球磨川に呼ばれた二人――蝶々崎蛾々丸と志布志飛沫は明日付けで所属することとなる箱庭学園を見上げた。
マンモス校というだけあって、だだっ広い敷地内に足を踏み入れた二人は、球磨川の待つ教室を探し出すのに多少骨が折れることを予測し互いに溜め息を吐く。
そんな時、
「蛾々丸くんと飛沫ちゃん、で合ってるかな?」
二人が振り返ると其処には一人の少女が居た。
艶やかな藍色の髪に琥珀色の円らな瞳。美少女と分類されても可笑しくない少女が、自分達に声を掛けるだなんて考えられる可能性はただ一つだが、飛沫は敢えて問うた。
「あァ?誰だよテメー」
「ひめはね、黒神ひめっていうの!禊くんに二人を迎えに行くよう頼まれて来たんだ!」
少々頭が弱そうな喋り方をする少女はやはり自分達の仲間らしい。
そういえばそんな名前の奴が居ると球磨川が話をしてたな、と思案した蛾々丸と飛沫は目配せをした。
「禊くんが待ってるから蛾々丸くん、飛沫ちゃん、早く行こ――」
少女が話終わる前に、けたたましい音と共に少女は地面に沈んだ。
沈めた当人である飛沫が足を降ろすと何をしてるんですか、と蛾々丸が彼女を咎める声が飛ぶ。飛沫はそれを受けて少女を見下ろし心の篭ってない謝罪を告げた。
「初対面で名前呼びとか馴れ馴れしいし仕切るからついイラッて…ごめんなさいもうしません許してください」
「全く、貴女という人は……同感ですけどね!!」
咎めると思った彼も少女が気に入らなかったらしく、追い打ちをかけるように足を少女の頭目掛けて下ろす。
「球磨川さんの彼女だか何だか知りませんけど、そんな事で偉そうにされても困ります!私達は球磨川に付いてきただけで、貴女に付いた訳じゃないんですからね!!」
何度も足を振り下ろしていた蛾々丸が、気が済んだのか足を止めた。隣で見ていた飛沫もこれは死んだな、と少しだけ気の毒そうに少女が沈められた地面に視線を向ける。
しかし、其処には抉られた地面以外何もない。
ゆらり、と背後に感じた気配に二人が慌てて振り向くと、其処にはまるで何事もなかったかのように少女が立っていた。
「どうしたの?蛾々丸くん?飛沫ちゃん?」
「(馬鹿な…っ!確かに手応えはあったのに…!)」
「(周りに球磨川さんは居ねー…ってことはこいつの過負荷か!)」
「大丈夫だよ、二人とも」
一体何が大丈夫なのか――
にっこりと笑う少女が気味悪く思えて、少女が一歩足を踏み出した時、二人は本能的に一歩後ろに下がっていた。
「二人の私に対する嫌悪感は消失しちゃうから」
何を、と少女に問う前に二人の胸には鋏が刺さっていて、
「仲良くしてね?蛾々丸くん、飛沫ちゃん」