恋は堕ちるもの



「『本当美味しいなー』『ひめちゃんの料理は!』『ひめちゃんはいいお嫁さんになれるね!』」

「本当に!?なら禊くん、ひめをお嫁さんに貰ってくれる?」

「『勿論だよ!』『僕以外の奴にひめちゃんをお嫁に出すなんて』『考えただけでもそいつの心臓に螺子を刺しちゃいそうだよ!』」


理事長室で用件を済ませた二人は、箱庭学園より少し離れた公園でお弁当を広げていた。
仲睦まじい光景に、公園を通りかかる者が居れば仲が良いカップルだと思うだろう。
しかし、この二人はそんな温い関係ではなかった。


「『それにしてもみんな変わってなかったなぁ』『特にめだかちゃんなん、か…』『……あ、れ?』」


球磨川が違和感を感じ視線を下ろすと、自身の胸に鋏が深々と刺さっていた。
隣に座る彼女に視線を移せば、其処には光のない瞳で自分を見つめるひめ。ごぷり、と球磨川の口から血液が溢れる。


「禊くんが楽しそうにめだかの話をしてる…めだかがいいの?めだかの方がいいの?ひめよりめだかの方が好きなの?駄目、駄目よそんなの!だって禊くんはひめのだもんひめだけの禊くんだもん!まためだかに奪われちゃうの?居場所だけじゃ飽きたらず禊くんまで奪おうっていうの?させない…そんなことさせないさせないさせないさせないさせないさせないさせないさせないさせない!嗚呼、そうだね、めだかなんかに奪われるくらいなら禊くんを殺しちゃえばいいんだよね消失しちゃえばいいんだよねそしたら奪われないよね、禊くんはひめのもので居てくれるよね」

「『ひめちゃん…』『そんなことしなくても、僕はひめちゃんのものだ、よ……』」


鋏を持ち虚ろな眼で取り乱したひめの身体がぴたりと止まった。
徐々に瞳に光が戻っていき、完全に収まった時自分が仕出かしたことに気付き涙を零した。
息絶え絶えな球磨川から鋏を抜き、傷口を撫でると傷口は跡形もなく消え、血で汚れた筈の服も最初から汚れも何もなかったように綺麗になっている。球磨川が元通りになったのを確認したひめは、泣きながら彼に抱き着く。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…ひめ…ひめ…っ」

「『大丈夫だよひめちゃん』『僕は怒ってないから』『寧ろひめちゃんにこんなに愛されてるんだって思うと嬉しかったよ』」


泣きじゃくるひめの瞼に口づけた球磨川はなんでもないことのように言い放つ。「『僕は幸せ者だなぁ』」と笑う球磨川にひめも釣られて微笑んだ。


「『僕はひめちゃんのものだけど』『ひめちゃんは僕のものでしょ?』」


そう尋ねる球磨川に、ひめは頬を染め迷わず答えた。


「うん!ひめは、禊くんのものだよ!」



“恋”なんて生温いこれは“依存”だ、と彼等に云える人物は生憎此処には居なかった――



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