「これから…どうなっちゃうんだろうね…」
トレジャーハントが終わりみんな揃って帰路についた時、誰かがぽつりと呟いた。
その一言にただでさえ重かった空気が、更に重量を増して誰も口を開こうとしない。
みんなの脳裏に共通して浮かぶのは、校庭で一人膝をつく人吉先輩の姿だ。これも全て安心院さんの思惑通りなのだろうが、何せ後味が悪い。みんなも落ち込んでしまっているし、どうにかこの空気を変えられないだろうか。そんな考えに至った時、わたしの足がぴたりと止まる。
わたしは、何を考えているんだろう。
わたしが此処にいるのは全て、“私”の為だというのに。
「はうっ、忘れ物をしてしまいました。みんな先に帰ってて下さい〜」
「大丈夫?また転んだら大変だし、一緒に付いて行こうか?」
「だ、大丈夫ですよぅ!」
「あいちゃんの“大丈夫”程信頼出来ないものはないね」
「「「「確かに」」」」
「み、みんな酷いですぅ!わたしだって本気だせば、転ばないで歩けるんですよぅ!」
ならいつも本気だそうよと笑うみんなに釣られて笑いながら、じゃあまた明日ねと手を振りながら引き返す。
みんなの姿が見えなくなった所で、わたしは足を止めた。
「いい加減出てきたらどうですか?ストーカーなんて趣味悪いですよぅ」
球磨川先輩、と言えば物陰から姿を現した学ランを纏う男子。
気付いてたんだ、なんてわざと気付かれるようにしておいてよく言う。
「『単刀直入に言うよ』『君は一体ひめちゃんとどういう関係なんだい?』」
「何のことですか球磨川先輩?わたし、先輩の言ってることがよく分からないですぅ」
「『それで僕をごまかせると思ったら大間違いだよ』」
君は一体誰だい?
そう問う球磨川先輩の眼は真剣そのもので。
――わたし?わたしは、
「――私だよ、禊くん」
「『っ、ひめちゃ…』」
「って、信じちゃいました?冗談ですよぅ」
まさか信じると思わなかったと内心驚きながらも、ぐっと唇を噛む彼にほくそ笑む。そんな反応をしてくれるなら、こんな茶番をした甲斐もあるってものだ。
くるりと回り無邪気さを装いながら彼と距離を取る。
「わたしは私ですよぅ、球磨川先輩」
わたしは私、私はわたし。他の誰でもないですよぅ。
敵意を隠さず、目の前の球磨川先輩に言い捨てる。わたしから私への手掛かりが掴めると思ったら大間違いですよぅ球磨川先輩。何一つ、塵一つだって貴方には教えてあげません。
だって――
「貴方のこと、大っ嫌いですから」
私を捨てた貴方なんて、豆腐の角に頭をぶつけて死ねばいいんですよぅ。
ね、私もそう思うでしょう?