五月病末期患者の結末

桜が咲いて散って新緑の色増す季節になっても何となくやる気が出なくてこれが5月病かーなんて窓の枠に頬杖をついてサッカー部を見ていた。
あと1週間で6月になるんだけどな。因みに今は日直の仕事中。
俺ではなくて真ちゃんが。
日誌を書きながらだらだらするなって言ってきたけどどうにもやる気が出なくて俺は溜息を吐いた。
数ヶ月前に学年が一つ上がって新しい教室となった此処は未だ慣れる事はない。
毎日通えばきっと一年生と同じように段々と馴染んでくるのだろうが未だに先輩たちが使っていたと言う名残があるから廊下も階段も新鮮だった。
前は用事がある時にしか立ち寄らなかった場所に自分たちが通っている。
これは来年になってもあるのかそれとも慣れるものなのか。
今の俺には全く想像もつかない。
取り敢えずこの何もする気のなくなった俺を何とかしたい。
シャーペンが日誌の上を滑る音と教室内では新しいクラスメートの女子が何か楽しそうに話している声が響いている。
右から左へ抜けていく声が日常となる日が来るのか。
いつもなら変化を面白おかしく感じるのにどうしてか俺は素直に楽しむ事が出来ない。
ちらり、真ちゃんを見ると新しいクラスで何があったかを事細かに書いていて尊敬する。
俺なんて今日眠くて寝ていた事しか覚えていない。
これは今度ノート借りないと提出出来ないな。
「何を腑抜けているのだよ」
「空は青いなー」
「重症だな」
「真ちゃんは緑だなー」
「・・・行くぞ」
思ったまま見たまま伝えれば日誌を書き終わった真ちゃんがお決まりの溜息をつきながら立ち上がる。
またこいつ身長伸びたんじゃねーの。
来週身体測定があるから教えてもらおう。
俺も結構伸びた気がするから楽しみなんだけど。
エース様の身長にはまだまだ届きそうにもない。
だって絶対こいつ伸びてるから差が縮まった気がしない。
鞄を持って職員室に行く時に女子の話し声が聞こえて緑間くんかっこいいよねーって話題が耳に入り俺は特に反応しなかった。
今の所おは朝で蟹座は小さなラッキーアイテムばっかりだけどもう少し経てば緑間真太郎の面白い所が見られる。
それによって女子は大抵ドン引きするんだけどな。
と言うか未だに緑間真太郎を知らない奴なんているんだろうか。
自転車の後ろにリアカーと言う変な乗り物に乗って登校してるって言うのに格好いいとか中々いい趣味をお持ちのようで。
それもこいつ乗ってるだけで一回も自転車には乗った事ないからな。
俺ばっかり走らされて悠々と乗ってる真ちゃんを見て格好いいとかホント趣味悪いぞ。
面白いけど絶対に格好よくはない。これは断言する。
「高尾」
「へーい」
「部室に着くまでにその不抜けた面を何とかしろ」
「俺そーんな気ぃ抜けてますー?」
態とらしく気を抜けて話せば日誌で頭を叩かれた。いてー。
頭をさすっていれば俺に構わず職員室に入っていく大きなエース様。
あらら、これは流石に機嫌悪くさせちまったかな。
真ちゃんを待つ間、廊下の窓にもたれ掛かりまだまだ明るい空を見上げた。
少し前まで夕方になった途端真っ暗だったはずなのにいつの間にか日は伸びて夏至を迎えるまで日照時間は伸びていく。
窓の開いた廊下に吹き抜ける風は冷たさなんて含んでいなくて目を閉じれば葉の擦れ合う音が耳に届いた。
気候も穏やかで過ごしやすい日って多分今日みたいな日のことだ。
体育館の中もきっと涼しいに違いない。
まぁ動けば夏でも冬でも汗をかくから関係ないのだけれどまだ基礎練習をしている一年生たちにとっては有難い筈。
俺だってそうだったから。調度一年前は死に物狂いで部活をやっていた。
今は違うのかと聞かれたら今だって真剣に取り組んでいるけどやっぱり中学生と高校生の壁を大きく感じて沢山の新入部員の大半は5月を待たずに止めてしまった。
今年も例外なく名門バスケ部に憧れて入った新入部員は半分も居ない。
練習量が格段に違い春休みの間に鈍ったままの身体だとすぐに限界を迎える。
去っていく背中は見ない。
それは意味がない事だと分かっているから。
選手層の厚い秀徳高校で一年生がレギュラーを取る事は酷く難しい。
優秀な先輩たちが沢山いるからだ。
「今の3年だって勿論すげーけどさ」
学年が上がって数ヶ月しか経っていない今、キャプテンと聞いて思い出すのは、スタメンとしてレギュラーって聞いて思い出すのは。
なーんて失礼な話だ。
一年間ずっと一緒に戦ってきたから余計に感じるのかもしれないけど。
あの人たちのでかさに甘えていなかったと言えば嘘になる。
新生秀徳バスケ部として始動したって言うのにエース様の相棒がこんな気持ちってすげー失礼だよな。
こんなの先輩達に知られたら殴られそうだ。
真ちゃんはもう気付いてるからさっき日誌で叩いたんだろうけどさ。
もう一度頭をさすっても痛みなんてとっくに引いていた。
「っせーぞ。なんか話してたのかよ」
日誌を渡すだけにしては随分と長い事待たされた。
渋い顔をした真ちゃんを見て俺は首を傾げる。
「明日のホームルームのことだ」
「我がクラスの学級委員長様は大変だなー」
「茶化すな」
「へーいへい。部活行こーぜ」
部活でも教室でも頼りにされる真ちゃんは今の時期少しばかりお疲れのようだ。
何でも真面目に取り組むから優等生として頼まれごとばかりでそのストレスが俺に向けられるとかホント悪循環。
なんて、俺はそれを見て楽しんでるから良いんだけどさ。
会話した時から今まで真ちゃんを面白くないと思った事はない。
俺のツボを刺激してくるから何度か笑い殺されそうになった。
本人は意図していない。そこが良い所だ。
通い慣れた部室までの道を二人で歩いていけば見知った顔がちらほら居たからテキトーに挨拶をする。
部活はまだ始まる時間ではなかったが練習を始めてる部員も居た。
インターハイに向けて士気を上げる先輩たちの熱気が伝わってくる。
俺も大概負けず嫌いだからその熱気を受けて闘争心も沸く。
もう負け試合は腹いっぱいなんだよ。
部室で着替えている中、俺の携帯がメール受信を伝えた。
操作してメッセージを開けばタイミングが良いと言うか、俺が一番待っていた人物。
「…。っし、今日も一年に凄いとこ見せてやってくれよ、エース様」
「ふん、馬鹿め、何を言っている。俺は当然の事をしているまでだ」
「人事尽くして練習すんだろ。行こーぜ」
「あぁ。腑抜けは治ったようだな」
「お陰様で」
逆にサボってる奴がいたら轢いてやるって言ってやろうかって言えば前より全然笑うようになった真ちゃんも、そうだなって返してくるもんだから俺は笑いが抑えられなくなった。
携帯を鞄の中に片付けてロッカーの扉を閉める。
なんつータイミングでメール来れんだ調度あんたの事思い出してたんだよ宮地さん。
一年前は真ちゃんとの仲が最悪でよく俺が仲裁に入っていた。
物騒なことばっかり言うクセにたまに優しい事言う変わった俺の、俺のー…恋人だ。
その関係は一年経った今も続いていてウインターカップが終わって受験間近の時なんて俺は恥ずかしい思いを沢山した。
今では良い思い出とか言っちゃうけど、いや実際苦すぎて思い出したくもないけど宮地サンが卒業した後の学校ってのは物足りなさと物悲しさを感じてしまう。
口にした事はなかった。
いつでも学校楽しいですよ真ちゃんが面白くて笑いましたとか本当の事だけど本当の事は言わない。
俺だけが淋しい思いをしているみたいで言えるわけがない。
いつの間にこんな乙女な思考になったのか分かんねーから放置。
考えを吹き飛ばすようにバスケに熱中し今日も今日とてエース様の影を努める。
「だからお前、緑間の話するとなげーんだよ」
「宮地サンが聞いてきたのに」
部活が終わって俺の足は家へと向かわず大学の近くにあるアパートで一人暮らしをする宮地さん宅に来ている。
もうこれは日課だ。
大抵二泊して此処から部活に向かい帰ってくる生活を4月の中旬から始めていた。
今日は土曜日だが学校側の都合で部活は午前で終わってしまい昼飯を食って何故か硬い膝の上に頭を乗せられ嬉しくない膝枕。
それでも髪を撫でられれば自然と微睡んでいく中、突然宮地サンが今どんな感じだって聞いてきたから答えたって言うのに俺の無防備なデコを叩いてくるとか理不尽だ。
「バスケ部はどんな感じだって聞いたんだよ」
「真ちゃんがエースなんだから自然と話題はそっちに行くでしょ」
「お前の話題緑間率が高すぎる」
「えー」
だってそれはいつも一緒にいるから話題の大半なんて真ちゃんで埋められてしまうのは当然だろう。
宮地さんは同じ学校にはいない。
卒業した先輩だからだ。
つーか先輩も暫く見ない間に背伸びた気がする。
これ以上伸びてどうすんだって言うぐらいに俺の周りは高身長ばっかりでたまに膝カックンとか恨みを込めてやってやりたい。
微睡みつつあった意識を浮上させる為に俺は起き上がった。
光に当たる髪の色は変わってないけど顔つきは大人になった気がする。
大学生の余裕ってやつ?
まだ数ヶ月しか経ってないのにまざまざとその差を見せつけられて俺は窓の外へ意識を移した。今日もいい天気だ。
真ちゃんが日直の日だった時の事を思い出す。
「お前はどうなんだよ。ちゃんとレギュラーなんだろ」
「当たり前っす。相棒として、っ…」
「また緑間の話題出そうとしたな。口塞ぐぞ」
「もう、してるじゃないですか」
空が青いなーって思いながら話してたら不意打ちを食らった。
つーか今のはずるいだろ。
ただキスしたかっただけじゃねーの、この人。
「ま、お前がレギュラー外されたら轢くからな覚えとけ」
「ういーっす」
懐かしい黒い笑顔で言われて俺は頷く。
ふわりと風が吹き抜けて俺は目を閉じた。気持ちいい。
昼寝には絶好の温かさでさっき引っ込めたはずの眠気が俺を誘ってくる。
それにちょっと体も怠い。
今日の部活半日で良かったと内心ホッとしていた。
久々だからって事も関係あるけど宮地さんがっつきすぎじゃね?
本人曰く部活があるから手加減したって言うけどほんの少しだけだった気がする。
ホントに気持ち手加減しました的な。
「つーか宮地サンさ」
「ん?」
「メール返すの遅くないっすか」
「今はまだ忙しいんだよ。お前もあと二年後に分かる」
遠くで車の走る音が聞こえる中、俺は不満を一つ漏らす。
卒業してから引越しの準備でメールも電話も中々出来なくて大学に入ったら忙しいって言って返信は稀だ。
だからあの時俺は嬉しくて部活頑張ろうって気になったんだけどさ。
何で忙しいのか分からなくて二年後に分かるとかその内分かるとか、そんなんばっかりだ。
去年はそんな事気にならなかった。
3年の教室に行けば顔が見れて部活に行けば話して部活帰りには一緒に帰って寄り道して、そんな当たり前の事が今は出来ない。
習慣になっていた事が無くなって暫く俺は無気力だ。
早くて長い5月病。
「二年とか、すげー先」
「これが案外早く来るんだよ。そしたら俺は21か」
「……考えらんね」
「俺は飲めるけどお前は無理だな」
21歳の宮地サンとか想像出来ない上に大学生の俺とかもっと想像出来ない。
だって俺まだ高校二年生なのに大学生とか気が早い。
あんただってこの前まで高校生だったくせにいきなり大人びた事言うから俺はすごく焦ってる。
置いていかれないようにしているのに感じる壁にどうしようもなく苛立ちを覚えてしまう。
一人暮らしを始めている事も料理が上手な事も全然分からない大学の話も俺は素直な気持ちで聞けなかった。
こっちはあんたの居ない3年の教室はいつの間にか全然違う人たちで溢れ返っている。
最後に宮地さんが座ってた席には別の人が居て下駄箱にもその名前はない。
文化祭で2人だけこっそり抜け出した時使った教室も一緒に昼飯を食った場所を見ても宮地さんがいない事が分かってるのに俺はその姿を捜してる。
「高尾、どうした」
「…あんたには、っ、もう、思い出かよ」
「は?つーか顔上げろ………、・・・」
俯いてしまった俺の頬に触れた宮地さんの体温に驚いて思わず顔を上げた。
今は見られたくなんかないのに。
いきなり触ってくるから全部全部宮地さんが悪い。
頭で冷静になれって言ってももう遅い。顔が熱くなっている事は分かった。
宮地さんが驚いて俺の顔を見ている事も分かった。
俺がどんな表情をしているのか、きっとこんなに驚いているから泣きそうにでもなっているのかもしれない。
「…、もう思い出なの、かって…言ったんだよっ!」
俺にとっては長い一年間。
まだあと二年もあって卒業後とか全く考えられない。
進路を聞かれても真剣に考えた事なんてなかった。
部活を頑張って期末考査の前にはノート提出して来週には身体測定があって明日の部活は後輩に指導しながら練習するところまでしか考えられない。
なのに宮地さんはずっと先を見てるから進むスピードが早くて俺は置いていかれる。
「俺は、まだ、あんたがいないかって、さがしてんのに…っ」
卒業する前に覚悟は決めていた筈だったのに、いざ自分がその状況下に置かれるとどうしようもなく不安になっていた。
「っ、さみしい、んだよ……宮地さん、の声が、きけねーの。部活ん時もっ、・・・休み時間も。今なんて、休みの日、だけで。それで足りる訳なくて!」
一つ口に出せば俺は溜めていたものを洗いざらいぶちまけていく。
休日の午後に似付かわしくない声の大きさで視界が潤んできたが乱暴に拭い未だ驚いたままの宮地さんに食ってかかる。
こんなの八つ当たりだ。
でも一度言ってしまえば止まる事なんて出来なかった。
いつものことが当たり前にないこの異常な日々が日常になる事が怖くて俺はどうして良いのか分からない。
「でも宮地さん、すげー…平気そうでっ」
そこで俺の言葉が途切れた。
言おうとしていた言葉は腕を引かれて目の前にある熱に吸い取られていく、そんな感じ。
痛いぐらいに抱きしめられて逃げ出そうにも後頭部と腰に回された腕が許してはくれなかった。
半ば叫びながら話した俺の呼吸は上がっていて肩で息をしていたが何度も髪を撫でられて次第に呼吸は落ち着いていく。
同時に馬鹿な事を言ってしまったと後悔に襲われた。
「馬鹿かお前誰が平気だって言ったよ轢くぞ刺すぞ」
俺が口を開く前に肩に顔を埋めた宮地サンのくぐもった声と物騒な言葉が響いた。
何処か早口で捲し立てるように話すから身じろぎもせず背中に腕を回す事なく耳を傾ける。
「平気な訳あるか。お前の話題の大半でイラついてんだよ一年の頃から緑間と一緒だったけど卒業してから俺が見えない所でとかな、嫉妬する……メールは、悪かったよ」
抱きしめる力を緩められて俺は情けない顔を見られた。
思わず感情が抑えきれず子供みたいに泣き出してゆらゆらとした視界の中でも宮地サンの髪は綺麗に光っている。
もう自棄になって目を合わせようとすれば顔を赤くさせバツが悪そうに視線を彷徨わせた宮地サンがそこにいた。
呆気にとられて口を開けたまま物珍しく見ていれば大きな手のひらが俺の視界を遮る。
いってー。思い切りいい音を立てて俺に目隠ししたよ、この人。
痛みを冷静に分析出来ると同時にさっきの言葉も俺はゆっくりと理解していき宮地サンに負けないぐらい耳まで赤くなった。
嫉妬。俺が話した事に?
つーか俺、すげー恥ずかしい事、泣きながら言った。
「顔、あちーぞ」
「宮地サンこそ、手、すげー熱い」
「俺のは元々だ」
嘘だ。いつもこんなに熱かったら平熱どんだけ高いんだよ。
視界が薄暗いと聴覚や他の感覚が発達するってのは本当らしく宮地サンが近付いてきたとこまでは分かった。
「な、に……んっ」
「何ってキスしたんだよ」
今のは言わなくても分かる。
唇から伝わる熱もいつもより高くて俺の視界は暗いまま何度もキスをされる。
恥ずかしくて後ずさったがこういう時に何故かあるんだよな宮地サンが寝てるベッド。これはもしかしなくても。
いやいやまさかこんな状況で?おかしくないか。
俺は泣いて変な事を口走った直後なのに、この状況下でヤるってどういう事だ。
予想としてはガキ臭い事言うなってデコを叩かれたり呆れられると思っていただけにこの状況は、ちょっと理解不能。
「宮地サン」
「なんだよ」
「この体勢、なに」
「何って…勃った」
「はぁ?なんで」
「お前が泣きながら本音言うから」
「っ、タンマ!」
「却下」
おいおいおい、ちょっと待て。なんか直球で恥ずかしい事言われた。
つーか何で泣きながら本音言うと勃つのか教えてくれ。
宮地サンのツボが理解出来ない。
目の前には宮地サン、後ろにはベッドと逃げられない事態で目隠しをされていた手のひらが離れていくと視線の先には勃起した宮地サンの息子サン。
「まっ、て」
「待てねーよ」
「ぁ、ちょ、っと」
熱い手のひらが右の頬を撫でて左の耳朶を甘く噛まれて俺は身震いをした。
いきなりの展開に俺ついていけねーよ?
色々と羞恥で爆発しそうな俺を置いて耳朶を吸っては耳裏を舐められた。
思わず高い声と息が上がって俺は懸命に声を抑える。
っん、俺、そんな耳弱かったか。
「おい、何声我慢してんだよ」
「んんっ、…まど、開いてるから」
指を噛んで声を出さないようにすれば頗る機嫌の悪い顔をした宮地サンが俺を睨み付けてくる。
今そんな顔されても怖くないっつーの。
俺は震える手で風が入ってくる窓を指差して何とか意識をそっちに持って行かせる。
「お前、さっき叫んだじゃねーか」
「あれはっ、余裕…なくて」
出来たばかりの傷を容赦なく広げて塩を塗りつけるとは鬼畜だ、この先輩。
さっき叫んだ時は余裕なんてあるわけがない。淋しいとか言うつもりもなかった事まで言ってしまって俺は今、後悔の嵐だ。
あぁ穴があったら入りたい。
「へぇ…」
「あのー宮地サン?」
すごく嫌な予感しかしない表情で笑わないで下さい。
極悪人って大抵こういう顔するんだろうなって典型的な悪い顔をした宮地サンは顔を近付けるとさっきより執拗に俺の耳を舐めては吸い上げる。
「ふぁっ、ぁ、んん」
「ん、じゃあ余裕無くせば声出すんだな」
言いながら俺の鼓膜に響かせる水音が聞こえて右の耳も指先で弄られると俺は唇を噛む。
弱い箇所を同時に触られると急激に下半身の血流が良くなる気がした。
いや、もうこれ勃ってる。
時折いつもより低い声で名前を呼ばれて舌先が耳の穴を舐めるから俺は目に涙を溜めて震える事しか出来ない。
「っ、宮地さん、ゃめ」
「可愛い事言われると、我慢出来なくなるんだよ」
「んんっ、…かわいいこと、とか…はぁ、あ、言ってな」
何度も執拗に責められて息が上がって声も我慢できなくなってくる。
この変態宮地サンめ。俺の声とか聞いて本当にどうすんだよ。
そんなことより、窓閉めて。
耳を撫でる大きな手を握っても止まる事を知らず首筋まで撫でられて俺は声が出ずに逃げる形を取ろうと顔を上げたのが間違いだった。
今まで耳を舐めていた熱い舌が今度は首筋に埋まり舐めては噛み付く。
痛いぐらいに吸い上げられて俺の腰が自然と浮いた。もう限界だ。
昨日の事もあって俺の体が過敏に反応する。
「もう触って欲しいのか」
「ぅあぁっ、あっ……ちが」
「分かった分かった。素直じゃねーな」
口では否定しながら俺の身体は快楽に正直だ。
ズボンの上からはもどかしくてどうしようもない俺の心を読んだみたいに下着ごと脱がされて直接触れられると気持ちよくて仕方ない。
だらだらと先端から垂れる液体が宮地サンの手の中で卑猥な音を立てるそれすらも俺の射精を煽った。
「ぁあ、…はっ、」
じわじわと余裕を失っていく俺のモノを何度も扱き鈴口を責め立てる手に震える手を重ねる。
「一回、イっとけ」
「あっ!っ、…や、んぁあ」
先走りを流し続ける先端に親指がやんわりと押し込まれると勢いよく白濁を吐き出した。
う、ぅ、なんか流されてる気が、する。
俺、ヤる気なんてねーのに何故か宮地サンのペースに乗せられてる。
肩で息をする俺のデコにキスをする宮地サンはこれ以上ないぐらい柔らかく笑っていて俺は恥ずかしさとか全部忘れて相手を見上げた。
「んだよ、やらしー顔して」
「し、てない、です」
「お前な」
なのに、この人は。
なんで態々恥ずかしい事言ってくるんだよ。
呼吸はまだ落ち着かないまま視界はずっと潤んだままの状態で見上げたから勘違い・・・いや別に勘違いでも何でもない。
俺が観念して腕を回して抱き着けば少しだけ身体を硬くさせた。
お、案外俺から何かすると宮地サンも余裕なくなるかも。
「っ!」
「・・・高尾」
「は、はい」
地の底から這い上がってきたような声を出す宮地サンとは逆に俺は声が裏返った。
え、なに。何ですか。
「んっあ!…み、やじさん、…っん、それ、あぁ」
床に押し倒され足を掴まれて大きく広げられる格好に恥ずかしがる間もなく人差し指で穴の皺を触れるか触れないかの力でなぞられた。
弱い刺激を与えられていると昨日宮地サンを飲み込んでいた孔がひくつき早く次の刺激を待ち望んでいる。
指だけじゃ絶対に足りない。
指先だけが俺のナカを荒らそうと意思を持って入口を撫でていたが明らかにいつもよりひくつき違うものを強請っていると気付いてくれたのか薄く笑みを浮かべると前を寛げた。
「そんだけ、煽ってくれたんだ。覚悟、しとけ」
「あ、っう…ひゃあ、ん」
「っ、あっつ」
粘膜が擦れ合う音と共に侵入してきた宮地サンのそれは触れた場所が火傷するんじゃないかってぐらいに熱くて頭の芯まで溶かされそうだ。
昨日から擦られすぎた孔に空気が触れるだけでも気持ちがいいなんてどうかしてる。
挿れられただけで先端からパタパタと少量の白濁が散り糸を引いた。
な、なんで。
「まだ、なんもしてねーよ」
「っうぅ、はっ、ぁあ」
奥に入っていく、それだけで達してしまった。
もう恥ずかしさで死ねるなら俺は何度死んでいるのか分からない。
俺の内壁は宮地サンのそれを締め付けているにも関わらず動き始めるからされるがまま声をひっきりなしに上げる。
ナカを満たしていたものが卑猥な水音と共に壁を擦り上げる度、背筋を駆け上がる刺激に俺は次の射精が来る、期待と快楽に身を任せた。
「っ、きっつ」
「っ、ゃ、ぁあぁ……ひ、ぁあっ」
結合部からいやらしい音が響いて俺の頭の中は真っ白になっていく。
前も同時に弄られ先走りと白濁で濡れた竿を熱い手が触れ上下に扱かれると俺の内部は宮地サンのを食いちぎりそうなぐらいに締め付けた。
それからナカで何度も宮地サンの精液が吐き出されても抜かれる事なく揺さぶられ俺の喉が枯れる頃に漸く開放された。
あぁもうホント、馬鹿なんじゃねーの。
「…‥宮地サンは俺を殺す気か」
「殺そうと思った事はあった。ついさっき」
俺の声本気で酷いな。
なんて思いながら会話のキャッチボールが出来てるから構わずに話す。
ついさっき殺されかけたのは、よく分かる。
俺途中から意識なかった。
男が男にヤり殺されるとか笑えないから止めて欲しい。
「お前だけが淋しいとか思うなよ」
「へ」
かなり情けない声が出た。
あぁ駄目だ。優しく頭を撫でられて俺の意識は緩く落ちていく。
気持ちよくて体が痛むけど素直に擦り寄ると急いで宮地サンが目を逸した。
「素直なお前だと俺の方が焦らされてるみてーだ。くっそ」
「ん、なに。宮地さん…」
小さな声で言われて聞き返すと早く寝ろと言われて枕を顔に押し付けられた。
何、死ねってか。
「良いから寝ろ」
視界が真っ暗な分聞こえた声は優しい色を含んでいて俺は安心して目を閉じた。
意識が完全に落ちる前に宮地サンが何か言って俺にキスしてくれたけど、この続きは起きてからになりそうだ。
目が覚めたら、きっと、いや絶対に長い5月病は終わりを迎える。

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