子守唄は聴こえない



「この曲は誰ー?」

「『僕僕!』『江迎ちゃんも一緒に歌おうよ!』」

「えっ、あの、私マイク持つと…」


戸惑う江迎に球磨川はやや強引にマイクを渡し歌い始め、それを見た江迎も戸惑いながら歌い出す。
勿論、彼女の持つマイクはじゅくじゅくと腐敗し続けたまま。
そしてそんな彼女等を横目に、志布志はテーブルに広げられた料理を口に運んだ。


――時を遡ること1時間前。
庶務戦を終えた球磨川とひめは、血の海に遊びに行っていた志布志達に誘われこのカラオケBOXへと足を運んでいた。
順番?何それ美味しいの?と言わんばかりに各々曲を入れる過負荷一同。
先程から球磨川がマイクを持っているのを頻繁に見掛けるが、きっと気のせいではないのだろう。


「お、これ美味いわ。ひめも食いなよ」


歌を歌う事に飽きた志布志は運ばれてきた料理に手を伸ばしていた。ピザの味に感動したらしく新しく手を伸ばし持ったそれを、向かいに座るひめへ差し出す。
そしてそれを口で受け取ったひめは美味しい、と顔を綻ばせた。


「蛾々丸くん、これ追加よろしく!」

「…分かりました。ひめさん、ドリンク何頼みますか?」

「えっと…じゃあアイスココア!」


ひめのドリンクの残りが少なくなったことに気付いた蛾々丸が問うと、ひめはメニューに目を通して少し悩んだ後、生クリームが乗ったアイスココアを選んだ。
ひめが笑顔で御礼を告げると、少し頬を染めた蛾々丸は素っ気なく返し何故かソファーの上に正座し電話で注文をし始めた。

そして注文が終わると同時に曲が終わり、新しい曲が流れ始める。


「あ、次はひめだ!怒江ちゃん一緒に歌おー!」

「えっひめさん、でも私…」

「大丈夫大丈夫!」


腐敗し跡形もなくなったマイクはいつの間にかひめの手に握られ、部屋に充満していた鼻につく腐敗臭も、まるで最初からなかったように消えていて。
ひめは江迎の手を取ると、マイクを持つ自身の手へ重ねた。


「ね、大丈夫でしょ?」


そう無邪気に笑うひめに江迎は涙腺が緩むのを感じ、振り払う様に頭を振ると笑顔でひめと歌い始める。
そんな様子を球磨川達は生温く、でも何処か優しげに見ていた――




「『そういえば』『折角ポッキーがあるんだからさ』『ポッキーゲームしよ「「台なしです(じゃねーか)!」」


最後まで言い終える前に蛾々丸と飛沫によってテーブルに伏せる球磨川。その様子を見ておどおどする江迎。なんてことはない、―13組生の日常の一齣。
その中哀しそうにみんなを見るひめの視線には、


誰一人気付くことなく。




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