宮地サンが理性的だから素直に甘えてやらない

付き合って1年経ったと言うのに素直に甘えてきた事なんてあっただろうか。
いや、ない気がする。
普段は鬱陶しいぐらいに絡んでくるくせに何処か一線を置いている、そんな印象しか持てない。
一度だけ、俺がまだバスケ部に居る頃、こいつに、高尾に言ってみたが不思議そうな顔をして首を傾げていた。
どうやら無意識の内に線引きをしているみたいでそれが無性に悲しくて苛立たせた。
どうしたって素直に口にする事は出来ないから稀に何も言わず行動だけで示す時がある。
俺が勉強して構ってやれない時にはフラフラと何処かに出掛け気付いた時には居なかったなんてしょっちゅう。
それなら呼ばなければ良いと思うが週末には必ず高尾は此処に足を運ぶ。
多分、俺が来るなと言えば素直に頷くんだろう。
本音を隠したまま。頼りにされていない信頼されていない。
そう思わせる行動だ。こいつの場合。
頼る事も甘える事にも慣れておらず普段の飄々とした態度で無意識の内に割り切ったふりをする事しか出来ない。
とここまで俺の勝手な推測。
「宮地さーん」
「おー」
「今日夕飯何します?」
「あー、どうすっかな」
雑誌を読んでいたら左肩に少しだけ触れてきた熱。
見なくても高尾の髪で俺の邪魔をしないようにと加減している、と本人から聞いた。
別に真剣に読んでる訳でもないから良いって言ってんのにそういう所は聞こうとしない。
厄介だ。いや馬鹿だ。
「買い物行かねーと食材が無いんだよな」
「俺行ってきましょうか?」
「ばーか。轢くぞ」
「あいて」
読み終わった雑誌を丸め高尾の頭を叩くと思いのほか良い音がした。
軽くポコポコと音を立てると可愛くない泣き真似を始める。
「宮地さんがいじめる」
「日常茶飯事だろ」
「愛情が痛い」
「ほー、それじゃあ優しくしてやろうか」
「え、それは気持ち悪っ痛いいたいっそれ角!宮地サン角いてーって」
優しくしてやろうって思ったのに気持ち悪いって言おうとしたか、こいつ。ん?
丸めた雑誌を元に戻し斜めに高尾の頭へと突き刺してやった。
角が刺さってようが俺は知らん。
今度は泣き真似じゃなく涙を溜めている。
刺さった箇所を何度もさすっているが俺は立ち上がり上着を取りに行く。
外を見れば空はもう赤く染まっていた。
最近日の入りが早くなった。
バイトから帰る時にはもう辺りは暗くなっている事の方が多い。
コートとマフラーを取りまだ頭を抑える高尾の頭を刺激しないようにと優しく撫でた。
「買い物行くぞ」
「俺の頭ヘコんでないっすか」
「ねーよ。馬鹿な事言ってないで準備しろ」
「へーい」
たかが雑誌如きで頭がヘコんでたまるかよ。
そんなに痛く叩いたのかと高尾を見ても、けろりとしているから。
あんまり痛くなかったんじゃね?まぁどうでも良いけど。
俺は玄関に置いてある財布と鍵をポケットに突っ込む。
高尾もコートにマフラーと防寒対策をして一度キッチンの方に消えた。
「宮地サン。またこれ忘れてる」
「ん?……あー」
「今度スーパーの袋貰ってきた時は怒りますよ」
「いっそ玄関に置いておくか」
「あー、それが一番かも」
それは俺が一人暮らしを始めたばかりの頃に高尾から渡されたエコバッグだった。
茶色の丸められたそれは高尾のコートのポケットに突っ込まれる。
どうにもこの存在を忘れてしまい、大学行ってバイト行ってから買い物のルートになると家を出る時点で忘れてしまい取りに行くのも面倒で、ついレジ袋になってしまう。
週末、ここに泊まりに来る高尾は増えたレジ袋を見ては小言を言う、妙なお説教時間が出来た。
「つーかお前、主婦か」
そんなエコバッグ持って買い物とか。
男子高校生の考える事じゃねーっつぅの。
「え、常識じゃないんすか」
「少なくとも去年の俺はそんな事一度も考えなかった」
コンビニばっかりだったから余計に。
首を傾げる高尾を横目に俺は靴を履き扉を開けた。
流石に二人一緒に靴を履くのは無理だ。
俺からすればこいつは小さいけど平均的に見れば普通と言うか、それも日々身長は伸びている成長期だから前より高くなっている。と高尾は言う。
俺から見ればそんな変わってないんだけどな。
俺も少し伸びてたみたいでそれを告げた時のこいつの複雑な顔が忘れられない。
「うわ、さっみ」
外に出ると冷たい風が容赦なく俺の頬にぶつかってきてマフラーに顔を埋める。
「宮地サンの風よけでも寒いっ」
隣に来ないと思ったらそういうことかよ。
後ろから声がするってのは落ち着かなくて俺は高尾の腕を掴んだ。
「俺を風よけに使うんじゃねーよ。後ろ歩くな」
「うわっ、あ、あぶね」
手を引いて隣に並ばせると俺はポケットに手を入れ歩く。
さっきまで赤かった空はもう薄暗くなっていて冬至を迎えるまで日の入りは早くなっていくだけ。
車が通る度に冷たい風が余計強くなり舌打ちをしたくなる。
歩きながら高尾を横目で窺えば同じようにマフラーに顔を埋めていた。
それよりこいつ、デコの方が寒くね?
見てるだけでデコピンしたくなるのは俺だけか。
「おい、高尾さみーんだけど」
「奇遇っすねー俺も寒い」
「何食うよ」
「何にしましょ。んー…寒いから鍋とか」
「おー、良いんじゃね」
鍋か。それなら野菜食えるから問題ねぇわ。
外灯と車のヘッドライトが照らす道はもう歩き慣れてきた。
最初の頃は何かと大変だったが適応能力の速さで何とかなってきた、気がする。
スーパーまでの道をだらだら話したまに二人して交わす言葉も無くなり無言。
思い出したかのように話す。この繰り返しだ。
高尾との無言は別に何とも思わない。
寧ろ家に居る時は1日中話す訳でもなく二人して同じ空間で好きな事やってるだけ。
こいつとルームシェアしたら楽かもしれない。
手先が器用だから料理は大抵作れちまうとか有り得ないよな。
妹と一緒にお菓子を作ったって持ってきた時は女子かって思い切りツッコんだ気がする。
「宮地サン野菜食べてくださいよー、一人暮らしなんだから」
「最低週3日は食ってるよ」
「ぶは、それ俺が居る時だけって言ってますけど」
「お前がいないと作る気失せる」
「は……、」
「一人だとどうしてもなー」
簡単に済ませるかバイト先で食ってくるし。
会話の途中で高尾の歩く速度が落ちた。どうした。
振り返ればさっきよりマフラーに顔を埋めて、でも鼻先は真っ赤で。
調度車が来た時、ヘッドライトが辺りを明るくさせ高尾の表情が俺の目に鮮明に映る。
「すげー、真っ赤」
鼻先だけでなく耳まで赤く染まっている。
寒さのせいでこうなる訳じゃない。
それはよく分かっている。
「どこで照れた」
「照れて、ないですっ」
「じゃあ何でそんな赤いんだよ」
「っ、いいから」
つい数秒前の会話を思い出してもどこで照れる要素があったのか。
こいつのツボは未だに分からん。
覗き込もうと近付けば思い切り顔を背けられた。
「何がいいんだ。先輩に向かってその口の聞き方はなぁ」
「そういう時だけ、先輩面すんの本当卑怯でしょ」
「あー、ほら行くぞ。鍋すんだろ」
納得がいかないと俺を見上げる視線を感じたが寒さには勝てないのか早く温かな店内に入りたいみたいで俺の隣を並ぶ。
口元が見えないのを良い事に俺は小さく笑いが漏れた。
スーパーの明かりが見えると歩く速度も増し俺がカゴを持つと高尾は慣れた手つきで野菜を選んでいく。
こいつ、ほんとに。
「宮地さん、何鍋にします?」
さっきまで赤かった顔は元に戻り鼻先だけが赤くなっているだけだった。
まぁ人のいる所であんな可愛い顔されても困るんだけどよ。
「キムチ」
「え」
「キムチ鍋。お前好きだろ」
特設されている鍋の素と言う汁を注ぐだけで良いってやつ、これは画期的と言うか何と言うか。
その中からキムチ鍋を手に取りカゴに放り込んだ。
何故か間抜け面を晒した高尾に一発デコピンを食らわせ俺は買い物を続けていく。
馬鹿みたいに辛すぎるものは得意ではないが。
たまには俺も辛いもん食いたいんだよ。わりーか。
「おら行くぞ」
「…、へーい」
俯いた顔をちらりと見ればほんのり赤く染まっている。
いつもなら煩いぐらい喋りながら買い物をするって言うのに今日は足早に食材を選びレジに並ぶ。
今日はよく赤くなるやつだ。
そんな所も可愛いと言ってはやらないけど。
言った所で茶化してくるからな。
真面目に聞けって言ってもこいつは駄目だ。
自分の中で何を勝手に引いてんだって言うぐらい線引きをしている。
何をって言われるとなんだろうな。
真面目に言ってんのに、そんな事ないって決め付けるその態度もムカつく。
「いて。何するんですか」
「何となく」
高尾の持ってきたエコバッグに買ったものを詰めている中俺は鍋で使用する葱で頭を軽く小突く。
痛い訳でもねーのに痛いとか酷いとか返されるのは慣れた。
「俺の頭が葱臭くなるじゃないですか」
「しっかり頭洗えよ」
「いやそうじゃなくて」
俺はネギとニラを一緒に渡してやりそれを高尾が袋の中へと綺麗に詰め込む。
これは本当にすげーと思う。
俺には無理だ。取り敢えず突っ込むからな。
「おら、寄越せ」
「えー、これくらい俺持ってきますから」
「良いから行くぞ」
「宮地サンってホント強引っすね」
おーおー何とでも言え。買い物袋を高尾から奪い取り店を出る。
うわっやっぱさみぃ。
店の中が暖かかったから余計に寒く感じるのか。
取り敢えず荷物を持っていない方の手を上着のポケットに突っ込み寒さに耐える。
当然空はさっきよりも暗くて星まで見える。
車のライトが後ろから眩しく俺たちを照らし歩道側、つまり高尾に近付く形で歩く。
こいつ、ぬくいんだよな。
「何してんですか」
「さみーんだよ」
「誰かに見られたらどうするんですかー」
「そこまで密着してねぇだろうが」
「いやいや宮地サン結構ぴったりしてますけど」
言われ気付く。あまりの寒さに温かい高尾に腕と腕が触れ合い密着をしていた。
ポケットに収まっている手が互いに出ていたら触れている、そんな距離。
んな事言っても寒いもんは寒いんだからしょうがないだろ。
吐いた息は白く車が通る度、風が強く吹く度身震いをしたくなる。
俺は寒いのは苦手なんだよ。
今度の休み、いやまぁ明日でも良いか。
高尾と炬燵見に行くか。それなら昼間、日向の奪い合いにならなさそうだ。
平和的解決をするのなら炬燵が一番だろ。
確か先週実家から炬燵テーブルは貰ったが肝心のこたつ布団がない。
今なら種類も沢山あるし何よりセンスの良い高尾を連れていけばハズレもない筈だ。
俺の家にある家具とか食器とか殆ど高尾と、何故か高尾と仲の良い母さんが揃えてくれた。
だから男の一人暮らしの割にセンスが良いとか大学のダチが言うんだよな。
それをコーディネートしたのはほぼ同じ男なんだけどな!とも言わないけどよ。
「おい高尾春菊やるよ」
「それ食べたくないだけでしょ」
「は?お前緑色好きだろ」
赤い出汁の中に野菜を入れ煮出った所で豚肉を入れていく。
俺の向かいに座る高尾は辛いものが好きだから鍋を前にそわそわしてる。
可愛い奴。
いつもは俺が好きな鍋で良いとか言ってくるが本当はお前の食いたいもので良いんだけどな。
食べ物の趣味が全く合わない訳でもないから不便だと感じた事はない。
寧ろ作る料理のレパートリーが増えて俺は嬉しい訳で。
ぐつぐつと良い音を立て中々良い彩りの鍋を見ていた。
白菜はまだだがニラとか豆腐は良いんじゃね。
あと何で買ったって言う春菊。
「緑色は、まぁ好きですけど」
知ってる知ってる。けど改めて聞くとな。
「轢くぞ」
「なんで」
「何でも。もうお前春菊食ってろ。だが俺は肉を食う」
「宮地サンが言ってきたくせに怒る意味も理由もわかんないんですけど」
緑って言うと野菜より別の奴が出てくるからな。
俺が話を振った訳だが素直に答えるお前も悪い。
俺は取り敢えず豆腐とニラを取り高尾の皿にはこれでもかってぐらいに春菊を入れてやる。
目に優しい色なんじゃね?
話してる間に火の通った豚肉やネギを入れ高尾の前に皿を置いてやる。
「自分で取れるんですけどー。でも、有難うございまーす」
「おー、食え。大きくなれよ」
「春菊ででかくなったやつとか聞いた事ねぇ」
俺もねーよ。そんな話。
取り敢えずバスケやっててでか過ぎて困る事はねぇから食っとけ。
「高尾。明日部活は」
「午前練だけっす」
「じゃあ迎えに行くわ」
「え」
辛いもん食ってると酒が飲みたくなるとかって聞くけどよ。
もし俺もこいつも成人した時は鍋食いながら酒飲んだりするのか。
こいつ弱そうだけど。なんか笑い止まらなくなりそうじゃね。
普段から笑いのツボが多いやつだけど余計に笑い死にそうだ。
今は不思議そうな顔で首を傾げてるけど。
その仕草はあざといって知ってるか。知らねーよな。
変な所で無意識だからなこいつ。
「こたつ布団買いに行きたいんだよ付き合え」
「あー最近寒いですからね」
「お前のセンスに任せる」
「ぶは、責任重大な仕事きた」
責任重大とか言いつつその表情は楽しそうだ。
俺は一通り食い終わり食材を追加する。
高尾も美味そうに食ってるしこれからは週一で鍋ってのも悪くない。
野菜も肉も食えるからな。
つーか、こいつ好きなもん食ってる時の幸せそうな顔すげぇな。
どんだけ好きなんだよ人の家にキムチ置いていこうとするしよ。
それなら予備の着替えを置いていけって感じだけどな。
「高尾は監督に呼び出されていますが」
「んじゃ待ってるわ」
午前練で終わると聞いていたから少しだけ早めに体育館へ向かった。
去年卒業したばっかりなのにもう懐かしく感じて片付けで賑わうそこはもう別の場所みたいだ。
懐かしい2年の奴らがバスケ部を引っ張っていて来年は此処にいる緑間と高尾で頑張っていくのかともう先の事を考えている。
高校の時はその時に必死だったって言うのにな。
卒業後の事なんて想像も出来なかった。
「変わった事はねーか?」
「変わった事、ですか」
緑間と話すのも久しぶりだ。たまに高尾を迎えに行って挨拶する程度だったから。
賑わう体育館を背に俺は入口の扉に凭れ掛かる。
今日は比較的暖かい。
まだ昼間だからなんだけどそれでも手袋もマフラーも必要なかった。
「…高尾がよく笑うようになりました」
「は?」
暫くの間。今何て言った。高尾が?
「笑ってはいたのですが無理をしているように見えて」
「あー…」
「でも最近は去年のように笑っています」
俺たちが卒業してから。
高尾の乾いた、表面上だけで繕った笑顔があった。
多分それを言ってんだろう。
俺と会っても違和感しか無くて。でも本人は何も気付いていなかった。
馬鹿みたいに笑っているくせにその内側ではぐるぐる色んな事考えて。
どうすればもっとバスケが上手くなれるのか。
緑間が秀徳に来て良かったと思えるぐらい良いパスが出せるようになるのか。とか。
一年の時にポツリポツリと俺に溢した。
天才の相棒は楽しい。それは本心だろう。
けどそれ以上にあいつは色々と考えていた。
俺が高尾の事を見る目が変わったのはそれを聞いてからだ。
それまでは只の生意気なお調子者の後輩としか認識していなかったから。
「笑ってるのなら問題ねぇよ」
「心配、ですか」
「当たり前だろ轢くぞ」
こいつは常に傍にいるから高尾の些細な変化も気付いてやれるだろうけど俺は今一緒にいてやる時間が極端に少ない。
気にしてない訳あるか。
こう言った話を聞くのは初めてだ。
だから余計あいつに早く会いたくなった。
「そんなに心配しなくとも俺は高尾を、ただ相棒として面倒を見てやってるだけです」
「なに」
「俺は自主練習に戻ります」
「おい、緑間っ」
名前を呼んだ時にはムカつくぐらい口元を緩めた緑間が居て。
おいおいなんだその顔。
もしかしなくても俺は慰められた?後輩に?
マジかよ、ふざけんな。
何でそんな自分はお見通しですみたいな顔出来るんだよ。
おは朝信者になれば分かるってのか。ねーよ。
パイナップルぶつけんぞ。
俺があいつに嫉妬してんのバレバレとか、年上として駄目だろ。
高尾によく宮地サンは余裕があるとか言われるけど緑間の方がムカつくぐらいに余裕あるんじゃね。
「宮地さーん」
「んだよ」
「やけにご機嫌ナナメですねー待たせました?」
「そうじゃねー」
お前の事考えてたけどお前の事で機嫌悪いんじゃねーよ。
とか言ってもまた首傾げそうだから止めておく。
あれから片付け、ミーティングと終わり俺は高尾が着替えている間に正門で待っていると弾んだ声が聞こえた。
上機嫌だとすぐに分かる。
緑間があんな事言うからまじまじと顔見ちまったよ。
見慣れた制服姿で練習の疲れさえ感じさせない。
午前練だけと言ってもハードだからな、うちのバスケ部は。
それでも一年間必死で付いて来たから身体は出来上がってきてんだろ。
最初なんて吐き癖つくんじゃねーのってぐらいだったからな、こいつ。
「緑間と会ったんだよ」
「あ、それさっき真ちゃんも言ってました」
着替えている最中、珍しく俺が来ていたと聞いたらしい。
この口調からすると何を話したのかまでは言ってないみたいだ。
言われても緑間を轢くだけなんだけどな。
「一年生も話してましたよ。宮地サン有名人だから」
「ほー」
有名人。有名人ね。
自分の知らない所で自分の話をされるのは何だかむず痒い。
「だから俺がパイナップルの人だって訂正いてっ痛い痛い」
「誰がパイナップルの人だよデコピンするぞ」
「してるっ!もうしてる」
それは最早訂正じゃなくて改竄だろうが。
今度行った時にパイナップルって言った奴は外周走らせるぞ。
デコを押さえる高尾を横目に俺はそのまま黒髪に手を置き髪を乱すように撫でてやる。
「う、え。な、にして。脳みそ揺れる」
「別に。買い物の前に飯行くか」
「…へーい」
高尾は頭を撫でられると絶対に恥ずかしがる。
下に兄妹がいるせいで慣れていないと言うべきか。
撫でる事はあっても撫でられる行為には照れたように返すこの反応が俺は結構気に入ってる。
「はー炬燵ぬくい」
「風呂入って来いよ」
高尾の提案で決めたディープブラウンのこたつ布団は部屋の真ん中を陣取っていた。
夕飯を食い終わり丸まっている高尾の背を足で踏んでやっても痛がる素振りもなく暖を取っている。
「宮地サン先いいですよー俺洗い物やるから」
「もう終わった。俺は今日一日休みだからいいんだよ。ほら先輩命令」
「えー」
夕飯の準備と後片付けは特に決まっていない。
俺は今日高尾を迎えに行った以外で外に出ていなければ勉強をしていた訳でもない。
休日を満喫した。
机に頬を押し付けごろごろする高尾は口を尖らせながらも風呂の準備を始める。
一番風呂は俺によく譲ってくるが、さっきも言ったように俺は休日。
こいつは部活。それに遠慮なんて気持ち悪い事されても俺は嬉しくない。
風呂に向かう高尾とは入れ違いに俺は炬燵に入った。
あーやっぱ温かいな。
なんでもっと早くに買わなかったんだ。
あいつが出たがらないのも無理はないかも。
木村からおすそ分けで貰った蜜柑一つ。
高尾が出てくる前に食おう。
炬燵に蜜柑って組合わせになると一気に冬が来たって感じがする。
まぁそれは外歩けばすぐに分かるんだけど。
皮を剥き一粒口に入れると酸味が広がる。
考えるのは昼間、緑間の一言だ。よく笑うようになった、とか。
表面上はどれだけでも笑うだろ。
高尾は試合の時とそうじゃない時の差が激しい。
試合中でも笑ってはいるが纏う空気が違うっつーか。
まぁそれが当然なんだけど。
練習中に笑いながら緑間の隣に居るあいつを見て俺はいつから違和感に気付いたのか。
きっかけは本当に些細な事だった気がする。
見逃してしまえばそれこそ俺は暫く高尾を僻んでいた奴らと同じ目で見ていたに違いない。
泣かないアイツが悔しそうに顔を歪めた所を見なかったら、俺は。
「宮地サン。俺にも一口」
「っ、んだよ、もう出たのか」
「結構長湯でしたよーすんません何か考え事してました?」
び、っくりした。蜜柑を持ちながら俺は随分と考えていたらしい。
謝りながら俺と向かいに座るから面白くなくて手招きをする。
「? なんです、かっ…………え。マジでなんすか」
「俺が何でって聞きたい」
「は?」
「何で離れたとこ座るんだよ」
素直に俺の傍に来た高尾の腕を引き、そのまま隣に座らせる。
男二人だと窮屈だが座れなくもない。
「宮地サン考え事してたから邪魔しちゃ悪いなと思って?」
「お前の事考えてた」
「え。い、きなりなんすか。きもちわ…驚くじゃないですか」
今こいつ気持ち悪いって言おうとしたよな。
俺が素直になればこいつは捻くれた事ばっかり言いやがる。
デコピンをしてやりたくなったが我慢だ。
片手塞がってるし。
ぬるくなった蜜柑を食べ俺はもう一つ手に取る。
「邪魔とか思ってないからくっついて来いよ」
「んむっ」
蜜柑を一粒口に押し付けると素直に口を開く。
俺はもう一粒用意し高尾が飲み込んだ事を確認するとまた食べさせる。
なんだこれ。
「餌付けされてるみてぇ」
俺より先にそれだけ言うと高尾が視線を外す。
「ほら。口開けろ」
「自分で食えるんで。それより宮地サン、風呂」
「俺が食わせたいんだよ。素直に食っとけ。絞めるぞ」
「ホント横暴だよ、この人。…へいへい。いただきまーす」
観念したのか素直に口を開ける高尾に蜜柑を食わせ俺も合間に一粒食べた。
やっぱりまだ酸っぱい。
それでもほんのり甘いからこれぐらいが調度いい。
あくまで俺はって話だが。
何だかんだと文句を言いつつ高尾も俺の隣に座ったまま。
無言で食べていても沈黙が苦にならないし、こいつも昨日みたいに幸せそうな表情を浮かべてるから嫌ではないのだと分かる。
「あ、宮地サンも食べます?あーんってしてあげますよ」
言いながら机にあう蜜柑を一粒手に取った高尾はまるで悪戯を思いついた子供みたいな顔をする。
「ん、」
そのまま手首を掴み俺は高尾の持っている蜜柑を食べ皮が捲れていたのか指に付いた汁まで舐めとる。
あー、でも餌付けされてる気分になるわ、これ。
「おい、」
「・・・」
「たーかーお」
「へいっ」
へいってなんだ。返事か。
指から口を離せば耳まで真っ赤にした高尾がいて俺は口元を緩める。
こういう不意打ちに弱いから面白いんだよな。
お前の方が何かを仕掛ける前に俺から行動すれば大体負ける事はないと俺だって学んできたんだよ。
ぺちぺちと頬を叩くと大袈裟に肩を震わせた。
「お前がしてきたのに何で赤くなってんだよ」
「や、だって、宮地サン絶対断ると思って」
「残念だったな。俺はお前と違って素直だから」
言葉に含みを持たせ俺は高尾から目を離さない。
真っ直ぐに捉えたまま。この言葉の意味を理解しなくてもいい。
それでもこの頭の回転が早い後輩は理解するみたいでほんの少しだけ目を大きくさせた。
けど、時間にして数秒。
すぐに隠されてしまう。
「俺は素直ですけど?」
「ほー、そりゃあいい事だ」
あぁムカつく。
その隠したクセに見える表情が俺の神経を逆撫でる。
気付かなければいいだけなのかもしれない。
けど気付いてしまったから仕方ない。
ムカつくから。その口を塞いだ。
「んっ…」
酸っぱい。その中に甘い。
唇を舐めると余計に酸味が増した。
何度も何度も執拗に舐め続けるときつく閉じられたそこが薄く開き俺の舌を迎え入れる。
遠慮なんて無しに生暖かい腔内へと潜り込み舌同士を擦り合わせてはまた舐める。
上顎を丁寧に刺激すると高尾は俺の服を掴んできた。
あぁ気持ちいいのか。
「ふっ…んんっ」
「…はっ、…ん…っ」
互いに互いの舌を絡ませていきながら俺は首の後ろに手を回し首筋を撫でる。
舌を甘く噛み弱い箇所を徹底して責めると頬に添えた指先が濡れた。
薄く視界を開ければ震える睫毛と赤らめた頬が目に入る。
睫毛が濡れ涙がまた落ちて俺の指を濡らす。
キスだけでこんなに気持ちよさそうにしてるんだから俺としては満足だ。
最初は控えめに舌を絡ませてきたが段々と積極的になる高尾に応えるよう強く吸い上げる。
流れる涙の量が増え服を握る力が増した。
「んぅ……っ、はっ、ぁ」
「はぁ…、…は、溶けちまいそうな顔」
唇を離し軽く触れ合うだけのキスをすれば目を開けた高尾は本当に蕩けてしまいそうな視線を俺に向ける。
優しく頬を流れた涙を拭ってやり上がった息を整えていた。
「い、きなり…は、キツ」
「悪かったよ」
風呂上りの柔らかな髪を撫でるとやっぱり照れるようでそわそわと落ち着かない。
甘やかしたいのにどうしたって甘えてくれないその態度に俺も落ち着かない。
目尻を撫でそのまま頬へキスをする。
普段こんな事しないからな。
たまには良いかって顔中触れてない場所はないってぐらいに口付けた。
「んっ…宮地サン?……っ、風呂、は?」
「あと」
「っ、ん…なん、か、今日、変です、って…」
瞼や目尻にキスを落としそのまま耳朶を食む。
此処が弱いのは知ってる。
だから何度も何度も時折強く噛み少しへこんだ箇所を何度も舐めてやると高尾の腕が俺の首に回され抱き着いてきた。
「はぅ……ん、それ、ゃ」
「無理。やめる訳ないだろ……んっ」
「ひぁッ、…んん、っ〜……」
抱き着いてきた高尾の腕はそのまま。
後頭部に手を添えてやり痛くないようにとゆっくりと押し倒した。
デコに一度口付けさっきまで弄っていた耳朶を吸い上げ穴の周りを舐めた。
そのまま小さなそこを態と音を立てて舐めると鼓膜を刺激されるようで。
ビクビクと小さく震えては回した腕が俺をもっと引き寄せる。
刺激に耐えているのはわかるが俺にはねだっているようにしか捉えられなくて唾液で汚れても構わず耳を責め立てた。
「あっ…、ゃ、それ……おと、ゃあ、んっ、…ゃ、だ」
「高尾」
「っ!」
「ホントに、嫌か?なぁ…」
「……んぁ、…ほん、と…ずりぃ…」
耳を舐める事をやめて耳元で小さく問い掛けると小刻みに震え出す。
震えの中でも俺の声と同じぐらい小さく首を振り悔しそうに吐き出された言葉を聞くと背筋が震えた。
今日は元々ヤる気なんてなかったのに見えた本音を、逃すべきではないと本能が告げた。
本当はただ焦っていただけなのかもしれない。
緑間の言葉に。
傍に居れないから余計に焦っていただけなのかもしれない。
俺だけが気づいていた事に緑間も気付いて悔しい。とか、ほんと
「大人げねーわ」
「…え、…あっ、み、やじさ、っ…んあ、…んっ」
「これ、もう洗わないとな」
下肢に手を伸ばせば、しっとりと濡れた感触。
掌全体で膨らみを可愛がると押し殺した甘ったるい声が部屋に響く。
性感帯である耳を何度も弄った甲斐があって下着だけでなくスウェットに染みが出来ていた。
どんだけ弱いんだよ。
苦しそうに張り詰めたそこを楽にしてやろうと下半身だけ晒せば慌てて隠そうとする。
「今更。何してんだ」
「だ、って、まだ…さわられて、ない、のに」
さっき撫でただけで直接的な刺激は与えていない。
それでも高尾の性器からはだらだらと先端の窪みからだらしなく垂れている。
見ているだけでヒクつく熱を包み込む形で握り、さっき弄っていなかった方の耳にそっと息を吹きかける。
「あっ、ゃ、それ、も、だめ…っ、んぁああッ」
「はっ」
扱くより先に俺の手が勢いよく飛び出した熱い白濁で汚れた。
マジかよ。俺まだ何にも。
「はぁっ、ぁ…あっ…はー…っ、」
達したばかりの高尾も信じられないって顔をしながら俺の汚れた手と自分の性器を見ていた。
「高尾、おまえ」
「っ、なき、そう……」
そう言うと腕で顔を隠しやがった。
まさかこれでイくなんて俺も思ってなかったけどよ。
予想外と言えば予想外だ。あぁでも泣きそうって言うから泣けば良いのに。
とか口にはしないけど。俺は思ってる。
いや願っているの方が正しいか。
「おい、高尾」
「宮地サン、が…」
「あ?」
「宮地サンが、いつもと、違うから…俺、おかしくなる」
消えそうな声で、泣き出しそうな顔で、羞恥でいっぱいいっぱいになってるその姿で。
馬鹿じゃないのか。
馬鹿、だろ。こいつ。
普段しない事をした自覚はあるけど、まさかおかしくさせるとは思わなかった。
「っ。おかしく、なっときゃ良いのによ」
「ひっ、ぁ、ぅああっ、あぁ」
ギリギリのところで理性を保とうとするなんて馬鹿だろ。
あぁ馬鹿のする事だ。
頭の芯が熱くなるって感覚は初めてだ。
高尾の我慢して恥ずかしがってる姿に煽られたのは確か。
だから俺の方が我慢出来ずに白濁で汚れた指を奥まった孔へと滑り込ませた。
腰に熱が溜まって早く精液を吐きだしたくてぐるぐると俺の理性が崩れ落ちそうになる。
けど、まだ、早い。
このまま突っ込んでやりたい衝動に駆られたが流石にそれは出来ず熱い壁を撫で絡みつく粘膜と締め付けに俺の方がおかしくなりそうだ。
指だけで、これだ。
挿れたら絶対に気持ちいい。
トロトロに蕩けたそこがヒクつき誘い込むから息を飲んだ。
「んあっ、みゃ、じさ…っ…あ、ひ、ぁっ、あ」
駄目だ。限界だ。
そんな声で、呼ぶな。
「っ悪い、痛かったら…言えよ」
「アッ…っ、あぁあ、あっ…、あつ、いぃ……んぁあ」
指を引き抜くと俺は痛みを感じるほど勃起した熱を取り出し孔に擦り付ける。
普段なら様子を窺いつつ挿れるが今日はそうも行かない。
腰を掴み俺はそのまま腰を押し進める。
余裕なんて、ある筈もない。
熱い粘膜に包まれるとすぐに締め付けられた。
視界が歪む中、間を開けずに腰を打ち付ける。
肌のぶつかり合う音と高尾の声に性器が大きくなった、それだけは分かる。
「あぁあ、あっ、あ、っ…ゃ、あっ、み、ゃ、じさ…っあ」
「はぁ、っ…あ、……はっ、っ、いって」
長く持たせる気もなかったが余りの締め付けに眉を寄せる。
高尾は揺さぶられるまま、だったが俺の名前を呼ぶと背中に手を回した。
他人から言わせると、ただそれだけの事だが。
俺にとっては違った。
「っの、…も、やべ……っ、く、…ぅあ」
「あっ、あ、……おっき、く…ぁあっゃあ」
耳元で高尾の鳴き声を聞いて腰を打ち付ける速度が上がる。
擦れる度に熱が絡みつき射精感は一気に高まる。
「んゃあ、っ、みゃじ、さっ、あぁ…んんあ、〜〜っ…!」
身体の内側から溢れる感覚に身を任せ、もう出そうだって時、腰に足が絡みつき抱き着いてきた高尾に俺はもう火傷しそうなほど熱いナカから引き抜く事も出来ず勢いよく精液を飛ばした。
「ふゃ…っ、あ、ぁ」
「っはぁ、はー…、高尾、っ」
「あっ、んぁ、ま、また」
激しく胸を上下に揺らし呼吸を整える姿にさえ欲情してまだ収まったままの性器を引き抜かず腰を揺らす。
さっき、腹に熱いものを感じたがこいつもイったのか。
萎えた性器をゆるゆると扱き俺は真っ赤に染まった耳元に近付いた。
「好き、だ…すげぇ、すき」
「っ〜…な、ぁ、ああっ、あ…」
「俺に、だけ、甘えてりゃ、いいのに…」
本能のままに抉るように貪るように腰を打ち付ける中、俺はもう理性なんて崩れ落ちていた。
視界が歪むのはきっと夢中になっていたからだ。
意識がはっきりとした今ならよーく分かる。
途中までは覚えているがそこから高尾の声とぼんやりとした顔しか覚えていない。
重症だ。
まさか理性を飛ばすとか思ってもみなかった。
近くに転がったティッシュのゴミをテキトーにかき集めゴミ箱へ。
コタツの電源も電気も付いたまま。
隣には寒そうな格好をした高尾が居て取り敢えず近くにあった俺の上着をかけてやる。
こいつも、もしかして気絶してる?
「……やっちまった」
重苦しい溜息と共に掠れた声が耳につく。
今まで無理をしないようさせないようにしてきたと言うのに今回ばかりは自分の意識も記憶も途中から途切れている。
倦怠感と罪悪感に包まれながら俺は後処理を済ませた。
高尾を抱きしめたまま眠ったのだが俺が目を覚ましても穏やかな寝息が聞こえる。
どうやらまだ起きてはいないようで俺は何度吐いたか分からない溜息が漏れた。
枕に頬杖をついて隣で眠る高尾の前髪を指先で弄ってみたが起きる気配がない。
目が覚めたら何て言うか。
今日一日、こいつは動けそうにもないよな。
俺ですらこれだけ怠いんだから。
枕に頬杖をついたまま俺は明るい空を見上げ高尾が起きるのを待つだけ。
昨日のうちに買い物済ませといてホント良かった。
「今日ぐらいワガママ言えば良いのによ」
ポツリ漏らした言葉は静かに消える。
1年経っても中々甘えないこの恋人はどうすれば良いのか。
ぐるぐる考えて悩んで俺に遠慮しているならその気持ちごと何処かに投げ捨てればいい。
「…、…」
「起きてんなら起きたって言えよ」
「んで、バレて、げほっ…のど、いって」
「ほら」
ひでー声。俺はもうマシになったけどよ。
風邪を引いたのかって言いたくなるほど掠れた高尾の声に俺はペットボトルを目の前に差し出す。
「みや、じさん。」
「ん?」
「動けない、つったら、わらいます?」
笑おうとして引き攣っている高尾に俺はペットボトルのキャップを開ける。
中身をそのまま含み口移しで飲ませると何も言わず飲み込んだ。
何度か繰り返し触れるだけのキスを何度か行う。
「ん、…宮地サン、やっさしー」
さっきより声はマシになったが、やっぱり掠れてる。
「今日は一日寝てろよ」
「え、俺平気」
「寝てろ」
「ういーっす」
笑ってはいるけど身体が痛いって事ぐらい見て分かる。
無理させたのが俺だからだ。
それなのに笑う大丈夫だって笑う高尾を見て俺は布団の中に潜り込む。
「お前さ」
「はい」
「少しぐらい寄りかかって来いよ」
「…」
「いつもが嫌なら今日だけワガママ言え」
そっと髪に触れて何度か撫でる。
言おうか言わないか悩んでいたが昨日と変わらない態度に我慢出来なくなった。
「ね、宮地サン」
「ん?」
「俺、前よりワガママだし、宮地サンにしか甘えてないんですけど」
「何処が」
「あれ?」
いや、ほんとにどこが甘えてワガママなんだよ。
どう見たらお前の行動に甘え要素があるんだ。
首を傾げる高尾を殴ってやろうかと思ったが今日は駄目だ。
代わりに腕の中へ閉じ込めてもっと甘えろと伝えれば落ち着かないのか俺の服を掴んで何かを言った。
掠れた上に小さすぎて何かが分からず耳を傾ければ
「……腕枕してください」
「……だけ?」
「え」
腕枕?腕枕だけかよ。
まさかそんな事言われると思わなかったじゃねーか。
真っ赤な顔して何を言うかと思えば。
抱きしめたまま腕を差し出すと頭を乗せる高尾を可愛いって感じた自分を轢きたくなった。
ご満悦と言うか何て言うか鍋食ってる時とかコタツにいる時みたいに幸せそうな顔してるから思わず頬をつつく。
「お前の、すげー分かりづらい」
「いて、宮地サン、つつきすぎ」
「はー・・・ホント分かりづらいわ」
もしかしなくても、こいつは甘えてたのか。
俺が気付けなかっただけかよ。
深い深い溜息一つ漏らして脱力した。
いやでも分かりにくい甘え方するこいつもこいつじゃね。
「…宮地サンも大概素直じゃないですけどねー」
「あ?」
「いいえ。今日は素直に甘えます」
今日はじゃなくて今日も明日もずっと甘えとけって言うと肩を震わせて笑うから少しぐらい痛くなっても俺が面倒見るから良いかと抱き寄せた。
この時、顔が見えない体勢で高尾が小さく笑った事を俺は知らない。
悪戯が成功した子供のように。
これ以上ないほど幸せそうな表情を浮かべていたことに。

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