それはパンドラボックス



ちゃぷん。
暫し揺れる水面を見つめためだかは、平常心を取り戻すように深呼吸をした。
胸を割って話そうと安心院に提案し、彼女達が温泉に入ってから十数分。人類の七億人が悪平等という安心院のカミングアウトによって、動揺してしまった精神を落ち着かせようと息を吐く。


「ひめお姉さまは…どうしている」


動揺しためだかが行ったのは話題を変えることだった。元より、最近姿を見せない双子の姉のことは安心院に聞くつもりであったが、こんな聞き方になってしまったことにめだかは内心溜め息を吐いた。
めだかの問い掛けに、立ち上がった安心院は再び湯舟へ身体を浸からせる。


「ひめちゃんは元気だぜ。君の心配も要らないくらい」

「なら安心だ。貴様が生徒会室に来た日以来、お姉さまは会いには来て下さらないからな」

「…便りがないのは元気な証拠と言うじゃない「黎守あい候補生という姿でしか」

「おや、気付いてたんだ?」


流石は双子と言うべきかなと笑う安心院。体験入学の時点では、黎守あいという存在は居なかったことに関しては気付いていないようだけど…と内心呟きながら、わざとらしくでも残念と肩をすくませる。


「あれは、ひめちゃんに似て非なるものだぜ」

「……どういうことだ安心院なじみ」

「まぁそんな怖い顔をするなよ。焦らなくても、遠くない未来この意味が分かるさ。初登場でいきなりネタバレなんて詰まらないぜ?」


でもそうだな、強いていえば悪平等(ぼく)と似たようなものかな。あくまで似たような、だけれど。


「それにしても、黎守の存在に気付くなら、いい加減あの事にも気付くべきだと思うぜ」


すっと細められた安心院の目に、意図が分からずめだかは眉を顰めた。


「なんの話だ」

「それとも、気付いてて気付かない振りをしているのかな?」

「だから、なんの……」


安心院の口角が三日月を描く。
その様子を見ためだかは言葉を詰まらせた。警報音が鳴る。本能が聴いてはいけないと鐘を鳴らす。
安心院の言葉を止めなければ、そうしなければ、何かが壊れてしまう。

早く、止め――




「黒神ひめなんて人間、この世界の何処にも存在しないってことをさ」





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