采は転がっている



ある少女が黒神家から消えて十余年。
その彼女は今箱庭学園を歩いていた。手には少し大きめのバスケット。蓋が閉じられているため中は見えないが、彼女が真心込めて作った色とりどりなサンドウィッチやおかず達が詰められてる事だろう。

初めて訪れたこの膨大な敷地に、彼女は迷うことなく愛しい人へ向かって足を進める。
そして、漸く時計台に辿り着いた彼女は、愛しい姿を見つけた瞬間、まるで久しぶりに恋人会うかの様に頬を綻ばせ走りだした。


「禊くんっ!」


突如球磨川の体に軽い衝撃が走る。それが背後から勢いよく抱き着かれたからだと気付き、そんなことをする人物を球磨川は一人しか知らないため彼は笑った。


「『どうしたんだい?』『――ひめちゃん』」


名前を呼んでから後ろを振り向くと、ひめと呼ばれた少女は幸せそうに微笑みながら口を開いた。


「禊くんと一緒に食べようと思ってお弁当作ってきたの!」

「『本当?』『わぁ』『嬉しいな!』」


まるで青春のヒトコマのような、ほのぼのとした空気が彼と、彼の彼の背後に居る少女を包む。
殺伐とした空気が一転したことに善吉達はただただ彼等を見ることしか出来ないが、一人顔色を変えた人物が居た。


「その声……ひめ、お姉様…?」


まるで否定して欲しいように、まるで縋り付くように、めだかは声を絞り出した。しかし、その願いはいとも簡単に裏切られてしまう。
先程までほのぼのとしていた空気は一転凍り付き、呼吸すら赦されないような重苦しさが漂う。


「――その声は、めだか?」


息苦しい沈黙を破ったのは、球磨川の背後に立つ少女だった。
少女の意図を汲んだ球磨川が身体を横にずらしそして、めだか達の眼前にその姿を現した。

艶やかな腰まである真っ直ぐな藍色の髪、琥珀色の瞳、幼さが残る顔立ちだが、その容姿ははさながら、目の前に居る彼女――黒神めだかのようで、


「ひめお姉さ――」


――ジャキン、


はらはらと藍色が舞う。
めだかの眼前に居る少女の手には鈍色に光る鋏。舞った藍は彼女の腰まで伸びていた髪だった。


「ねぇなんで?なんで同じ髪型なのめだか。ダメでしょひめとお前は違うんだからひめはお前じゃないんだから同じなんてダメでしょ」

「ひめお姉様……」

「めだかちゃん、どういうことだよ!コイツは一体誰なんだ!」


重苦しい雰囲気に耐え切れなかった善吉が声を荒げる。彼は幼い頃からめだかと一緒に過ごしてきた、言わば幼なじみという間柄だが、目の前の少女に見覚えはない。
しかし、目の前の少女は幼なじみである彼女によく似ている。美人な顔立ちであるめだかとは反対に、あどけなさが残る可愛らしい顔立ちである少女はとても他人とは思えない。

善吉同様疑問に思っている阿久根達もめだかに視線を向け、彼女の返答を待っている。
視線の先に立つめだかは、目を閉じ息を吐くと、再び開いた目で少女を見つめこう放った。



「彼女、ひめお姉様は、私の―――双子の姉だ」



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