うそつきをさがせ



安心院さんから手のひら孵しを取り返した僕は目蓋を開く。
視界に入った光が眩しくて目を細めると、僕を覗き込むひめちゃんが見えて頬を緩めた。


「おかえり、禊くん」

「ただいま、ひめちゃん」

「…!禊くんが括弧つけてない!」


目を真ん丸くして驚くひめちゃんが可愛くて、彼女の頬を撫でる。頭の下にある柔らかい感触に、膝枕をしてもらっていることに気付く。僕が死んでから一週間程経っているだろうに、恐らくずっと膝枕をしててくれていたんだろう。
……全く、死んでいたのが悔やまれてならないぜ。

自身の姿に目を移せば、ボロボロで血まみれになっていたはずの身体が何事もなかったように綺麗なままになっている。
ひめちゃんには頭が上がらないなぁと思っていたら、ふと別れ際に言われた安心院さんの言葉が蘇った。


“ひめちゃんのこと、大事にするんだぜ”


安心院さんがなんであんなこと言ったのかは分からないが、彼女に言われるまでもない。ひめちゃんは僕にとって大事な女の子なのだから。
ひめちゃんの柔らかい太腿から離れるのはとてもとても名残惜しいけど、身体を起こして立ち上がる。


「行ってくるよ」


ひめちゃんは笑って頷いた。教室の扉に手を掛ける。その時、何故か急に不安に駆られてひめちゃんの方を振り返った。彼女は変わらずに微笑んでいて。


「『ひめちゃん、』『好きだよ』」


嘘。僕は大嘘憑きだ。だって本当はひめちゃんのことを、誰よりも何よりも愛しているんだから。
だけど、好きな子の前で括弧つけてしまうのが男の性ってやつだからね。仕方がないさ。
でも、めだかちゃんに勝ったら今度こそ僕は――


とん、

背中に軽い衝撃を感じ、扉に掛けた手を自分の腹部に回された腕に沿える。後ろを振り返るが、ひめちゃんの顔は俯いていて見えなかった。


「ひめちゃん…?」

「…………いかないで」


あ、今すごくきた。何処に、とかは聞く奴は漏れ無くみんな螺子伏せるぜ。
僕の腕に回された微かに震えるひめちゃんの腕に、不安ならと足を止めることも考えた。けれど、僕は勝ちたい。不幸なまま、幸せな彼奴等に勝ちたいんだ。


「ごめんひめちゃん、でも絶対勝って戻るから」


だから待ってて欲しいと伝えると、ひめちゃんは俯いたまま頷いて呟いた。


「わかった…私、ずっと待ってるね」


この時感じた違和感を、どうしてもっと気にしなかったのだろう。ひめちゃんをおいて会長戦に向かった事を、この後死ぬ程後悔する事になると――この時の僕は気付かなかった。



彼女との別れの時は、刻一刻と迫っていたというのに。




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