B級ホラー映画のような



「んじゃ、みんな行くよー!」


喜々津の声に、暗号をまだ解いていない他の中学生達も一斉に反応する。
彼女達の行動に善吉は思わず声を掛けたが、協力プレイは禁止されていないと一蹴されてしまい口を閉ざした。

月に一度開催されるオリエンテーション。今回のカリキュラムは箱庭学園を舞台にしたトレジャーハンティングだが、成り行きで現生徒会役員も参加することに。
球磨川の副会長の腕章は勿論欲しいが、景品を女子の裸エプロンと抜かした球磨川だけは絶対に優勝させたくない。そう強く思いながら、善吉は手にある暗号文に再び視線を落とした。


「ひゃうっ!?」


びたん、という派手な音に振り向けば、すぐ後ろで転倒している中学生の姿が目に入る。
研修が始まってまだ一週間しか経っていないが、最早お馴染みの光景になりつつあるなと善吉は転んだ少女に手を差し延べた。


「大丈夫か?黎守」

「はうぅ…大丈夫ですぅ…」


ありがとうございます人吉先輩、と差し延べられた手に掴まり立ち上がる後輩のなんと可愛いことか。いや、俺にはめだかちゃんがいるし可愛いっていっても後輩としてだからな、と誰に言う訳でもなく善吉は弁明した。
見ると少女の膝は血が滲んでおり、眉を顰める。少女の腕や足には生傷が絶えず、その白い肌には絆創膏や包帯が常に鎮座している。ドジっ子属性と言えば可愛らしいが、こうも怪我してばかりだとこの少女の行く末が心配になるのも当たり前だろう。


「あいちゃんまた転んだの?大丈夫?」

「全く、普段からあれ程気をつけろと言ってるだろう」

「(大丈夫?痛くない?)いつもいつも馬鹿じゃないの?」

「大丈夫ー?あいちゃんって、本当良く転ぶよねー」

「宜しければ、これをお使い下さい」

「あうぅ、みんないつもありがとですぅ」


みんなに囲まれて心配されている少女の姿に、本当彼女達は仲良いなと善吉微笑ましく思う。


「…って、あれ?」


微笑ましい光景にささやかな違和感。一週間の中でこの様な光景は何度か目にしているが、何かが引っ掛かる。それが何なのか、善吉は糸を手繰ろうとして――


「人吉先輩?」


名前を呼ばれ意識を浮上させると、思いの外少女の顔が近くにあり、慌てて仰け反る。
そんな善吉の様子を見て、少女は驚かせてごめんなさいと申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「いや、気にすんな!俺がぼーっとしてただけだからよ」

「あうぅ、本当ごめんなさいですぅ…。人吉先輩は一緒に行かないんですか?球磨川先輩と喜界島先輩は来るみたいですけど…」

「…嗚呼、俺は自力で解いて追いかけてやるぜ」

「はわわ、人吉先輩凄いですぅ…!じゃあまた後で、ですね!」

「嗚呼。待ってろ、すぐ追いかけてやるから」


はい、と笑顔で駆け出す少女の背中を善吉は笑顔で見送る――その少女の口が三日月を描いていることにも気付かずに。


研修に参加する中学生達が元は5人しか居なかったことに、気付ける人間はこの場にはいない。



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財部ちゃんの台詞は、線引きのタグが反映してくれないので()で代用してます。すみません…


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