ブラウンシュガーな午後




「なじみちゃーん!こっちこっちー!」


とあるファミレスの一角。
先に席に着いていたひめが、今し方到着した安心院を自分の席に呼ぶ。
黒のゴシック調の服を身に纏うひめと、アルビノの様な髪と瞳を持ちその色と同じ巫女服を纏う(しかもその身体には何本も螺子が刺さっている)安心院が、変哲のないファミレスに来店すれば周りから好奇の眼を寄せられそうなものだが、周りの客は二人のことを気にもせず自分達の会話に花を咲かせている。
周りの人間達の眼にはゴシック調の服を纏うひめも、巫女服を纏う安心院も、全て普通としか映らない。

違和感も異物感も、彼女達の前には消失えて失せるしかないのだから。


「ビッグパフェは時間掛かるみたいだから先に頼んじゃった。なじみちゃんは何頼む?」

「うーん。僕はお腹空いてないしドリンクバーだけでいいかな」

「半纏くんは?」

「彼も同じで良いそうだよ」


店員に注文した後、ひめはドリンクバーからドリンクを三つ席へ運んだ。そしてその一つを安心院の傍らに後ろ向きで立ち続ける彼に渡す。
ボックス席に座ってる少女達の傍らにただ立っているだけの青年。彼の姿もまた端からみれば異質だが、それも――


「以下略なんだぜ」

「…?どうしたの、なじみちゃん」

「いや、読者の皆さまが同じ事を二度も読まないようにしただけさ」

「……時々、なじみちゃんの言うことよく分からないや。ジャンプとかさ。なじみちゃんも好きだよね、彼みたいに――」


カラン、と氷が小さく音を立てる。


「彼って、誰のことだい?」

「彼?えっ、と……誰だったっけ?誰かジャンプ好きな人居たと思うんだけどなぁ」


それはきっと気のせいだよ。
顔をテーブルに近付けストローでジュースを啜る安心院がそう言えば、ひめは首を傾げながらも思い当たる人物は出てこなったようで納得した。
暫し沈黙が続く。何故だか妙な空気が漂っていたが、それを知らない店員の陽気な声が空気を読まずに割って入った。

運ばれた品に安心院は絶句しひめを見遣る。


「……ひめちゃん、もしかしてそれを食べるのかい?」

「え、食べない物は頼まないよ?」


店員がテーブルに置いていったのは、安心院が来る前にひめが注文したパフェ。
彼女の座高近くありそうなそのパフェはビッグという名に相応しい…いやそれ以上の大きさだ。バケツプリンの比じゃない。


「まるで半袖ちゃんみたいだねぇ」

「甘い物は別腹っていうでしょ?」

「(別腹ってレベルじゃねーよ)……食べづらくないかい?」

「私とパフェ上部の距離を消失しながら食べてるから大丈夫」


なんて過負荷の無駄遣いだろう、と安心院は内心溜め息を吐きながら黙々とスプーンを進めるひめを見遣る。まぁ彼女が幸せそうならいいかと生温る視線を送れば、その視線に気付いたひめは、口に運んでいたスプーンを安心院へ差し出した。
予想外のひめの行為に安心院は目をぱちくりとさせる。


「これ美味しいからなじみちゃんも食べてみて。はい、あーん」

「…あーん」

「どう?美味しい?」


舌の上でアイスクリームと生クリームがゆっくり溶けていく。甘い。酷く、甘い。胸やけがしそうなくらい。眩暈を覚えるくらい。けれどそれは、パフェの甘さだけではなくて――


「……なじみちゃん?」

「嗚呼、とても美味しいね。もう一口くれるかい?」

「うん。はい、あーん」



きっとそれは、禁断の果実を口にするような。



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