こんな高尾くん

どうしたって俺は理解不能だ。自分が何でこんなにもおかしくなってしまって今も尚転がり落ちるように変化していくのか。認めたくないわけじゃない。只移動速度がとてつもなく早いと言う話。
それは突然に起こった。
いつものように授業を受けていつものように後ろの席にいる真ちゃんを先生に見つからない範囲でからかっていた。それに眉を動かしては長い足で椅子を蹴る。これも普段通り。俺は茶化すように笑って残り少ない授業に専念する事にした。
ノート提出の時は真ちゃんのものを写させて貰えば良いんだけど前回借りて帰ったは良いが部活終わりの疲れた身体はそんな暇なく寝かしつけてきた。家で勉強なんてするものじゃないと学習した俺は授業中に出来る範囲でノートを取る事にした。要領は良く生きないと大変な目に逢うと身を持って経験した俺の体験談。
耳を澄ませば先生の声の中に真ちゃんが真面目に取り組んでる様子も聞こえてきて流石優等生だって感心する。
スポーツも出来て勉強も出来て顔も良い。だけど性格に難があるから緑間真太郎はモテない。
女子からはあまり良い印象を持たれていない俺の相棒。本人曰く女子は煩くて好きじゃないとの事。
今時の高校生とは思えないぐらいに堅物で息苦しくないのかって俺が心配するぐらいだ。
まぁ確かに一緒に居て堅苦しさはあるもののそれ以上に面白くて俺はちょっかいを出す。
もう一つ理由があるとすれば、このエース様は俺の恋人様でもある。部活も同じで互いにレギュラーで一緒に居る時間が長くなっていく内に面白さの中に別の感情が生まれた日を俺は鮮明に覚えている。それは生まれたと言うよりも自覚したと言った方が早いのだけれど長くなりそうなのでこの話は割愛。
晴れて恋人同士になった俺たちだが周りから見ればそう対して変化も無いだろう。前から鬱陶しいぐらいに真ちゃんに絡んでいた俺だから皆の目は諦めたと言うか慣れたと言うか特に何かを言われたわけでもない。
それ以前に男同士の俺たちだから公に晒せばとんでもない誹謗中傷が待っている。それだけは分かる。
だけど少しぐらいのスキンシップは俺から一方的にやっていればいつもの光景。なんだけど。
最近真ちゃんが意地悪になってきて俺は少々困っている。普段なら俺からちょっかいを仕掛けるのに最近では真ちゃんが気まぐれにアクションを起こすから俺としてはかなり心臓に悪い。
「…高尾」
「っ、」
考えていた矢先。
耳元で落とされた低い声。それは二人きりの時にしか使わないはずなのに有ろう事かこの男は授業中に突然響かせてきた。
俺にしか聞こえないように。今の授業は終わりも近いと言うことで少しだけざわついていることだけが救いだ。
だからこそ不意打ちをしてきたんだろうけど囁かれた声に顔が熱くなって真ちゃんの方を向けば勝ち誇った表情で俺を捉える。
そして知らぬ顔でまたノートを書き出す。俺は頬杖をついて頬の熱が引く事を願うばかり。
だけど脳内ではさっきの声が繰り返される。聴覚を犯され低く甘ったるい声は腰にずくりと落ちて響いて落ち着かない。
突然起こった出来事に早く授業が終わって欲しくて堪らない。後ろを意識すると真ちゃんがこちらを見ている事など容易に想像できた。今まで校内で近づくなって言ってきたくせに向こうから仕掛けるなんて狡い話だ。暫くして鳴り響いたチャイムに俺はホッと胸を撫で下ろす。
視線にすら意識が持って行かれそうで俺は自分が恥ずかしくなる。熱のこもった身体を机に押し付け熱い息を吐く。
今日の授業はもう無い。部活も休みで早く帰るだけだ。今も真ちゃんは他にはわからないように楽しそうな表情をしているに違いない。一緒に居て気付く事が多々あって最近その変化にもいち早く察するようになってきた。
良いんだか悪いんだかよく分からず話しかけてこない真ちゃんに今日はもう一緒に帰ってやんねーとか思ってもいない事を心の中で叫んで俺は担任が来る事を望んだ。明日の連絡事項が伝えられて長い一日が終わる。俺の身体はすっかり元通りになり鞄を持ち振り返った。
「今日どーするよ。真ちゃん用事ある?」
「いや特に何もないな」
「そっかそっか。じゃあどっか寄ってくか」
部活がない日は基本的に何をするのか悩む。いつもなら夕方まで部活をしてそれから暗くなるまで自主練をする。
バスケ漬けの毎日だが悪くない。寧ろそっちの方が俺は好きだから他のやつよりも充実してるんじゃないか。
体育館脇に置いてある自転車を取りに行き当たり前のように真ちゃんは後ろのリアカーへ。
「高尾」
「なに?」
「俺の家に行け」
「は?なんで。やっぱ用事?」
「まぁ用事と言えば用事だ」
「なにそれ。先に言えよーまぁ何処へでも行くけど、なっ」
勢いよくペダルを踏み走り出す。今日は久々の休みだから制服デートも悪かねーなと思ってたらこれだ。
ワガママなのは知ってるけど急に予定変更は止めて頂きたい。
それでも素直に従っちゃう辺り俺も甘いんだけど。
通い慣れた通学路をスムーズに進んでいく。リアカーを引きずる音が煩いとか恥ずかしいとかそんなもの慣れればどうって事はない。いつの間にか俺も結構筋肉ついてきて鍛えられてんだなーって考えながら真ちゃんの家までひたすら走っていく。
朝は早くて帰りは夕方から夜だから帰宅部組の奴らは驚いた顔をしていたけど、それも無視だ。
なるべく車の通りもない道を選んで走り抜けると見慣れた真ちゃんの家が目に入った。
門の前で自転車を止めて真ちゃんが降りた事を確かめて俺も帰ろうと意識を他に移そうとしたのに腕を引かれそれは出来なかった。
「ちょ、なに。あぶねーよ」
「お前こそ何をしている。寄っていけ」
「用事ってさっき言ってただろ」
「お前が俺の家に来ると言う用事だ」
「いつ約束したよ!そんな事」
「俺が寄れと言ったら寄れ」
「真ちゃんあのね」
「行くぞ」
「聞けよっ」
会話のキャッチボールにすらなっていなくて遠くから投げ付けられてる気分だ。
どうせお前野球もすげー遠くから高く放り投げるんだろ。下らない事を考えているといつまでも自転車から降りない俺に苛々し始めた事を感じた。腕を掴む力がさっきより強くなって次に見えたのは見知った黒が視界を埋めた。
「さっさとしろ」
体中に熱が走る。今度は耳元に触れた唇と言葉の度に当たる息に俺の背筋が震えた。駄目だ。真ちゃんの声は。訳が分からなくなる。思わず強く目を閉じれば離れていく熱と門を開ける音に慌てて目を開ければやっぱり勝ち誇った表情の真ちゃんがそこに居た。
「行くぞ」
その時、分かった。何をするのかって。俺もそこまで鈍くはないから熱に浮かされてもそれだけは分かった。
逆に期待していたからすぐに理解できたとも言えるけど。俺は自分の欲に素直になり大人しく従う事にした。
そういう行為自体、久しぶりだったから。なんで家に行けと言ったのかも今更理解して部屋に案内され扉を閉めた瞬間に俺より大きな真ちゃんが苦しいぐらいに抱き締めてきて期待していた欲が更に膨らんでいく。
意外と言うか何と言うか奥手そうに見える外見なのに見た目ばかりで中身は奥手でも大人しくもなかった。寧ろ積極的で俺は翻弄されるばかりだ。振り回されてばかりで恋愛事に関しても優位に立っている俺の恋人様。
腕が緩められると強引に上を向かされ噛み付くようにキスをされた。
「っ、ん…ん」
重ねる形から上唇を食まれ擽ったい感覚に襲われる。
俺の方が耐えられなくて口を開けば待っていたと言わんばかりに舌がぬるりと滑り込んできて違和感が広がる。
俺の舌をなぞりあげ口内を丹念に舐めとり丁寧に歯の隙間まで這わせるものだから俺は真ちゃんの制服を掴んだ。
全身をくまなく知っておきたいといつか言っていた事を思い出して体温は上昇の一途を辿る。
「ぁ、…しん、ちゃん…っ、んん」
満足したのか苦しくなったのか舌を抜かれて俺は息を吸い込もうとしたが今度は浅く何度も口付けられて声が真ちゃんの口に吸い込まれていく。もう一度舌を出せと視線だけで言ってきた相手に俺は従順に応え舌を絡ませあえば飲み込めなかった唾液が口の端から伝っていき顎を濡らす。冷たいそれに身体を震わせ懸命に舌を擦り合わせ堪らなくなって密着した。
「はっ…高尾」
「っんん、」
「どうした?」
「ぁ、はぁ…ずりー、よ…はぁ、真ちゃん」
俺が次の事を期待しているのを知っていて態とらしく聞いてくる。喋る度に吐息がぶつかって視界は揺れていた。
潤んだ目で見上げれば意地悪く笑うから俺は熱が集まる下半身を相手の足に擦り合わせる。
声を聞くだけで腰が震えてさっきから脱ぎたくて触って欲しくて視線だけでじっと訴え掛ける。
「何が狡いんだ?高尾」
「っ、…はっ」
ただいつものように呼ばれただけなのに低い声が脳に響いて俺を溶かしていく。触れてはくれない。
耳元で、囁くだけ。足が震えて立っていられなくなって真ちゃんの腕を掴んでも何かをしてくれるワケじゃない。
「し、んちゃん……」
触って。早く脱がして触って。頭の中でどれだけ願っても眼鏡越しに見える瞳は俺を捉えたまま楽しそうで腕を掴んでいた手をやんわりと離されて大きな手が俺の手を包んだ。
何をしてくれるのか期待したまま見上げればその手が導いた先は俺の窮屈な制服のズボンだった。
「触って欲しいなら自分で脱げ」
「ぁあっ、あ、い、じわる」
俺の手を掴んでいない手で一度だけ摩られて望んだ感触に声を上げるのも束の間無情にも手は離れていき自分自身の手しか残されていない。意地悪だと口にしながら早く真ちゃんが欲しくて触れて欲しくて俺は震える指先でベルトを引き抜く。
いつもなら脱がしてくれるのに真ちゃんが見ている中で自分から脱ぐ行為すら快楽に繋がる。下着まで濡れて一度しか触られていないのに耐え切れないほど膨らんだそれを恥ずかしげもなく曝け出せば視線が集中して先端が震えた。
「久しぶりだからと言って期待しているのか」
「っ…んっ、」
「高尾」
「あっ、ぁ、はぁ…ん、ぁ」
真ちゃんが屈んで俺の耳元で喋るだけで身体は素直に反応する。声を聞くだけで勃ち上がった先端から留まる事を知らない液が溢れ出てくる。まだ触れられていない。鼓膜を刺激され聴覚は犯され頭の中で真ちゃんの事しか考えられなくなっている。
普段から低い声が掠れて低く甘く重くなって熱の中心を刺激する。
俺は限界だ。触って欲しくて揺れる視界の中、必死で腕を掴んだのに与えられる刺激は耳だけ。
「高尾、高尾」
「ぁ、…しんちゃん、もっ…ゃ、ん、っあぁああ」
壁に押し付けられ意地悪な大好きな大好きな声で何度も呼ばれ、もう我慢できずに先端から勢いよく白濁の欲を吐き出して俺の頭は真っ白になった。
「はぁ、は、ふ…」
「まだ触ってもいないのに、な」
「あっ・・・しん、ちゃん」
真っ黒な学ランに白い液が飛んでいる事を視界の端に捉えたけどその先に待ってる快楽に俺は手を伸ばす。
蕩けた頭では早く早くと強請る他、俺には残されてなかった。


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