こんな緑間くん

転がる速度は上がる。
止まる事を知らないその仕組みに真意に気づかないフリをして真っ逆さまに落ちていく。
その先にいるのは分かってる。
手を広げないくせに俺が落ちてくる様をただ見ている。
狡いと声を出せば良いのにそれすら出来ない。
だって落ちる事を望んだのは俺だから。
目の前には緑間真太郎。後ろには壁。
今の俺はベッドの上と何とも危機的状態。
誰か助けろ。なんて願っても部屋の中には俺と真ちゃんしか居なくて段々と近付いてくる顔を思わず身体を支えていない手で押さえた。
「ちょ、たんま。真ちゃん落ち着け」
「…落ち着いている」
「いやいやいや落ち着いてねーよ全く平常心じゃねーちょっと鏡見てみろよ。今すげー顔してるぞ」
「その手には乗らん」
「別に騙そうとか思ってないからな?」
「そう言って油断させる気か」
「聞けよっ!」
顔と言うかデコに手のひらを押し付けて近づかないようにしているのに俺より図体のでかいこいつはじりじりと距離を詰める。
騙そうだなんて微塵も思っていなくて本当に怖いと言うか目が据わっているから鏡見て目を覚ませって言いたいのに俺の言葉なんてまるで聞く耳を持っていない。
どうしてこうなった。
いや理由は分かってるけど。
まさかあんなにも真ちゃんが怒るとか考えていなくて数分前の俺に会えるなら殴ってやりたい。
因みに此処は合宿所で俺と真ちゃんは相部屋。
バスケ部の中で緑間を上手く扱えるのはお前しかいないと言われてこうした部屋割りになったわけだが今はそれを酷く恨む。
角部屋って事もあって今は自由時間で皆は近くの海辺で花火を楽しもうとしていて、つまり隣の部屋にも誰も居なくて。
事の発端は夕食のあとの自由時間。
レギュラーの俺は2、3年の先輩たちとも結構交流もあって飯を食う席が近い宮地サン、木村サンとバスケの話とかしていると宮地サンが一言。
「緑間ってあっちは上手いのか」
「ぶふっ」
「おい木村きたねーぞ」
お茶を飲んでいた木村サンが思い切り机を汚している様を見て俺も苦笑を一つ。
つーかなんで皆俺と真ちゃんがオツキアイしてる事を知ってるんスか。
それをまた偏見なく聞いてくるとか強者だ。
「だってあの緑間だぞ。堅物でセックスは結婚してからって考えっぽくね?」
「宮地サーン、俺たちオトコノコ同士なんですけどー?」
「ヤった事ねぇの?」
「ありますけど?」
「何回ぐらいだ」
「流石に数えてないんで」
「おい宮地生々しいだろ。高尾も普通に答えてんじゃねーよ!」
男しかいない空間で話す事なんて下ネタが殆どだけど流石の俺もビックリしてる。
前に話した時は引いたから轢くとか言ってたくせに今では興味津々で何がこの人をこう変えちゃったのって俺は一人心の中で泣いていた。
まぁ偏見を持っていないって点では有難いんだけど何か複雑だ。
木村サンなんて一頻りツッコミをしたあと我関せずを決め込んだみたいでお茶を飲み干して他の3年生の所行っちまったし。
「で、結局上手いのか」
「えー」
結局聞くのか。
もう終わったと言うか別の話題に持っていこうとしたのに意外としつこい。
それより聞いてどうする気だ。上手くても下手でも笑いのネタにはなりそうだけど。
あんまり大きい声で話す内容でもないからなるべく小声で話すように身体を近付ける。
「真ちゃんは普通じゃないっすか?」
当たり障りなく無難なところで答えておけば満足するだろう。
何が普通とか良くわかんねーけど取り敢えずはこれで誤魔化しておきたい。
俺は真ちゃんと付き合って初めて男なんて相手にしたから経験なんてある訳がない。
最初は泣くほど痛かったけど。
回数重ねてく内に訳わかんねーぐらいに気持ちよくはなってるけど一々口にする事でもない。何より恥ずかしいし。
まぁちょっと長い時もあるけど最近は練習も忙しくてしてないからご無沙汰だったり。
「上手くもなく下手でもない無難な所なのか」
「そうっすねー」
「なんか意外だな」
「そうっすねー」
もうそれで良いや。
受け答えするのも恥ずかしくなってきて段々頬が熱くなっていく感覚に想像するだけでこれとか有り得ねーわ。
ほんとに俺って真ちゃんの事好きなんだなーとか思ってれば宮地サンがニヤニヤしながら俺を見るから先輩相手なのに殴りたくなったようなそんな感じだ。
慰めるような感じで肩を叩かれて木村サン達の輪に加わってる姿を見届けて一旦部屋に戻るか真ちゃんでも捜しに行こうかと立ち上がった時だった。
調度後ろを通る人が居たみたいで椅子がぶつかる。
やっべ、動揺してたみたいで視野が狭かった。
「あ、すみませ・・・真、ちゃん?」
「………高尾」
「なに。どした?顔がこえーぞ」
振り返ればオレンジのジャージ。見上げれば緑色の髪。
いつも以上に低く唸るように出した声が俺の鼓膜と背筋を震わせた。
頗る機嫌が悪いと全面に出している真ちゃんと見上げる。
目の前で手を振ってみたが何の反応も返す事なく俺を捉えて離さない。
普段なら溜息をついてみたり注意力が散漫だとか口煩く言ってくるのに今日に限って俺の名前を呼んだまま微動だにしない。
体調が優れないと言う訳ではなさそうだ。
じっと見つめ合う事数分。俺は小さく声を上げた。
頭をフル回転したわけではないが何となくこれじゃないかって原因を見付けたからだ。
「さっきの…聞いてた?」
「…」
「って!おい、真ちゃん」
無言のまま腕を掴まれて食堂から連れ出される。
思いのほかでかい声を出したから響いてしまって視線を感じる。
その中でも宮地サンが先輩じゃなかったから一発殴りたくなるような顔で笑って手を振るから助けてくれとも言えない、それより俺は策略に嵌ったのか。
あれは絶対に分かってて質問してきたことに今更気付く。
長身の男が早足で歩くとコンパスが違う俺は小走りになるわけで背中しか見えなかったけど分かった。
あ、これ絶対話聞かれてた。
真ちゃんが近付いて来たならすぐに分かる筈なんだけどもしかしてあれか、俺がこの前の事思い出して一人で恥ずかしがってた時には居たのかも。
試合中では絶対に見失わないのにこう日常の中で気を緩めるとダメだな。
まだまだだ。て言うか真ちゃん、もうすぐ花火をするって他の先輩が言ってたんだけど。
これもしかして不参加だろうか。
一日三回まで使えるワガママをここで発動とかどんだけ凄い効力を発揮してんだよほんとに。
何も言わない奴は廊下を突っ切って角にある部屋のドアを開ける。
夕飯前は明るかったからカーテンを閉めずに出てきたせいで月明かりが部屋を照らす。
電気もつけないでそのまま部屋の中に連れて来られベッドに放り出された。
片方だけ脱げたスリッパが力なくベッドの下に落ちるさっきから喋らない真ちゃんに文句の一つでも言ってやろうかと見上げればいきなり覆い被さってきて、そして冒頭に至る。
「しーんちゃん。落ち着け、ってぇ!お、おい、なにして」
なるべく優しい声であやす様にデコを押さえていた手で髪を撫でれば一気に距離を詰められて何故かズボンを脱がされそうになる。
落ち着け。本当に落ち着け。
「脱がせようとしているのだが」
「いや、見れば分かるけどっ。そうじゃなくて」
「取り敢えず脱げ。話はそれからだ」
「っ、」
耳元で話すなよ。反則だろうが。
後ずさろうにも枕と壁が邪魔をしてきてすぐに追い詰められた。
真ちゃんの声は卑怯だ。どんな事でも逆らえない絶対的な力を持っているんじゃないかって思うぐらいに俺がどんなに抵抗してもその一声で素直になってしまうのだから恐ろしい。
脱がせようとしていた手を押さえる力をそっと緩めてしまう。
「いきなり、なに」
「何でもない」
「んっ、」
何でもない訳ねーじゃん。頬を撫でられたかと思えば上を向かされて唇が塞がれた。
俺は魔法にでもかかったかのように素直に腰を浮かせるとズボンを引き抜かれる。
その間に何度も啄むようなキスをされて俺の方から堪らず舌を出し真ちゃんの唇を舐めて深く蕩けるキスを要求する。
何度も唇を舐めていると漸く薄く開き罠にでもかかったみたいに俺の舌はすぐに絡み取られて吸い上げられた。
気持ちよくて何度も舌を絡ませて懸命に口の中を舐めようとしても叶わずにただ翻弄されるばかり。
頭の芯がじんわりと溶けていく感覚を覚えて息苦しさに服を握った。
「あっ、んん」
それでも終わる事を知らず腔内に入り込む舌は容赦なく弱いところを突いてくる。
なぞられ舐められ息苦しくて視界が潤む。
「はっぁ、あっ、な、んぅ」
「爪は噛むな」
「んぁ、はっ、」
漸く解放されたかと思えば真ちゃんの指が突っ込まれて俺は満足に息も吸えないまま上顎を擽る指を丹念に舐めた。
長い指は全部入りきらず根元に近い所から指先までを舌全体を使って舐め上げる。
指紋まで丁寧に舐めると真ちゃんの肩が揺れた。
満足に酸素を取り込めない俺の息は乱れていて飲み込めない唾液が肌を伝って落ちていく。
潤み滲んだ視界の中、真ちゃんを見つめて指を舐め続けると俺の唾液で汚れた指がゆっくりと引き抜かれる。
「は、ぁ、はぁ、しん、ちゃん…」
「後ろを向いていろ」
「へ…?なに、っ、ぅわ、なにして」
力の抜けてしまった俺の身体を転がして視界にはさっきまで俺が凭れかかっていた壁と真っ白な枕が映る。
さっきまで見えていた真ちゃんの姿はなく俺が自分の格好に気付いたのは数秒遅れてからだ。
「こ、このかっこう、ゃ」
「高尾、動くな」
「しんちゃん、ずりぃ、っあぁあ、ゆび、いきな、り」
枕に顔を押し付けて尻を高々と浮かせる格好に羞恥を覚えた瞬間、いつの間にかパンツまで脱がされ、さっき俺が舐めてふやけた指がゆっくりとだけど止まる事なく入ってきて枕を強く握った。
突然の異物感に身体は拒絶する。
でも俺の身体は鼓膜から低い声を拾うだけで緊張を解すのだから不思議だ。
「ぁああ、ゆ、び、…あっ、うごいて、ふあ」
「…そうか、此処だったな」
「いわ、ないで…あぁあっ、あ」
前立腺を掠める指を思い切り締め付けてしまい真ちゃんの声が楽しそうに弾むのが分かる。
さっきまで不機嫌丸出しだったのに。
容赦なくナカを擦る指の硬さに気持ちよさと物足りなさを感じる。
久しぶりとは言え触れられると案外すぐに解れてくるナカは熱を待ちわびてる。
これは真ちゃんの声が悪い。
耳元で何度も名前を呼ばれて気持ちいい場所を刺激する度に少しだけ笑って身体は熱くなっていくばかりだ。
腰が砕けてしまいそうなのにしっかりと支えられて指は容赦なく俺のナカを刺激する。
「あっ、んん…もっ、ほし」
「もう少し我慢していろ」
腕に力が入らず枕を掴み耳元にある真ちゃんの顔を見ながらおねだりしたのに返ってきたのは非情なもの。
早く早く欲しいのに。
指を締めてやろうかと思うより先に息を飲んだ真ちゃんの指がもう一本増えて狭い穴が拡げられていく。
「っ!ぅあ、あああ」
二本の指で強く擦られて俺は前を触られる事なく白濁の熱を吐き出す。
シーツを汚してついに腰が砕けた。
荒い息を何度も吐き出して呼吸を整えようにも達したばかりの身体を弄る手に反応してしまう。
「ゃ、いった、ばっか…、」
「これでも俺は普通か」
小さな本当に小さな声で吐き出された言葉に俺は息をする事も忘れてひと呼吸置くと笑みが漏れた。
やっぱり聞いてたのか。て言うか案外そういう事気にする年頃なのね真ちゃん。
今は聞こえないフリをして存分に気持ちよくしてもらおうとか俺って本当に性格悪い。
落ちていくのが俺ばかりだと面白くねーの。
カーテンを閉めてない窓の外では賑やかな声と花火の音が聞こえたけど早く欲しくて俺は小さく口を動かした。

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