出た。
向かう先は一つしかねーだろ。
あの馬鹿な高尾の家だ。その間にも携帯は震え高尾からのメールを知らせていた。
どうせ授業が疲れたとかだろ。
今見てもどうせムカつくから俺は無視して歩くスピードさえ今の俺を苛立たせて最後なんてもう走って何度か来た事のある門の前に立っていた。
今はきっとアイツ一人しか家に居ない。
一度深呼吸して呼吸を落ち着かせるとボタンを押し文句を言う準備をしていた。
此処に俺が知ったら何て言うのか。
「はーい、どちらさ…」
「よぉ。高尾」
まさか玄関が開いて本人といきなり会えるなんて思わなかった。
お前せめて確認してから扉開けろよ。
物騒なんだから何があるか分からねーんだぞと言葉を全部飲み込み俺は引き攣る顔で手を上げる。
ジャージ姿の高尾は俺の顔を見て普段より悪い顔色を更に真っ青にした。
「新聞なら間に合ってます」
「学ラン着た新聞屋が何処にいるんだよ」
訳の分からない事を言って扉を閉めようとしたが手首を掴み阻止した。
いつもより力が入ってないのはやっぱり風邪のせいなのか。
構わず中に入り俺は手首を掴んだまま高尾の部屋へと向かう。
部屋の場所は以前来たから分かっている。
後ろで名前を呼ばれるが取り敢えず、だ。
ゆっくり話す為にも部屋に入る事が先だろ。
「って、」
手首を掴んだまま投げるようにベッドに押し付けると俺もその横に腰を下ろして睨みつける。
「お前俺に言う事ねーのか」
顔色が悪いのは風邪のせいだけじゃない。
明らかに泳ぐ視線を睨みつけ俺は怒鳴りそうになるのを抑えた。
彷徨った視線はベッドのシーツに落とされても俺は高尾から目を離さない。
言いたい事は沢山あるんだよ。
「………風邪引きました」
「おう」
「…」
「他には」
それだけ言って黙り込んだ高尾に俺は掴んだままの手首に力を入れた。
俯いても分かる。
表情が歪んだってことぐらい。
「っ、他には。って、学校言ってた事嘘ついて」
いつもなら煩いぐらい喋る奴なのに妙に歯切れが悪いのは俺に嘘がバレたからだろう。
体調悪いなら素直に言えば良いのに。こいつは本当に馬鹿だ。
普段頭が回るくせにこういう時は極端に口数も減る。
中々進まない高尾に痺れなんてとっくに切れてたが溜息を一つ吐き出せば目の前の身体は小さく震えた。
「何で俺に体調わりーとか言ってねぇんだよ」
「俺なりの気遣い」
「はぁ?」
「あんま邪魔しちゃ悪いと思って連絡入れなかっただけ」
勉強に支障出るでしょとか段々高尾の口調が普段と変わらないものになってきて、こいつの悪い癖が出ている事に気付く。
この口調は知ってる。開き直りやがったよ、この馬鹿。
「遠慮とか気持ち悪いって前に言ったよな。いっちょ前にしてんじゃねーぞ焼くぞ」
「移ったらどうする気なんすか」
「それより緑間にだけ連絡入れてた事が気に食わねーんだけど」
移った後の事とか考えるだけで馬鹿らしいだろ。
漸く目があった高尾は俺の言葉に首を傾げた。
おい、こいつ風邪引いて思考回路やられてないか。
何で恋人である俺に連絡入れてねーんだって言えばさっきまで青かった顔が途端に赤くなる。
忙しいやつ。
「真ちゃんはクラスメートで部活も一緒だから」
「ほー、それで俺には嘘の連絡か」
「いててて、宮地サン、まじ、タンマ!」
掴みやすいデコに手のひらを置き緩く力を込めていけば学ランを握ってきたが暫く止めてやらねーぞ。
緑間と仲が良いのは十分するぎるぐらいに知っているが俺より優先してるとかホントにねーわ轢くわ。
俺のタメを思ってとか逆効果だって事を分かるまでこうしてやろうかと思ったが相手は病人だ。
「熱計っただけだろ。あー、下がったみたいだな」
「こんな風に熱計られた事ないんですけど」
「まぁ取り敢えず寝るのが一番か」
「宮地サン、俺と会話する気ないでしょ」
「あるに決まってんだろ」
いつもの調子で返してくる高尾の様子を見ると本当にもう治りつつあるようでさっきも玄関までとは言え普通に歩いていたし何とか大丈夫みたいだな。
よしよしと頭を撫でればそっぽを向く姿が可愛く見えた俺は相当だ。
いつもは鬱陶しいぐらいに絡んで来るって言うのに俺がこうやって触ると触ってくれるなと空気だけ威嚇してくる。
変な所で恥ずかしがり屋な高尾を引き寄せ抱きしめるとひと呼吸置いて慌て出す。
「な、にして」
「風邪引いて死にかけの姿じゃなくて良かったと思ってな」
「メール打てるぐらいには元気なんで」
「おー、よしよし」
「なーんか完全に子供扱いで腹立つ」
言いながら俺の服を掴み擦り寄ってくる高尾に俺は撫でる手が止まる。
前に会った時も思ったが口で文句言いながら甘えてくるんじゃねーよ心臓に悪いだろうが。
すげー可愛いとか思った俺を轢きたくなる。
髪に顔を埋めると、あ、こいつまだ風邪完治してねーのに風呂に入りやがった。
シャンプーの匂いがする髪に鼻先を埋めると身じろぎするから俺はそのまま抱きしめる手で背中をなぞってやる。
「ぅん…ッ」
小さく漏れた声を俺は聞き逃さない。
小言を言うのもバカらしくなってきてそれより久々に聞いた高尾の声に俺の健康な身体が反応しちまった。
そういや会ってもしてなかったからな。
俺って実は枯れてるんじゃね?そう思うぐらいにヤってねー気がする。
それで平気だったかと聞かれるとそうでもない。
勉強が思うように進まなくて高尾のこと思い出しながらマスかいた事だってあるっつーの。
これをこいつい聞かせる気は全くないけどよ。
言った所で思い切り笑われそうだ。
「んっ、宮地さん…くすぐってぇ」
「此処は?」
「んぁっ、…っ、」
「これが擽ったくて出る声かよ」
背中から腰にかけて緩やかに撫でれば甘ったるい声が響いた。
ただ撫でただけなのにこんな声出る奴だったか?
もぞもぞと居心地悪く動く高尾に視線を落とせば、うん、元気だな。
体調悪いのに大丈夫かよとか建前は置いておく。
そんな事知るか。
「お前実は結構溜まってる?」
「ちがっ…宮地さんが撫でるから」
「ほー。俺のせいか」
「んっん、ゃ、め」
俺が撫でてこれなら恋人効果か。
聞いても否定する高尾を他所に俺は一人納得し見慣れたオレンジのジャージの上からそそり勃った高尾の熱を撫でる。
部屋着がジャージなのは知ってるけど俺はパジャマが良かった。
今度家に来た時に着させるか。
「っんぁ、はっ」
「声抑え気味じゃね?家に誰も居ないんだろ」
「そう、ですけど…ぁ、…ひさびさで、はずかし」
俺からは耳しか見えねーけど耳が赤いから表情が分かる。
それでも見たくなるのが男ってもんで俺にしがみついていた高尾の肩を掴んで距離を取れば俺は思わずその表情を凝視した。
「っ、ん、…はっ、みゃ、じ…さん?」
耳までと言うより顔を真っ赤に染め、まだほんの少ししか触っていないのに目は潤み涙が溢れていた。
気持ちよさを耐えているのか眉を寄せて震えるその姿は想像以上だ。
俺の下半身がまた熱く震えた。
こいつはこんなに可愛いやつだったか。
「一回イくか。辛いだろ」
俺も辛い。耳元でそれだけ告げて俺は高尾のズボンと下着に手をかけ腰を浮かせるように指示をした。
俺も窮屈なズボンから汁で汚れた自分のそれを取り出すと高尾を膝に乗せる。
「なっ、あぁあっ、ん、ん…」
「はっ、やっべ…」
高尾と自分の熱を一緒に扱くとどちらか分からない先走りの汁が俺の手を汚して更に卑猥な音を立てる。
互いに擦れ合う部分が気持ちよくて俺も浅く息を吐き出す。
当たり前だが一人でやるよか全然違う。
指先で先端を刺激してやれば高くなった声に俺は気を良くして集中的にそこばかりを責め立てる。
「ひゃ、あ、…みゃー、じ、さっ、あぁあっ!」
「ばっ、お前っ、・・・んっ!…っ、は」
高尾が気持ちよさそうな声を上げる所を重点的に擦り俺の服を掴んで真っ赤に染まった溶けるような顔を向けて名前を呼ぶもんだから俺も思わず一緒に出しちまった。
くっそ。俺も早すぎるだろ。どんだけ溜まってんだ。
俺の手を止めどなく溢れる精液が汚し近くにあったティッシュで拭うと高尾が俺にもたれ掛かってきた。
熱でも上がってきたのかと身体に触れても俺も同じぐらいに熱くなってるから分からない。
「はぁ…、おい、大丈夫か」
「死ぬかも」
「イったぐらいで死ぬかよ」
背中を摩っていけば高尾は乱れた息を整えようとしていた。
まだ冗談を言う元気はあるみたいだから風邪が悪化したとかそういう事ではなさそうだ。
「だって、すげーきもちい」
こいつ・・・。
なんでこう言う事普通に言えるくせに俺がキスすると文句ばっかり言うんだ。
スイッチが入れば素直な感想を言ってくれるのに中々扱いが難しい。
本当は互いに出して、はい終わりにしたかったけどな。
駄目だ、今のはお前が悪い。
「ひっ!」
「おぉ、案外すんなりだな」
「ゃ、そこ、は」
尻を何度か撫でて俺は予告もなしに孔の周りを撫でる。
皺を伸ばすようにしたり指先だけ奥へ突っ込むと何の抵抗もなく入っていき、また抜き出す。
最初の頃なんて指突っ込んだら死ぬって叫んでたのにな。
いや、それにしてもこれはちょっとすんなり入りすぎている、気もする。
「あ?どうした」
「っ、なんでも、ぅあっ!んっ…」
「おう、どうした?高尾」
にっこりと俺は笑顔を浮かべた。何でもないわけねーだろ。
俺は孔の入口を撫でていた指をこいつが一番弱い場所まで入れていき容赦なく触ってやる。
中、すげー熱いんだけど。
これ指じゃなくて俺の入れたら気持ちがいいなんて考えるまでもない。
じっと高尾を睨みつけていると彷徨っていた視線が一瞬俺を見た。
「はぁ、あっ…ほん、とに…な、ぁあ、ゃ、や・・・だ」
「このまま俺帰った方が良いか?」
まだ言うつもりのない相手の内壁を撫でて指を入口まで引き抜く。
切なげな表情と声、指を逃がさないように締め付けるくせに口だけは本当に素直じゃねー。
勿論本当に帰る訳がない。今の状態で止めるのは俺だって辛い。
涙は出ていたが生理的なものではなく本気で泣きそうな高尾は何度も首を強く振って俺の首に抱きつく。
「っ、…きのう、さわった、から」
震える声と熱い息が俺の耳元で小さく告げた。
「ここ使って一人でシたのかよ」
「ふあ…、んっ」
指を曲げれば高い声を上げて頷いた事が分かる。
あぁくっそ、マジ何なんだよこいつ。一人でケツ使ったとかな。
俺だって高校生だ、そんなもん聞いて興奮しない訳ないっての。
指に絡みつく粘膜の熱さに俺が耐えられなくなり膝に乗せていた高尾の身体をベッドに押し付けた。
「この、かっこ、ゃ、だ」
「暴れると縛るぞ」
尻を高く上げた状態で文句を言う高尾の孔を撫でて拡げてやれば言葉ではなく喘ぎに変わった。
指で弄ろうとは思わない。
もう俺も限界でさっさと挿れたいんだよ。
脅した所でいつも言ってる言葉とそう変わらない。
「んんっ、はっ、ふぁ…・・・みゃ、じ、さん」
「お前」
硬くなった先端を押し当てるとさっきまで嫌がってたくせに俺の名前を不安げに呼ぶからどうしようもなくなる。
自分で弄ったと聞いても慣らした方が良いのかと考えた時間が勿体無い。
腰を掴んで先端が熱い粘膜で覆われた。
一番太いカリの部分はどうしたって負担がかかる。
早く挿れたい気持ちと高尾の声を聞いて俺はギリギリの所でゆっくりと奥に押し進んでいく。
「ん、っ、はぁ、あっちぃ」
「ぁ、はっ…あ、んっぁ、きゅう、に、ひあ、ぁあ」
何とか全部入れて俺は普段なら一息吐く所をすぐに腰を動かして高尾を揺さぶった。
急にとか言うけどな。
俺がどれだけ我慢してたと思ってんだ。結合部に触れる度じんじんと熱を持っていて最奥を突けば食いちぎられるんじゃないかってぐらいの締めつけが襲う。
正直長くは持ちそうにない。
力が入らず揺さぶられるだけの高尾の腰を持ち上げて打ち付けると甘ったるい声が上がる。
その間も締めつけが酷く射精が近くなった俺は眉を寄せた。
「マジで、持ってかれそう、だ」
「俺も、イ、…っひ、あぁあ!」
熱い壁に自分のモノを擦り付けそのまま前立腺を思い切り突いてやれば高尾が背中を逸らして勃ち上がったモノから精液を吐き出す。
っの、イったからか。すげー、締め付け。
「あっぁあ、ゃ、みゃーじさ…」
「てっめ、それ反則っ…くっ…はぁっ」
「んぁ、あつ、ぁぁあ!」
顔は見えないが揺さぶる度に見える耳と首筋は真っ赤だ。
シーツを握りしめて今きっと気持ちよさそうな顔をしているに違いない。
顔を見たいと思うより先に俺の名前を舌っ足らずに呼ぶから思わずナカに出しちまった。
「ふぁ、あっ…ぁ、」
自分がイった余韻と俺が盛大に出しちまったせいで震える高尾に覆い被さるように抱きしめた。
入れたままだけど、良いか。
抜こうとか考えず俺が動くと体液が混ざり合って酷い音がした。
「悪い。ナカで出した」
本当はイく前に抜こうとはしていた。
今となっては全部言い訳に聞こえるかもしれねーけど。
ひくつく孔の感覚に俺はまた勃起しそうになる自分自身を何とか鎮めようと一旦身体を起こそうとすると高尾が小さく呼吸をすると同時に俺の名前を呼んだ。
「もっ、いっかい」
耳を疑うような言葉に思わず顔を覗き込めば蕩けきった気持ちよさそうな顔で俺を捉えて離さなかった。
さっき俺が想像してた顔よりもずっとエロい顔で下半身に熱が集まった。
こいつ、ホントにスイッチ入ると駄目だ。
病人だとかそんな考えどこかに弾き飛ばすほどの威力と破壊力を前に俺は自分の欲に忠実になる事にした。
久々なんだ、手加減とか言ってられねぇからな。
動いたからなのか昼近くになったからなのか。
これ両方だな、腹減った。
「俺死ぬかも」
「お前の声聞くとそうかもしれねーな」
「宮地さんに殺されるかも」
「何で俺なんだよ」
掠れた高尾の声を聞き俺は飲み物を渡してやる。
ベッドの中でぐったりと動かなかったが喉の痛みには勝てずゆっくりと体を起こした。
事前にキャップを開けたペットボトルを受け取ると一気に半分以上を飲み干す。
「何でって。俺が止めてって言ってのに続けるとか鬼畜」
「最初に誘ったのはてめーだろ絞めるぞ」
「知らないでーす」
すっかり普段の調子に戻った高尾に可愛らしさなんてものはない。
喉を潤してマシになった声だが散々喘いだから風邪引いたんじゃねーかって思うぐらいに酷い。
あ、風邪引いてたんだっけか調度良いじゃねぇか。
「あぁ、そうだ」
「なんすか」
「お前昨日何処に居たんだよ」
電話した時。
風邪引いて休みだったのは分かったけどそれなら何で昨日電話した時、外にいたのか。
「調度病院の帰りにメール打ってて宮地サンから電話あった時にはマジで驚いたんですからね」
あぁ成程。メール中に俺が電話したから間を開けずに繋がったわけか。
取り敢えず遊んでた訳じゃないことを聞いて納得した。
「俺は急いで切られた事に驚きだよ」
「それは…すんません」
「あと妙に気ぃ使うな気持ち悪いだろ」
「じゃあ宮地サン今日泊まって」
「あ?」
「いたいいたいギブギブ」
高尾のデコを思い切り掴んでやれば思い切り叩かれたが気にしない。
この馬鹿は何言ってんだ。
「今週の土日に来い」
「!」
「で、今日は寝るまで居てやるから」
俺も相当高尾に甘い。会った時から考えると随分甘くなったもんだ。
それもそれで悪くねーか。

「なぁ木村」
「今度はどうしたんだよ」
「高尾って何色のパジャマが似合うと思う」
「俺は今お前にパイナップルを投げつけたいと思った」
今度の休みには絶対着せてやるからな覚悟しとけ。

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